築30年のメッキ工場をリノベーション!ゆくい堂「ROUTE89 BLDG.」を見てきた

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台東区の住宅街に登場した「ROUTE89 BLDG.」


台東区は昔から続く観光の町で、江戸文化発祥の地。伝統技能や、かばんや靴などの地場産業に携わる職人さんが多くいる街でもある。その台東区の中心駅である上野駅から、徒歩3分ほどのところにある静かな住宅街。
この一角にある10年空家だった廃工場が、リノベーションにより「ROUTE89 BLDG.」(ルート89ビルディング)という複合ビルに生まれ変わった。

リノベーションを施したのはリノベーション実績の豊富な工務店、ゆくい堂株式会社。
工場をまるごと、ゆくい堂の事務所兼シェアスペースとレンタルスペース、店舗の複合施設にしたそうだ。
ゆくい堂は個人宅のリノベーションをメインとしながら、これまでビルやアパートの再生も手掛けてきた。その中でも必要以上に手を加えず、もとの建物のよさを活かし新しい建物へ"継ぐ"、「継がれゆく箱」というプロジェクトがある。このプロジェクトでゆくい堂が再生した建物はこれまで3つある。

清澄白河にある解体寸前だった築50年のアパートを複合施設にリノベーションした「fukadaso」(深田荘)、築80年の古民家をブックカフェ&ギャラリーに変化した西荻窪の「松庵文庫」、作家の三木公久さんの築40年の自宅と塾を兼ねたビルをシェアハウスにした「mikijuku」と、どの事例も全く異なり個性的である。

「継がれゆく箱」プロジェクト4つ目であり、工場をリノベーションした今回の「ROUTE89 BLDG.」も同様で、複合施設という一言では表現しきれない要素がつまっている。

4階店舗は2015年11月21日にオープンしたという「ROUTE89 BLDG.」はどのようにして再生されたのか?
ゆくい堂社長の丸野信次郎氏にお話を伺ってきた。


ゆくい堂株式会社が築30年の工場をリノベーションした「ROUTE89 BLDG.」。建物の看板は廃材を再利用して作られている



工場まるごとスケルトンからリノベーション


「ROUTE89 BLDG.」は4階建て、築約30年。建物を見て真っ先に目を引くのが赤く錆びた鉄の大きな扉だ。工場の面影と歴史をそのまま残した味のある、大きな鉄の扉の先には、ゆくい堂の事務所がある。

ゆくい堂は「ROUTE89 BLDG.」に移転する前、浅草に事務所を設けていたそうだ。今回の移転のきっかけについて、社長の丸野信次郎氏に伺った。
「もともと事務所が手狭になっていたこともあって、移転先を探していました。解体した建物の廃材など、まだ利用できる素材を在庫としてストックしておけるスペースや、作業用の加工場も欲しいと思っていた中で、この広い空間を持つ工場が賃貸に出ているのを知り、移転を決めました。」
もとのメッキ工場は20年ほど利用された後、廃業により10年手つかずの状態だったという。商業フロアの方は雨漏りをしている箇所がありかなり荒れていて、賃貸に出ていたのは事務所の方だけだったそうだ。だがそこはリノベーションの職人であるゆくい堂。持ち主と相談の結果、工場をまるごと借りてリノベーションすることになったそうだ。

約10年手つかずとなると、改修にはかなり時間がかかりそうだが、移転までの期間はどれくらいだったのだろうか。
「2015年の4月から着手して、まず解体作業からはじめました。ワンフロアつくったら次のフロアへと、ワンフロアずつ進めていく方法をとりました。依頼されるリノベーションは設計書をあらかじめ準備してから取り掛かりますが、この工場については設計書をつくらず、その場で決めてつくっての繰り返しです。配管や配線の工事をし、事務所として利用できるスペースが出来上がったのは6月で、すぐに移転しました。移転してからも手を加え続けていて、この事務スペースへの階段を取り付けたのも、実は移転した後なんです。これからも少しずつ変化していく予定です。」
着手から移転までわずか3か月というから驚きだ。

その場の状況に合わせてつくっていくことも、実際に工務店として、職人としての豊富な経験があるゆくい堂であるからこそできることなのだと思う。
そして出来上がった事務所は、赤い錆びた扉の向こうにあるとは思えないような空間になっていた。工場の広さを最大限に活かした吹き抜けの解放感。むき出しのコンクリートの無骨さを残しながらも暖かみを感じる。この場所に来たら、ゆくい堂にリノベーションを頼もうと思っている人はきっとわくわくするだろう。


ゆくい堂社長の丸野信次郎氏。今回は「継がれゆく箱」プロジェクトについて伺ったが個人向けのリノベーション実績も豊富



工場の面影を残しつつ新しい"箱"へ


このビルは事務所のほかに商業用のスペースもある。それぞれ用途も印象も異なる各フロアについてご紹介しよう。

3階はレンタルフロアで、アトリエやショップ、工房、オフィスなど、利用する人それぞれの使い方が出来る空間が広がっている。一般的な商業施設であればきっちりと面積を区切って賃貸されるところだが、このフロアは木で造られた小屋(SHACK)と共有スペースが利用でき、小屋を店舗に、共有スペースは制作場所にと、アイディア次第で色々な活用ができる。小屋は移動できるようになっており、出店者同士で集まってイベントを開いたり、ワークショップをしたりなど、この空間で新しい交流が生まれたら面白そうだと思った。


(左上)3階のバルコニーには花屋さんのグリーンが並ぶ<br>(左下)3階レンタルフロア。写真後ろ側にあるのが小屋(SHACK)。中央には大きな卓球台が。<br>ここに商品をディスプレイしたり作品を並べてもよさそうだ。もちろん卓球もできる。<br>(右)3階にあった元工場の名残を残す設備。下の階と繋がっていてものが運べるようになっている



本屋とカフェ、雑貨屋、キッチンスペースを兼ねる多目的な空間


4階は「ROUTE BOOKS」という店名の本屋だ。このフロア全体が店舗兼、シェアスペースになっている。だがこのフロアに初めて足を踏み入れた人は、ここを本屋だとは思わないだろう。
普段目にする本屋は所狭しと背の高い本棚があり、本が平積みになって陳列されているが、「ROUTE BOOKS」は広いワンフロアに植物と、植物やDIYなど趣味に関する本が飾られるように置かれていた。ソファやテーブルがあり、フロア全体がリビングのように寛げる場所になっている。椅子やテーブル、本がディスプレイされている棚などは廃材を再利用して作られていて、木のぬくもりと植物にも癒される。つい長居したくなるような空間だった。

このフロアは本屋兼シェアスペースだけでなく、コーヒーなどの提供も予定されており、カフェでもあるのだ。
そして廃材を再利用したハンドメイドの雑貨や植物が販売されているショップでもある。さらにこのフロアの活用方法の幅を広げているのがキッチンスペースがある点である。料理教室を開いたり、企業が試食イベントをしたりなど、様々なイベントの相談があるそうだ。


(左上)広い空間にたくさんのグリーンが置かれている。棚は廃材を再利用して作られており移動ができるようになっていた<br>(右上)廃材を使って作られたテーブルやイス。真新しくない木の質感がぬくもりを感じられる<br>(左下)キッチンスペース。料理や植物、本などと関連するイベントやパーティーで重宝しそうである<br>(右下)廃材でつくられた雑貨が並ぶ。事務所にある加工場で作成されたそうだ



息を吹き返したメッキ工場


工場やビルなどの大きな敷地を持つ建物が長期間にわたって空家になると、建物が老朽化したり、また不審者の立ち入りのような色々な問題が出てくる。この工場も老朽化による雨漏りが発生していたりしたようだ。
そういった建物が長期に渡って放置され続けることで、周囲へ不安を与えることもありえる。持ち主も困っていたのではないだろうか。

リノベーション開始から移転までの間で、丸野氏が感じたことがあったそうだ。
「ひとつずつ手を加えていくことで、現場の空気が徐々に変化していくのを感じました。長い間その場所に溜まっていた空気が動きだして、建物に血が通っていくような感覚がありました。」
建物に血が戻り、暖かな場所に変化していくのを、建物の持ち主や周囲の人も感じたかもしれない。

平成25年度の、台東区にある工場数は「485」だった。15年前の工場数4017と比較すると、10年間で8分の1程度に減ってしまったことになる。この10年で台東区の街並みは大きく変わったのだろう。 職住近接の歴史があり地場産業が盛んな地域ではあるが、廃業や後継者不足によりそのまま放置された工場や、もうすでに解体されてしまった建物もたくさんあるのかもしれない。

「ROUTE89 BLDG.」には、元が工場であったことが分かる赤い扉や設備などが残っている。10年前にメッキ職人たちが働いていたこの場所をものつくりのプロたちが再生し、その場所に人が集まり、またここでたくさんのものが生まれていくだろう。
建物を継ぐこと、それは建物の歴史やその想いを受け継いでいくことなのかもしれない。

ROUTE89 BLDG.
http://www.yukuido.com/hacopro/route89-bldg


(左上)吹き抜けになった事務所。木材などの在庫が保管できるスペースも十分ある。<br>(右上)事務所スペース2階。事務処理や打合せができる場所が確保されている。<br>(左下)写真奥に見える窓は作り直したそうだ。レンガをあえて均一でないサイズに加工してから敷き詰められている<br>(右下)1階事務所にある加工場。ここで廃材を利用した雑貨などが制作される



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