戸越銀座駅が「新・木造駅」としてリニューアル。東急電鉄が切り拓いた新たな沿線開発の可能性

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2016年12月、戸越銀座駅が90年ぶりにリニューアル


近年、全国各地で「木造駅舎」や「木の香りがする駅」が次々に出現。駅のリニューアルにあたって、木造化や内装の木質化を行うケースが相次いでいる。
その背景にあるのが、木材の不燃化技術の進展と、国産材の利用促進を進める国の動きだ。林野庁は2010年5月、林業の活性化を目的として、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を公布。旭川駅や秋田駅バスターミナルなど、現代的なデザインと木材の温もりを融合させた駅が相次いで誕生し、世間の耳目を集めている。

とはいえ、こうした動きは“地方先行”で、大都市への波及はまだ本格化していない。2015年には東京の高尾山口駅で、杉材による木組みを用いた改装が行われたが、これも都心から遠く離れた多摩地区での取り組みだ。
そんな中、2016年12月中旬、東京23区では初めて新たな木造駅が誕生した。五反田駅から蒲田駅までを結ぶ、東急池上線の戸越銀座駅である。

戸越銀座駅が開業したのは1927年。それから約90年の月日が流れ、駅舎やホーム屋根の老朽化が問題となっていた。そこで東急電鉄では、戸越銀座駅の改修を決定。「平成27年度東京都森林・林業再生基盤づくり交付金事業」の採択を受け、多摩産材を使って、ホーム屋根の木造化や木造駅舎の改修を行うこととなった。

「駅の改修に当たり、地域の方たちからは、『木造駅舎の趣を残した改修をしてほしい』というご意見がありました。駅を新たに木造化したのも、こうした地域の声を踏まえてのことです。公共施設を作るときに大切なのは、地域の人たちに愛着や誇りを持ってもらえるような空間を創り出すこと。戸越銀座商店街の玄関口として、地元の人たちに愛される場所にしたいと考えました」
東急電鉄・鉄道事業本部工務部の横尾俊介さんは、こう語る。


2016年12月にリニューアルした戸越銀座駅。木造ホームにはシザーストラス工法を採用。提供/東急電鉄



曲がり角を迎えた、東急電鉄の沿線開発


東急沿線といえば“高級住宅地”のイメージが強いが、商店街や住宅の間を縫うようにして走る東急池上線は“異色”の存在だ。その理由を、東急電鉄・鉄道事業本部事業推進部の小代雄大さんはこう語る。

「東急池上線は、池上本門寺に参拝客を運ぶために作られた池上電気鉄道が前身となっています。このため、もともと、都心に接続して大量輸送することは想定されていなかった。東急の他路線とのテイストの違いも、そういうところに起因しているのでしょう。地下鉄と相互乗り入れをしていないことも、池上線沿線が独特な空気感を持つ理由なのかもしれません」

この東急池上線の中核をなすのが、関東屈指の商店街を擁する戸越銀座駅である。そのリニューアルに当たり、東急電鉄は「らしからぬ」手法をとった。鉄道会社主導のまちづくりを得意とする同社が、「未だかつて、ここまで地域の方々と一緒に駅を作ったことはなかった」(横尾さん)というほど、地元商店街と密に連携しながらプロジェクトを進めたのである。

それは、東急電鉄のお家芸ともいえる沿線開発が、曲がり角に来ていることと無縁ではない。
高度経済成長期、人々は区画整備されたニュータウンに住み、郊外の住宅地に家を持つことに憧れた。だが、人口減少時代を迎えた今、若い世代は、通勤苦に耐えてまで郊外に家を買おうとはしない。むしろ、都心に直結する地下鉄の沿線や、「カフェが多い」「教育環境がよい」といった独自の魅力を持つ町の方が好まれる傾向にある。

このままでは、東急沿線から人口が流出してしまう――そんな危機感から、東急電鉄は、沿線開発の方針をハード重視からソフト重視へと転換。地域に愛されるまちを作り、沿線の魅力を高めるため、新たな方向性を模索し始めた。今回の戸越銀座駅リニューアルも、その先駆的なプロジェクトとしての性格を持つ。


戸越銀座駅リニューアルで中心的な役割を果たした、東急電鉄の横尾俊介さん(左)と小代雄大さん(右)



“駅”という制約の中で、木を活用した美しいデザインを追求


では、新しい戸越銀座駅はどのように変貌を遂げたのか。
戸越銀座駅のホームに降り立つと、杉の香りがほのかに鼻腔をくすぐった。木造の屋根と壁には、多摩産の杉材を使用。アーチを支える木組みが独特の階調を奏で、広々とした空間を作り出している。

といっても、「デザインありき」の設計ではない。この美しい木組みは、“駅”という制約の中で建築美を追求する試行錯誤の中から生まれたものだ。
あまり意識されていないことだが、駅というのは大変危険な場所だ。列車に電力を供給する架線には1500ボルトの高圧電流が流れており、ひとたび架線に触れれば感電死は免れない。このため、駅舎やホームの工事を行う際には、事故防止のためさまざまな制約が課せられている。

「ホーム屋根の工事中は架線の電気を止めなければならないので、終電から始発までの約2時間しか作業ができない。そこで、なるべく重機を使わなくてもすむよう部材をパーツ化し、現場で板を組み合わせることによって大きな空間をつくろう、というのが元々の発想でした。駅という制約の中で施工方法を選び、それを踏襲する形でデザインを決めていったわけです」(横尾さん)

今回のリニューアルでは、古い木造駅舎も“老舗商家風”に改修された。それも、切妻屋根の下に屋号のようなロゴマークを入れ、暖簾までかけるという凝りようだ。ファサードを和風のデザインにしたのは、「江戸時代からの脈々たる歴史を持つ戸越銀座の雰囲気に合ったものを」、という考えからだという。

「地元の方たちは駅の三角屋根に愛着を持ち、戸越銀座のシンボルのように思っていらっしゃる。そこで、駅のロゴも三角屋根をイメージした『山』と戸越の『戸』を組み合わせ、江戸時代のイメージでつくりました」と横尾さん。ロゴの「戸」の字が「合」に見えるようにデザインしたのも、「戸越銀座駅が新たな“出合い”の場となるように」との思いを込めてのことだという。


(左上)ホーム天井部分。(右上)ホームの木製ベンチの裏には、地元の小学生が描いた絵や文字が隠れている。(左下・右下)ホーム壁のモニュメントは、地元の人々がリニューアルに寄せたメッセージが刻まれている



鉄道会社と地元商店街が一体となって“駅づくり”


今回の駅リニューアルにあたり、東急電鉄のスタッフは、商店街の会合に毎月参加。地元の声に耳を傾けながら、新しい駅のデザインを固めていった。

地域と一体となってプロジェクトを盛り上げるため、『木になるリニューアル』と銘打って、さまざまな施策を展開。多摩産材の原産地・あきる野市での環境学習ツアーや、ホームの木製ベンチの制作ワークショップなど、さまざまなイベントを実施した。
また、東大のGCLプログラム(※)と連携して、戸越銀座の魅力を発掘するワークショップも開催。これは、現代的なコミュニティ・デザインの観点から、まちの魅力や価値を再発見することを目的としたもので、学生たちは住民のインタビューや調査を行い、戸越銀座商店街のあるべき姿や将来像を考察。その結果は冊子にまとめられ、竣工当日、セレモニー会場で配布された。

「まちの歴史を掘り起こすうちに、町工場が集積していたことや、国道1号が飛行機の滑走路を兼ねていたことなど、いろいろなことがわかってきました。駅や沿線の魅力を発信することで、まちへの愛着が一層深まるかもしれない。情報発信の大切さをあらためて実感させられました」(横尾さん)

※GCLプログラム:ソーシャルICTグローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム


10年がかりで活性化の取り組みを続けてきた戸越銀座商店街。2016年4月には電柱の地中化も行われた



戸越銀座駅は、単なる“駅”ではなくなった


戸越銀座駅のリニューアルは、まちにどのような変化をもたらしたのか。ある商店主はこう語る。
「戸越銀座駅は単なる“駅”ではなくなりました。戸越銀座商店街のランドマークとして、駅を目的にやってくる方や、駅を中心とした取材も格段に増えています。リニューアルされた駅や街路も含めて、商店街の体の一部。この財産を慈しみながら、未来の戸越銀座商店街へとバトンをつなげられれば、と思っています」

一方、東急電鉄の社内でも、今回のリニューアルは注目を集めているという。今後も維持管理上の課題を洗い出しながら、木を使ったリニューアルや、地域を巻き込んだ駅づくりを広げていきたい。横尾さんと小代さんは、そう意気込みを語る。

「駅をつくることがゴールではない。駅がランドマークになり、まちの活性化につながる、というのが最終的なゴールです。住民の方に愛される駅を作り、『ここは他のまちとはちがう』と感じていただければ、ゆくゆくは沿線価値の向上にもつながっていく。今回の戸越銀座駅リニューアルは、いわば東急電鉄のリーディング・プロジェクト。今後も地元の方々と対話や連携をしながら、愛される沿線作りに取り組んでいきたいですね」(横尾さん)

今回のリニューアルを機に、東急電鉄の沿線開発は、ハード重視からソフト重視へと大きく舵を切った。歴史ある沿線ならではの下町情緒や物語性を活かしながら、若い世代を惹きつけるまちづくりをいかに進めていくか。大手私鉄の次代を担う若きリーダーたちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。


昭和20年代に池上線と目蒲線を走っていた、復刻デザインの「きになる電車」。2016年3月に運航開始。提供/東急電鉄



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