秩父の山を守れ。「メープルベース」が発信するカエデを活かした“伐らない林業”と”第3のみつ”

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秩父の山をいかにして守るか。
カエデに着目し、木を伐ることなく森林を継続的に活用できる方法を模索


政府が森林保全の財源として、住民税に1人あたり年間最大1000円を上乗せし広く負担を求める新税「森林環境税」を創設する方針を固めたという。国内の森林は零細な所有者のもとで放置されていることが多く、手入れが行き届かない森林を市町村が税金を使って管理する新たな仕組みをつくる方向で調整に入っているようだ。

政府が新税の導入を検討するほど日本各地に荒れた森林が増える中、独自の、そして独創的なアイデアを活かして山を守り、地域活性化に活かしている事例のひとつが埼玉県の秩父。
その主役となっているのがカエデだ。日本全国で28種類と言われているカエデの75%、21種類のカエデが秩父には自生しているという。秩父では以前からカエデの樹液やメープルシロップなどを使った商品が生み出されており、主に地元で消費されていた。

このカエデを使った商品を全国に発信することで地域活性化に役立てると同時に、山の持ち主とNPO法人などが連携してスギやヒノキの「伐る林業」とカエデの樹液を採るための「伐らない林業」の複合化を目指した取り組みが行われているという。そこで、秩父のメープルブランドの発信地「MAPLE BASE(メープルベース)」の起ち上げに関わり、商品のプロデュースなども行うTAP&SAPの井原愛子さんに、地域活性化や山を守る取り組みについてうかがった。


もともとはゴルフ場の一施設として使われ、その後秩父市の「花の回廊管理事務所」として使われていた建物を改装した「メープルベース」。ミューズパーク第3駐車場から歩いて10分ほど。季節ごとに表情を変える美しい銀杏並木沿いに歩いて行くと到着する



スギやヒノキを伐った跡地にカエデを植樹。森を守りながら地域の魅力発信のアイテムに結びつける


カエデが秩父の森を守ることにどのように役立つのかを井原さんにお聞きした。

「『人が1回関わった森は関わり続けないとダメになる』といいます。秩父でも、道から近く木を伐り出しやすい場所にはだいたいスギやヒノキが植えられています。しかし、そのスギやヒノキをどうやって収益に結び付けるかが大変で、道をつくり木を伐りだしても、様々な手数料などを引かれると地権者にはスギの木1本あたり1000円未満のお金しか入りません。しかもねじれたり曲がっていたりしたらマイナスになってしまう状況では、木を伐って出すという大変な作業をしたがらないのは当然といえるかもしれません」と井原さん。

そこで秩父の人たちが目を付けたのが、秩父の山の個性ともいえるカエデだった。2012年に秩父樹液生産共同組合を設立、秩父観光土産品協同組合とも連携し、カエデの樹液生産が始まった。
秩父では5種類のカエデから樹液を採取。本場カナダのメープルシロップにも劣らない風味、またカナダ産にはないカリウムやカルシウムといったミネラルを多く含んでいるのが特徴だ。また1本ずつの樹液量や成分分析、エリアごとの気温などのデータを記録することで森づくりに活かしている。スギやヒノキと違いカエデの樹液事業は「伐らない林業のモデル」として全国から注目を集めているという。

「私たちはスギやヒノキを切った跡地にカエデを植樹しています。そのような森が私たちにとって理想の森ではないかという仮説のもと、スギやヒノキの森の中に伐採しなくてよいカエデを植えることでバランスを見ながら森づくりを行っています」

また、このような取り組みに賛同する住宅メーカーが現れたという。
「東京・世田谷にある伊佐ホームズという会社なのですが、秩父の山から伐り出した木を製材所などと連携し、誰の山のどの場所で伐ったか、どういう形で製材してどの家のどの場所に使うかなどを一元管理して木を買い取ってくれています。森の手入れに結び付くほか、地権者に還元できる金額が全然違うというメリットもあります」

またスギやヒノキを伐った跡地にカエデを植える際、伊佐ホームズで家を建てた施主が参加し、自分たちの家に使われた木が伐って終わりではなくカエデの森として再生していることを実感できるイベントも行われている。
「今カエデを植えると樹液が採れるまでに15年~20年かかります。お子さんが植えたら樹液が採れる頃は大人になりますし、今後はカエデのオーナー制度なども考えています。都会に住んでいる人たちは山と接点を持ちにくいので、森への理解を深めるためのエコツアーなどのイベントも考えているところです。木を伐る林業と伐らなくていい林業をうまく融合させながら資金を確保し、カエデを育ててその量も増やしていきたいという、遠い将来を見据えながら活動しています」。


NPO法人秩父百年の森のホームページに掲載されている「活動紹介」。秩父ではNPO法人秩父百年の森などのいくつかの団体が中心となり、森林整備活動、森とまちをつなぐ交流活動、森に学ぶ環境教育支援活動、カエデ樹液プロジェクトなど地域活性化事業などに力を注いでいる



秩父の山を感じ、食事が楽しめ、お土産が買える「メープルベース」を立ち上げ


秩父市のミューズパーク内にある「メープルベース」。
ここではメープルシロップを始めとした秩父の自然の恵みを味わえるほか、様々な食品を販売している。また、日本初のシュガーハウスとしてメープルシロップ製造機械、エバポレーター(蒸発機)の見学も可能だ。季節に合わせて様々なイベントやワークショップの開催が行われるなど、秩父のメープルブランドの発信拠点となっている。もともとは西武グループが開発したショートコースのスタートハウスで、その後は秩父市の施設となっていたものを改装して店舗にしたものだ。

メープルベースは2016年4月にオープン。そのプロジェクトに当初から関わった一人が井原さんだ。井原さんは3年ほど前まで会社員で、地元である秩父に愛着はあったものの「Uターンをする気は1ミリもなかった」と笑う。仕事は楽しかったものの、徐々に大きな組織の中で「枠組みの中の限界」を感じるようになり、そんな時にふと地元のメープルの活動を思い出したそうだ。

「テレビや雑誌でも取り上げられていましたし、商品があることも知っていました。ただ『そういうものがあるんだ』で終わっていたものが、ふと『もっと知りたい!』と思ったんです。活動に参加してみると、学術的に裏付けられたものすごく高度な内容のことを年配の方を含め皆さんがすごく楽しそうにやっていて(笑)。秩父のメープルを地域内だけでなくもっと広めるお手伝いをしたい、今まで培ってきた経験をきっと活かせると考えて会社を辞めました。この活動をしなかったら絶対に後悔するという想いがあったので決断は早かったですね」

井原さんが感じていたのが、ポテンシャルの高い秩父のメープルをはじめとした数々の商品を地域の中だけで消費し、興味のある人向けに開発できていないというジレンマだった。そこで、もともと秩父の中で売られていた「第3のみつ」を井原さんを中心にパッケージや名前を変えるなどブランディングやマーケティングを行い、大々的に商品化したのが「秘蜜」だ。「第3のみつ」とは何か、次段落で紹介しよう。


木のぬくもりに満ちたメープルベース内観。食事ができるほか、メープルシロップ、「秘蜜」などの食品、</br>オリジナルグッズなどが販売されている。市の施設だった建物を改装して素敵なお店へと甦らせた



従来の2種類のはちみつではなく、ミツバチがジュースを食べてできる「第3のみつ」


「第3のみつ」とは、NPO法人秩父百年の森と埼玉県立秩父農工科学高校食品化学科、埼玉大学等の関係者との共同研究から生まれた新しいはちみつのカテゴリーのこと。
はちみつの国際規格では、植物の花蜜に由来する「花はちみつ」「花蜜はちみつ」と、主にヨーロッパでつくられている植物の汁液を吸う昆虫の代謝物質に由来する「甘露はちみつ」をはちみつと定義している。この2つが第1、第2のはちみつ。これらのはちみつと異なり、自然の花蜜に加え、カエデの樹液や果実、野菜のジュースをミツバチが食べてつくられたものを「第3のみつ」といい、「新規ハチミツの製造方法及び製造されたハチミツ」として特許を取得している。

「国内で消費されるはちみつの9割以上は輸入はちみつ。養蜂家もはちみつによる収益ではなくポリネーション(ミチバチに果樹や野菜の運ばせること)でハチを果樹園や農家の方に貸したり売ったりすることによる収益の方が圧倒的に多いといいます。大規模な養蜂家は花の咲いている場所に合わせて蜂箱を移動させながらはちみつを採っていますが、環境負荷、人的負荷も大きくなります。その点私たちが行っているやり方なら、花が咲いていなくてもジュースを与えることで蜜を採ることができます」

養蜂家や蜜源の減少により年々厳しさを増す日本のはちみつづくりを打開するために、井原さんたちが目指すのが「森林養蜂」。ミツバチが蜜を集めて受粉するような木が増えることで、その木になった実が動植物のエサになる。カエデなどの落葉樹はスギやヒノキと異なり落ちた葉が森の環境を豊かにする。人家の近くだと苦情が来る可能性がある養蜂も、森の中なら問題にならない。そんな「森林養蜂」の実現を目指す「第3のみつ」の取り組みが、日本の未来の養蜂スタイルになるかもしれない。

またミツバチにジュースを与えるというやり方が、生産者の役にも立っているという。
「せっかくつくった果物も傷があったら売り物にならないため、捨ててしまうことが多々あります。しかしジュースにしてミツバチに与え蜜をつくるという方法はオリジナルのブランドになり付加価値が付きますし、産地でコラボレーションできるかもしれません。色々な問題解決につながるこの蜜の作り方を通して問題提起ができればいいと思います」


メープルベースでは「秘蜜」を始めとした秩父の恵みを販売。同時に食事も楽しめる。「季節のパンケーキ(3枚1000円)」に「秘蜜(150円)」をかけていただいた。「秘蜜」は雑味がないうえ、かなり濃厚。ほのかに感じる果物のフルーティーな味わいのせいか、はちみつより食べやすい感じがした。「バナナや人参、トマトなど、普通のはちみつでは絶対にありえないフレーバーもあるので、様々な味わいを楽しんでいただきたいですね」と井原さん



「地域活性化のポイントは、進むべき未来を描きながら信念を持って続けること」


秩父市の人口は約6万5000人。
「移住などに力を注いでいますが人口は減少していますし、高齢化も進んでいます」と井原さん。
秩父の魅力について、神社や仏閣など歴史・文化的史跡の豊富さ、有名な祭りがあるなど、他の地域と比べてコンテンツが豊富ではないかと話す。近年では映画「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」や「心が叫びたがってるんだ。」の舞台となるなど、映画に関する様々なイベントや「聖地巡礼」で若者の観光客も増えているそうだ。

「3~4年前に比べ、若い人がお店をオープンさせることが増えたと実感しています。西武鉄道も頑張って秩父に人を呼び込もうとしていますし、観光地として進化している手応えを感じています。一方でまだまだ名だたる観光地と比較して整備されていない部分もあると思いますし、持っているポテンシャルを活かし切れていないもどかしさもあります。来てくださった方が楽しめ、また違う季節に秩父に来てみたいと思ってもらえるようにすることが大事ではないでしょうか」

地域活性化について、どのような想いがあるか、どのような点に気をつけているのかをお聞きした。私が偉そうに話すことではないですがと前置きしつつ、「事業に取り組めばいいというものではなく、続けていけることが大事だと思います。秩父でも総務省の地域経済循環創造事業交付金などの補助金をいただいていますが、補助金ありきではなく、どういう未来に進むのかを描きながら人的なこと、金銭的なことを考えながら続けていけるかが重要だと思います。田舎なのでリスクは多いものの、その反面やれることも多く、可能性はあると信じています」

都心から秩父に行くには、池袋駅から西武秩父駅まで特急で1時間20分ほど(特急料金込みで1480円)。カエデを活かした「伐らない林業」、第3のみつ、様々な観光資源のPRによる集客など、秩父が今後どのような発展を見せるのかを楽しみにしたい。秩父に行った際には「メープルベース」に足を運び、「秘蜜」など秩父の恵みを味わってみてはいかがだろう。

■取材協力:TAP&SAP/
http://tapandsap.jp/

■メープルベース/
http://tapandsap.jp/maplebase/

■NPO法人秩父百年の森
http://www.faguscrenata.com/


お話をうかがったTAP&SAP代表の井原愛子さん。「様々なイベントの際にボランティアを募集したのですが、活動に協力してくれた方がNPOのメンバーになってくれたりした時は本当に嬉しかったですね。継続的に連絡を取って遊びに来てくれる仲間が増えてきたこともモチベーションを高めてくれますし、少しずつ地域の内外の仲間が増えてきたことが励みになっています」



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