経済産業省が作成した「買い物弱者応援マニュアル」ってどんなもの?

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買い物弱者対策を円滑に進めるための「応援マニュアル」とは


都市部でも年々深刻化することが懸念されている「買い物弱者」問題については、「増え続ける買い物弱者、これからは大都市圏でも例外ではない」でその背景や現状、各地で進められている対策などを説明した。

それでは買い物弱者対策を進めるのにあたり、どのような視点が必要なのだろうか、またどのような課題があるのだろうか。今回は経済産業省がまとめている「買物弱者応援マニュアル」についてみていくことにしよう。

「買物弱者応援マニュアル」は経済産業省が民間に調査委託のうえで作成したものであり、第1版(ver.1.0)が2010年12月、その「新規事例、支援制度追補版」である第2版(ver.2.0)が2011年5月、内容を更新した第3版(ver.3.0)が2015年4月に公表されている。

第1版および第2版では合わせて24の取組み事例、第3版では22の取組み事例を紹介したうえで、事業の立上げ、継続、横展開などにおける工夫のポイントなどがまとめられており、買い物弱者応援・支援のために何らかの事業を始めようとするときに役立ててもらうものだ。今後の地域問題あるいは住宅問題を考えるうえでも参考になる部分があるのではないだろうか。


これからますます深刻化することが懸念される「買い物弱者」問題だが、国はさまざまな立場で対策を進めている。そのうちのひとつである、経済産業省が作成した「買物弱者応援マニュアル」について、課題も含めてみていくことにしよう。



古くて新しい「買い物弱者」問題


「買物弱者応援マニュアル」で紹介されているのは全国の取組み事例の中のごく一部にすぎないだろうが、これをみるだけでも「買い物弱者」問題はかなり古くからあることが分かる。移動販売は1985年から、高齢者向け宅配は1988年からスタートした事例が取上げられているのだ。

当初は農村・山間部、過疎地域などの問題だったものが、近年になって都市部でも顕在化してきたという事情もあるが、都市構造が変化することは何年も前から分かっていたことだろう。少なくとも30年以上前に一部で始まっていた取組み・課題に対して、いまだに有効な国の支援制度が設けられていないのである。

必要な対策、求められる対策も変わりつつある。「買物弱者応援マニュアル」の第2版までは、家まで商品を届ける、近くにお店を作る、家から出かけやすくする、という3つが買い物弱者対策の柱だった。それに対して第3版では、コミュニティを形成する、物流を改善・効率化する、の2つが追加された。

【買い物弱者問題に対する取組み】
□ 家まで商品を届ける(宅配、買物代行、配食)
□ 近くにお店を作る(移動販売、買物場の開設)
□ 家から出かけやすくする(移動手段の提供)
□ コミュニティを形成する(会食)
□ 物流を改善・効率化する(物流効率化による基盤整備)


買い物弱者問題への取組みの概要(経済産業省:買物弱者応援マニュアル ver.3.0より引用)



買い物弱者応援事業立ち上げ前の検討ポイントは多い


買い物弱者対策に関連する国の施策として、食品流通、流通政策、中小企業対策、商業活性化、地方創生・地域再生、過疎対策・地域力創造、ICT利活用、農村振興、物流効率化、国土計画、地域公共交通確保、社会福祉、高齢者福祉・介護予防、雇用対策(分類は総務省の調査結果による)など、さまざまな側面がある。

それらの中で地域に必要なものは何か、事業として成り立つものが何かを見極めることがスタートになる。買い物弱者支援事業としては食品関連が柱になるケースも多いだろうが、それに限定することなく「買物弱者応援マニュアル」第3版では、「事業をどう立ち上げるか」のステップとして、ニーズを把握する、地域資源や自社資源の棚卸しをする、事業計画を立てる、地域を巻き込む、の4段階を挙げている。

細かな内容の引用は差し控えるが、「買物弱者マップ」を作成することからスタートし、無料で使える公的設備や空き家などの活用なども指摘されている。継続可能な仕組みを考えること、行政や住民と連携して必要な協力を引き出し、役割分担ができる仕組みをつくることなど、事前に検討すべきポイントは多い。

また、「買物弱者応援マニュアル」第1版では「身の回りで使える設備は何でも使うつもりで、最大限に有効活用しましょう」という提言がされている。営利目的の使用が制限されていた公民館についても、1995年の文部省通達で「一定の要件のもとであれば営利事業者が公共的利用をすることが可能」との見解を示しているという。公民館以外にも柔軟な対応が可能になっている公共施設は多いだろう。


買い物弱者マップのイメージ図(経済産業省:買物弱者応援マニュアルver.2.0より引用)



買い物弱者応援事業は、その継続が大きな課題に


事業を立ち上げた後は、それをどう継続するのかが課題になる。「買物弱者応援マニュアル」第3版の「事業をどう継続するか」の項目では、売上向上、コスト低減のポイントなどについてまとめられている。

売上の向上については客数の確保、客単価の向上、行政サービスなどの受託による収益源の多様化などが挙げられているが、実際の取組みにあたってはさまざまなアプローチが考えられるだろう。「買物弱者応援マニュアル」第1版で紹介されている事例では、対象商圏が半径300mのわずか150世帯ながら、日販10万円を達成しているミニスーパーもあるという。

また、移動販売車が撤退するケースも少なからずある一方で、「移動販売車が来てくれるのなら買う」という住民側の「買い支え」の意識が醸成されている事例もあるようだ。買い物弱者への支援を継続するためには、買い物弱者側が事業者を支援することも考えなければならない。

総務省が2017年7月19日に公表した「買物弱者対策に関する実態調査」をみると、調査対象の取組みのうち収支が「黒字または均衡」なのは45%にとどまる。赤字の取組みのうち一部は補助金などにより補填しているほか、赤字を自己負担して取組みを継続している例もあるという。また、約1割は事業の継続を断念したほか、住民がボランティアとして運営に参加することで人件費を削減し、事業を継続している例もあるようだ。地方公共団体などが財政難で補助金を打ち切れば、途端に行き詰まるケースもあるだろう。

だが、事業コスト、人件費の低減を意識するあまり、無償のボランティアに頼りすぎたり、従事者の過重労働につながったりすることは避けなければならない。従事者に「やりがい」を持たせるような仕組みも重要だと考えられるが、残念ながら「買物弱者応援マニュアル」ではあまり触れられていない。


「移動販売車が来てくれるのなら買う」という住民側の「買い支え」の意識が醸成されている事例もあるようだ



国にも「連携」を求めたい


「買物弱者応援マニュアル」では、事業者、行政、住民が互いに連携して役割分担することの重要性も指摘されている。事業の立上げから継続まで、互いに協力し合わなければ対策をうまく進めることはできないのだ。

だが、この「連携」は国にも強く求めたい。買い物弱者対策について現状では明確な所管府省がなく、内閣府(地方創生等)、総務省(過疎対策、地域ICT推進等)、厚生労働省(高齢者福祉等)、農林水産省(食品流通等)、経済産業省(流通政策、商業振興、中小企業振興等)、国土交通省(物流改善、国土計画、地域交通確保等)により、個別に進められている状況である。

そのため、総務省が2017年7月に公表した「買物弱者対策に関する実態調査」でも、「買物弱者対策を中心となって取りまとめる府省なし」「一部の府省が国及び地方公共団体の補助事業等の一覧を取りまとめているが、網羅的なものとなっていないため、その全体像は必ずしも明らかになっていない」と指摘したうえで、「国に特段の連携態勢もなし」と断じている。

さらに、厚生労働省に対しても「移動販売の許可の取扱い及び移動販売車の設置基準の設備基準の見直しについて、都道府県等に周知する必要あり」と注文を付けているが、総務省の調査自体もあくまで実態の把握にとどまり、総務省がリードして買い物弱者対策を推し進めようとするものでもない。

経済産業省も買い物弱者対策の主管ではないため、継続的な補助事業は難しいようだ。2010年度から実施されていた買い物弱者支援事業に対する補助金交付なども、「補正予算による単年度事業」だとして2015年度以降は実施されていないのである。「随時更新する」(経済産業省)とした「買物弱者応援マニュアル」も、2015年の第3版以降は更新されていない。

買い物弱者の問題が今後さらに深刻化することは避けられないだろう。国が補助をすればそれで良いというものではないが、さまざまな対策を円滑に進めていくうえで所管府省を明確に定め、関係府省がしっかりと「連携」して欲しいものである。


買い物弱者の問題が今後さらに深刻化することは避けられないだろう



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