日本で「アイクラー・ホーム」を建てる。~ミッドセンチュリーの建て売り住宅と家具に魅せられた夫婦がたどり着いた住まいの形~

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海外の平屋を日本で再現。ミッドセンチュリーの建て売り住宅アイクラー・ホームを新築


「アイクラー・ホーム」をご存知だろうか。
建築したのは、アメリカの住宅建設業者ジョーゼフ・アイクラー。ポスト&ビーム(支柱と梁)構造を基盤とした住宅で、1950年の半ばに建築のピークを迎えた。カリフォルニアを中心に定着した建築スタイルで、当時の年間建築数は900ユニット以上にのぼったというが、日本ではあまりメジャーではない。

アイクラーについて書かれた1999年に出版された書『アイクラー・ホームズ「理想の住まいを探して」』(※)によると

""「アイクラー氏は、それ以前にもそれ以後にも建てられたことのない種類の家を作った―ごく平均的な財力の個人向けに、クラシックなスタイルをもちながら賞の対象となるような、建築家の設計による家を作って売ったのだ(中略)"アイクラー現象"と呼ばれるものが始まって45年ほどになるが、今なおそれは鮮明に記憶されている」””

とある。建築家が設計したデザイン性の高い家(主に平屋)を、建て売り住宅として販売したのがアイクラー氏だったという。さらに

""「アイクラー住宅に見られるガラス張りの壁やオープンな間取りが―今日でこそさほどめずらしくなく、奇異には見えないかもしれないが―45年前のごくふつうの建て売り住宅としてはきわめて例外的で、非常に毛色の変わったものだったということだ」””

とも書かれている。当時の宅地開発業者がコストがかからない無難なデザインを選ぶ中、アイクラーのこだわりが新しい建築スタイルとして人気になっていったようだ。

このアイクラー・ホームに憧れて、2017年11月に自宅を建築したご夫婦が名古屋にいた。
「アイクラー・ホームの完全コピーを目指した」という新築のお宅を拝見しつつ、その魅力について伺った。


※『アイクラー・ホームズ「理想の住まいを探して」』J・ディットー+Lスターン編・旦敬介訳(1999年フレックス・ファーム)


長崎さん夫婦が訪れたアメリカのアイクラー・ホーム。写真提供:長崎さん



公道に対しては閉鎖的な反面、一歩入れば開放的な空間が広がる


名古屋市内の小高い丘陵地に建つ長崎海彦さん・美和さん夫妻の家は、薄くてフラットな屋根が特徴の平屋だ。
日本ではなかなか見かけない外観。とにかく屋根が低いのだ。しかし、空色に塗られた玄関ドアを開けると、突然開放感のある空間が広がり、おー!と驚く。

「これはアトリウムという中庭です。アイクラー建築が爆発的な成功を収めるきっかけになったアイデアで、アイクラーを象徴するデザインなんです」と長崎さん。
屋内と屋外をつなぐこうした空間は“インサイド・アウトサイド”と呼ばれ、アイクラー独特のデザインとして定着しているのだそう。

そして、玄関に入るとすぐリビングが広がる。22畳あるというリビングがそれ以上の広さを感じさせるのは、開口部のほとんどがガラス張りになっているから。デッキに出入りするガラス扉のほかにも、通常なら壁になっていそうな場所もFIX窓で仕上げている。

「ここまで開放的な空間を作れるのは平屋ならではのメリットなんです。2階建てにしてしまうと強度を出すために筋交いや柱が必要になって必然的に壁の面積が多くなってしまいますから」と美和さん。
通常なら家の角は壁になっているはずだが、このリビングでは角もガラス張り。それも空間を広く見せるアイクラーならではの設計なのだそう。

また、床が地面とほぼ同じ高さというのも部屋を広く見せている理由だと美和さん。確かに玄関からリビング、デッキに出るまでどこもフラットだ。
「上がらないことで地面との一体感を出しているところもアイクラーの特徴です」(長崎さん)


写真上:玄関ドアを開けてすぐ広がるアトリウム。急に広がる開放的な空間は斬新な驚きを与える。この空間を囲むようにキッチン、リビング、書斎、子ども部屋が配置されている<br>写真下:リビング奥の角までガラス張りにしたことで、実寸以上の広さを感じられるリビングに。一部のガラス面はあえてLow-E(遮熱・断熱機能付き複層ガラス)にはせず、陽射しが入り込むように設計されている



アメリカのオープンハウスを訪れ研究。アイクラーの哲学を踏襲した家づくりを目指すことに


アメリカのヴィンテージ家具やミッドセンチュリー家具を扱う店を経営する長崎さん夫婦。そもそも、なぜアイクラー・ホームだったのか―。

「家を建てようという気持ちになったとき、日本の住宅で参考にしたい家がなかったんです。仕事でアメリカに行ったとき、こんなすごい建て売りがあるということを初めて知りました。日本でまったく知られていないのはもったいないぞ、と。まずは自分たちで建ててみて、広めていけたらと思っているんです」
と話す。

ミッドセンチュリーの住宅に魅せられたご夫婦は、アメリカでオープンハウスを幾度も見学し、知識を深めていったという。
「メジャーを持って行って、現地の不動産屋さんがいる前で、間取りや収まりを測ったりして、変な日本人だなと思われていたと思います(笑)。そのおかげで、どんな専門家よりも詳しくなったんじゃないかな」という長崎さん。アイクラー・ホームの特長を教えてもらったのでまとめておこう。

◆平屋である
◆室内と屋外の境があいまいである
◆公道などパブリックスペースに対しては閉鎖されている一方、プライベートエリアに対してはガラスを多用し、開かれた空間になっている
◆アトリウムと呼ばれる中庭がある
◆アースカラーの外壁に対し、エントランスドアは色味を持たせる

といったものが主なものだそう。

「第二次世界大戦の住宅ブームから火がついて、サンフランシスコでは10,000軒くらい販売された実績があるそうです。大規模な宅地開発にも携わっていたようで、ロスにはアイクラー・ホームが集まる区画もあります。人種差別が色濃く残る時代にどんな人種の人でも、高所得者じゃなくても手に入れられる家を作ったのがアイクラー。現地では、市や住まい手によって保護され、文化財のような扱いになっているんですよ」(美和さん)


長崎さん宅の外観。延べ床面積は約40坪。アイクラーの基本デザインであるポスト&ビーム(支柱と梁)構造を採用。この梁は部屋の中を通り、奥の軒まで続いている。雨の多い日本では勾配の少ない屋根はあまり好まれないなか、3%の緩い傾斜で片流れの屋根にすることでアイクラー・ホームらしさを表現している。写真提供:長崎さん



"家具からはじめる家づくり"という考え方


長崎さん夫婦が建てた家には、もうひとつ注目したいことがある。”家具からはじめる家づくり”という考え方だ。ご夫婦が家具店を経営しているからこその視点ともいえるが、なるほどと納得できる考え方で、これから家を建てるという人にはひとつの参考になるのではないだろうか。

「ミッドセンチュリーの家具って、サイズが大きいものが多いんです。だから間口が小さくて入らないとか、部屋に収まらないケースがけっこうあります。ヴィンテージ家具は一点もの。せっかく気に入ったものがあっても、そういった理由で諦めなくてはいけないのは残念だという思いがずっとありました。

家を新築する場合、たいていの人が家のプランが出来上がってから、家具を考えますよね。家が先、家具は付録、みたいな感じで。でも、”ここに収まるサイズの家具”を探すのではなく、リビングにはこの家具を置くと想定して、家具に合わせた間取りを考えていくほうが生活のイメージがしやすくなると思うんです。それに、必然的に動線も見えてくるので、部屋の配置も決まってきます。生活に密着した家具を後回しにするのではなく、家具を主役にして家づくりをするほうが自由さが増すと考えたんです」(美和さん)

たとえば、長崎さんのお宅でいうと2mサイズのテーブル、ユニットシェルフなど大型家具のサイズに合うように部屋の寸法や壁の面積を決め、圧迫感がでないようガラス張りの空間を作るといった具合に、家具を起点として家の全体像を決めていったという。

「テーブルの大きさや位置が決まっていると照明の位置も決まってきます。テーブルの真上に照明の電源を設置できるので、見た目も収まりもいいんです。ランプなど壁に掛けるのであれば、あらかじめ想定して電源を設置できますし、重たい壁付けのシェルフを付けることが決まっていれば、最初から下地を入れることもできるので、あとから大掛かりなリフォームをする手間が省けます」(長崎さん)。

これが、家具からはじめる家づくりのメリットだ。


写真左:2mあるテーブルの大きさに合わせてガラス、壁のボリュームを決定。照明もテーブルの真上にくるようにあらかじめ設計されている。写真提供:長崎さん<br>写真右上は書斎の壁に取り付けられたシェルフ。写真には写っていないが、入口の壁にはあらかじめ電源を埋め込み、ランプが取り付けられていた。右下はリビングのユニットシェルフ。大きくて重たいものは下地がないと後付けは難しい



驚きや贅沢が詰まったミッドセンチュリーの魅力


長崎さん夫婦がミッドセンチュリーの家具や建物に魅力を感じる理由を尋ねてみた。

「一言でいうと"豊かさ"でしょうか。言葉で表現するのは難しいけれど、あの時代の家って一歩入ったときに『うわー!』っていう驚きがあるんですよね。そういう豊かさを重視しつつ進化しているのがアメリカの住環境。
日本では戦争が終わって新しいものがどんどん入ってきて、急激に住環境もよくなったとは思うんですけど、機能性が優先されすぎて、画一的。驚きとか感動といった豊かさは見失われつつあると思います。家具にしても、ミッドセンチュリーのものはデザインも大らか。デザインや製作にもお金や時間がかかったものですし、そういう贅沢さが詰まっている。そこが魅力なんだと思います」(美和さん)

そんな豊かさを再現した長崎さんのアイクラー・ホーム。11月下旬の完成後、開催したオープンハウスには、沖縄、千葉、東京、和歌山、石川、静岡などからたくさんの人が見学に訪れたという。
日本でもアイクラー・ホームがメジャーになる日がくるかもしれない。

【取材協力】
パームスプリングス
http://www.palm-springs.jp/

ミッドセンチュリーハウス
https://www.midcenturyhouse.jp/


取材にご協力いただいた長崎さん夫婦。<br>丘の上に建つ家のデッキからは壮観な風景が広がっている。1.8mあるという軒は計算しつくされ、冬はリビングまで陽射しを取り込み、夏は遮る設計となっている。ほぼガラス張りになったリビングは、冬の取材時でもとても暖かかった



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