京都アートホステル「クマグスク」。芸術を越えて社会と関わっていく、宿泊施設とプロジェクト

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ひとつの疑問から生まれたホステル「クマグスク」


アートホステル「クマグスク」ができたのは、約2年前。個性的な宿泊施設が、我も我もという勢いで増えている京都の中でも、ひときわ鮮やかに輝いているホステルだ。

「クマグスク」は、宿泊型のアートスペースで、通常の美術館の展覧会と同様に会期が設けられている。各部屋や共用スペースなど、ホステル全てが展示空間として活用され、アート作品が展示されている。チェックイン後や寝る前など、自分の好きな時間に作品を鑑賞することができるのが魅力だ。
運営しているのは、美術家の矢津吉隆さん。芸術大学で教鞭を取っているだけでなく、最近では、町家再生プロジェクトやアーティスト向けの不動産企画に関わったりと、柔軟に様々なプロジェクトに関わっている。

「クマグスクを始めた頃は、自分たちつくり手と鑑賞者との距離感が掴めなくなっていた時期でした。個展で作品を発表しても、現場に立ち会えないことも多く、鑑賞者が作品に関してどう感じてくれたのか、生の声が届かないというフラストレーションがあったんです。届かないのなら、何の為に作品をつくっているのか分からない。もっとアーティストの手元で作品を体験してもらいたい、直接反応を見れる場所が欲しいという想いから始まったのがクマグスクでした。」


阪急「大宮」駅から徒歩5分程。静かな住宅地の中にクマグスクはある。取材時は、『「切断」のち「同化」』の会期中。フロントで出迎えてくれたのは、芸術大学卒業のスタッフだった



やってみたことで進み始めた。様々なプロジェクト


クマグスクは大きな反響があった。アート好きや旅行者などが作品に触れ、アートが一体となった空間の中で、矢津さんを介しながら、自然と会話ができる機会と場も生まれた。クマグスクが周囲に認知されていく中で、次第に矢津さんへの仕事の依頼も増えた。不動産、建築、デザイン、地域プロジェクトなど様々なジャンルの人が、”何かアイデアが欲しい”、”企画を助けてほしい”と矢津さんの元を尋ねてくるようになった。

「クマグスクができた後に、実はすぐ次のアイデアが生まれ始めていました。映像と宿泊施設を組み合わせてはどうか、というものです。映像は、時間を内包している芸術。同時に、宿泊施設には家や日常とは違う時間が流れています。この環境に映像の持っている時間を、意識的に空間に埋め込んでいくと面白いのではないかと考えたのです。旅先で感覚が開かれている状態の中で、アートという表現を受け入れてもらいやすい環境も整っています」


矢津吉隆さん。多忙な仕事の合間を縫って、昨年は積極的に個展を行った。「美術家としての自信も再度持ち直すことができました。」



現代美術における映像作品の問題点


もうひとつ理由にあったのは、現代美術における映像作品の問題だ。瀬戸内国際芸術祭や越後妻有 大地の芸術祭などの地方での芸術祭や、大型展覧会などで、かなりの数の映像作品が出展されている。30分のものから6時間のものまでと、尺も幅広い。けれど実際に鑑賞する側に立ってみると、スケジュールが限られた時間の中で、全てを鑑賞することはなかなか難しい。矢津さん自身も、しぶしぶその場を離れなくてはならず、後ろ髪を惹かれる体験をしたことがある。

現代美術における映像作品は、映画のように、映画館で上映される機会も無い。だからといって、スマホやPCで見てもらうのも作者の意図と反する。では、もっと豊かでゆっくり見られる環境をつくってはどうか。それは、現代美術の問題点から浮かび上がったアイデア。アーティストだからこそ見えてきたことだった。


1階はフロント、朝食フロア。2階はドミトリーと個室の計4室とギャラリースペース。開放的な中庭が印象的だ。時間を気にせず、落ち着いて作品に向き合える



京都だからこそ、できた


アイデアが浮かんでから、話は面白いように進んでいった。信頼できる建築家やデザイナーなどを集めて企画会議を定期的に開催。最大限のアイデアをつくりあげた。
プランをあたためながら機会を待つ中、あるとき、矢津さんの元に、地元の京都信用金庫が主体となって始めた地域活性化プロジェクト(朱雀協働計画)へのお誘いがあった。プロジェクト会議が進む中、そのメンバーである工務店さんから、自社が所有する土地の活用について相談を持ちかけられることがあった。そこで、あたためていた企画のコンセプトを提案したところ、これが大好評。「ぜひやってみましょう!」ということで、具体的なプロジェクトに発展し、実際に事業化していくこととなった。

「文化的な素地が築かれている京都だから、ここまでスムーズに進んだのかもしれません。街を面白くしようと動いているキーマンはどの街にもいます。そういった方達とジャンルを超えて関わり合うことで、うまく広がっていくんだと感じます。自分がずっと関わっているアートが社会に対してアプローチできる手段のひとつになりうる可能性を、今感じています」


階段、部屋の入口、部屋の中にまで作品が置かれている。静かな環境の中、ホステル中を回って好きな時間に体感できる



新しい形でのアーティストによる社会貢献


2018年秋にオープン予定の新しい宿泊施設の名前は、「kumagusuku B.C.」。物件は、敷地面積は約100坪の駐車場を活用。地上4階建てのRC造で、客室数は14部屋。大小4部屋の展示室も兼ね揃えた、美術鑑賞施設併設型宿泊施設が新築で完成する。映像を芸術の起源から振り返るテーマから、VR(バーチャルリアリティ)を活用した、展覧会のアーカイブが体験できる部屋など。映像の可能性だけでなく、社会に向けての問題定義をからめたものなど、幅広くチャレンジングな企画が、どんどん持ち上がっている。

「美術のための美術では面白くない。常に外へ。社会とどうか変わっていくかということに興味があります。アーティストは、作品を売るだけで食べられないという状況は、何十年も続いています。ならば、アーティストの力を発揮できる別の場所や、やり方を前向きに考えていくべきだと。
 アーティストは作品作りの中で、様々なものの捉え方をします。その素質を活かして、社会の関わりの中で、思わぬ発想や新しい視点を持ち込むことができるのではないでしょうか。また、アーティストの活躍の場として認識してもらうという過程の中に、アートが社会と共存できる可能性を秘めていると思います。京都の芸術系の大学では、毎年3,000人の卒業生を輩出しています。そういう卒業生にとって、京都での仕事の受け皿、働き方の一例として広がっていけばと願っています。」


展示会のインタビューや記録画像もヘッドホンで聴ける。インタビュームービーも、クマグスクのオリジナルだ



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