福岡の泊まれる立ち飲み屋「STAND BY ME」。目指すのは触れあう、元気になる宿

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地域に貢献、日本人を元気にしたいとホステル経営へ


泊まれる立ち飲み屋「STAND BY ME」を経営するのは、3ヶ月間の単身赴任でそれまで縁もゆかりもなかった福岡市に惚れ込み、2012年4月に移住した貞末真吾氏。「泊まれる立ち飲み」という不思議なコンセプトには2つの思いがあるという。

「ひとつは今住んでいる地域に貢献、恩返しをしたいという思いです。移住後、縁あって鳥飼八幡宮という由緒ある神社の、でも神聖な土俵の上でDJをするようなファンキーな神主さんと知り合ったのですが、そこで転勤族が多く、氏子が減る現状を変えるために、神社に人を集めることはできないかと相談されました。それで2014年から始めたのが肉フェス(2016年からは肉の市)。境内で肉を食べ、音楽などを楽しむイベントで、初回1万人から年々拡大しており、2016年には4万人以上が集まるようになりました。移住時点では無職、知人もほとんどいない状況でしたが、このイベントを通じて人間関係が生まれ、仕事も広がってきました。その地元に賑わいを生むホステルを作ることで役に立てればと思っています」。

もうひとつの思いは日本人に元気になってもらいたいというもの。両親が創業したアパレルメーカーで働いていた貞末氏は採用を担当しており、毎年、数多くの学生に会ってきた。そこで気づいたのは、元気のない学生が多いということ。それでも採用は必要である。気にしつつも採用を続けていた貞末氏に衝撃を与えたのは、ニューヨーク出店のために参加した、バイリンガル人材採用のための就職イベント「ボストンキャリアフォーラム」。そこで会った日本人学生は好奇心旺盛で積極的、バイタリティに溢れていたと貞末氏。

「それまでに会った覇気の無い学生たちがこうだったら、どれだけ日本は変わるかと思いました。でも、様々な理由で海外に行けない学生もいる。だったら身近で海外体験ができ、外向きになれる場があったらと思うようになり、それを形にしたのがこのホステルです」。


左が貞末氏。東京で開かれた記者発表後の懇親会には身動きできないほどの人が集まり、交友関係の広さに驚かされた



立飲みメニューで福岡を案内するという発想


地域に貢献し、かつ旅行者に地元の店を知ってもらうという意味で考えられているのが地元の飲食店やキーパーソンなど、30軒余とコラボレーションしたメニュー。これには2種類あり、福岡の名店・人気店のレシピを再現、あるいはそこの商品を提供しているものと、STAND BY ME オリジナルの料理に福岡の名所・店舗・人物などの名まえを付けて提供しているものがあるという。

たとえば朝食で供されるグラノーラは前者で、地元で人気のFructusのもの。もちろん、MADE IN FUKUOKAの手づくり品である。ランチの唐揚げ、豚汁は薬院で行列のできる海鮮丼日ノ出のレシピのものだ。後者の代表例は「鳥飼八幡宮 山内宮司のねきだく揚げ出し豆腐」だろうか。それぞれのメニューに誰に由来するレシピかが分かるように記載されており、それを元に会話が生まれる仕組みになっているのだ。旅に行くと、どこに行って、何を食べるかは大きな関心事だが、ここではそれが自然に分かるようになっているのである。

店内ではバウチャー代わりに木札が使われる。1,000円で4枚渡されるのだが、飲み物、つまみはほとんどが1枚で足り、これなら若い人でも金額を気にせず、飲めるというもの。加えて貞末氏は木札を媒介におごったり、おごられたりという関係が生まれることを期待している。

「もう飲めない、食べられないと思ったら、余った木札をお隣さんにあげるという形で交流が生まれると良いなと思っています。おごってあげるというと敷居の高い行為のように感じますが、余った木札を『これ、使ってよ』というなら気軽。そこから会話が弾めば、さらに楽しいんじゃないかなあ」。


左上から時計回りにグラノーラの朝食、鶏唐揚げのランチ、バウチャー代わりの木札、そして木札4枚で楽しめるメニュー例



交流のきっかけを作るコースター


交流のきっかけとしてはもうひとつ、コースターがある。一面が白、もう一面が紺のコースターには文字が記されている。白い面にはI Love Sakesとあり、だから、Leave Me Alone(ひとりにして!)。一人で酒が飲みたい気分の時にはこちらを表にして飲んでいれば、誰も話しかけてはこない。

だが、反対の紺の面にはKanpai!とあり、Don’t Leave Me Alone(ひとりにしないで!)という言葉。一人旅で来たとしても誰かと話したい、交流したい時にはこちらを表にしていれば、周囲も話しかけやすい。立飲みや一人旅に慣れている人であれば、自分から周囲に溶け込む技もあろうが、そうでない人にとっては最初の一言は難しい。それが自然にできる仕組みなのである。

もうひとつ、若いうちにはありがちな、給料日前には毎月、フトコロが寂しくなるという人に嬉しいのが毎月24日に予定しているという企画。もちろん、タダで飲み食いできるというわけではなく、皿洗いをすると4枚の木札がもらえるというもの。時給換算すると決して高くはないが、店の人と、あるいは来店している人達と自然に仲良くなれ、かつ飲食もという仕組みである。ただ、多数の希望者が集まると収集が付かなくなる可能性があるのでは?と聞いたところ、その場合には他の仕事を他の日にやってもらうことも考えるとか。稼ぐためでなく、仲良くなるために働くという考え方が新鮮だ。


1階の立飲みカウンターとオープニングパーティーの賑わい



地元ゆかりのアーティストに彩られた室内


日本の主な観光地ではこのところ、宿泊施設建設ラッシュが続いているが、福岡もご多聞に漏れず。そのため、ここ3~4年ほどずっと物件を探してきたものの、現在の物件に巡り合ったのは2016年の3月。そこから各種企画を詰め、建物の内装等を検討と進み、オープンは2017年6月15日。建物は鉄骨鉄筋コンクリート造の3階建て。1階が立飲みスペースでカウンター席、テーブル席があり、全35席。そこで飲んだ後に階段を上ると、2階、3階に客室があるという仕組み。予約がなくても、当日空いて入れば宿泊できるから、旅人でなくてもご近所さんでも利用できる。

部屋はホステルらしく、男女共用、女性専用のいずれもドミトリーにツインの個室があり、それ以外には共用の水回り。室内で印象的なのはあちこちに飾られた地元アーティストたちの作品だ。建物1階のガラス扉には画家の田中健太郎氏が描いた木々や梟が来訪者を出迎え、室内壁面にはカラフルな作風で知られるイラストレーターイフクカズヒコ氏の男女が乾杯するイラストが楽しい時間を予感させるといった具合。その他、堀越千秋氏、沖健一氏、Kyne氏とテイストの異なる絵画が飾られている。

また、BGMも亀山みゆき氏、野俣洋明氏など地元ではそのセンスで有名なミュージシャン、DJがセレクトしており、五感で地元福岡の今を感じられる仕組みになっている。


上はイフクカズヒコ氏、下は田中健太郎氏。現場でそれぞれ制作してもらっている



地域ごとに可能? 地元を巻き込んだ宿


5月初旬から予約を開始、6月15日にオープンしてから約1ヶ月。「宿泊、ランチ、立飲みはどれも予想を上回る展開で、特に木札を利用しての立飲みは賑わっています」。

宿泊者はビジネスユースよりも、週末の福岡旅行、出張後の観光目的の延泊などが多く、男女比は半々。20代が中心という。宿泊者のほぼ100%が木札を使って立飲みを利用し、さらに木札を残しておいて朝食に利用というパターンが大半とか。ランチについては近隣のビジネスマン数人での利用が多く、木札効果か、早くもリピーターが見られるようになっているそうだ。複数のメディアに取り上げられたこともあり、「今、話題の~」と言いつつ、地元の人が出張で来福した人を連れてくるケースも。地元ではかなり話題になっているようだ。

ひとつ、面白いのはオープンを発表して以来、開業前の時点で「ウチでも開業してもらえないか」という問合せを複数受けたという点。宿作りにあたって行った地域とのコラボレーションが活性化に役立つと思われたのだろう。

「地元の人と作り上げる場にしたいと、いろいろな人に協力をお願いして実現したものですから、もう一度同じことはできません。ただ、福岡での2号店は考えていませんが、このやり方を他の地域でやるということはあり得るかもしれませんね」。

1996年以来、福岡市では自然増に加え、社会増(市外からの転入)もあって人口が増え続けている。ことにここ数年は移住者が増えているが、そこで目に付くのは福岡が好きで移住した人が情報を発信、それに惹かれてさらに移住者が増えるという現象。貞末氏の宿もそういう存在になっていきそうである。福岡の強みがこういう点にあると考えると、他のまちも何か、情報発信できるファンづくりの仕組みを考える必要があるのかもしれない。

STAND BY ME
http://stand-by-me.jp/


左上から時計回りに2階の供用スペース、ドミトリー、建物入口、個室



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