北海道の小さな町、沼田町が挑戦する「空き家リノベーション・プロジェクト」

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若い世代の移住を促すリノベーション住宅


全国に数多ある、空き店舗・空き家などを対象とした「リノベーションプロジェクト」。企業、NPO、商店街などいろいろな実施主体があるようだが、北海道の沼田町という小さな町が自ら取り組むそのプロジェクトは、ユニークかつ意欲的で興味深い。

『沼田町空き家リノベーションプロジェクト(以下、リノベーションPJ)』と名付けられたそのプロジェクトは、沼田町が抱えるふたつの課題から導き出されている。ひとつは市街地に空き家が多くなり、それらを有効活用したいということ。もうひとつは若い世代の移住・定住を促進したいということ。

住んでほしい若い世代が住みたくなるような住居がない。であれば、空き家を若い世代に受け入れられるようなモダンなデザインにリノベーションして提供する。そして、そのプランニング・マッチングに沼田町という行政自体が全面的に関わって、内閣府の地方創生加速化交付金を活用して支援しようというものだ。

リノベーションPJは、市街地の空き家をモダンにリノベーションした11プランで構成されている。そして、そのプランニングには工夫がありユニークだ。道内の気鋭の建築家たちをキャスティングし、各プランは住居のデザインだけではなく、「畑のある家」「コミュニティスペースのある家」「丘の上のパン屋さん」などなど、沼田町での具体的な暮らしまでを提案している。(もちろんこれらはあくまで提案であって、そのご要望に応じてリデザインが可能) 

また、手間暇かかる上にコンサルティング力が問われる不動産のプラニング・マッチングに行政が踏み込むということは、このリノベーションPJに対する沼田町の本気さが感じられる。尤も町の様々な情報や移住支援策など、移住に必要な情報は町に集積しているわけで、本当に成果を生み出したいと思うなら、このスタンスは非常に合理的なのだと思われる。

参照資料:「北海道の人、暮らし、仕事。 くらしごと」:北海道のどこかにある、小さなまちの挑戦です


11タイプのリノベーション住宅プランを提示するブックレットも作成している。



北海道の、典型的な小規模自治体


その沼田町は、北海道の中心部にある旭川市から少し西に位置する小さな町。道外の方はその名をご存知ない人が多いだろう。道内でも近隣市町村の人でなければ、多くの情報を持ち合わせている人は少ないかもしれない。
人口は2017年4月で3,178人(1,521世帯)。この時は若干の前月比プラスではあったが、少子高齢化に伴う長期的な人口減少傾向は否めない。伴って医療福祉の課題も増大している。公共交通としてはJR北海道の留萌本線が通っており、その恵比島駅はかつてNHKの連続テレビ小説『すずらん』の舞台となり賑わいをみせたこともあったのだが、利用客の減少に歯止めがかからず、将来のバス転換の可能性が報じられている。こういった沼田町を取り巻く現状は、ある意味典型的な北海道の小規模自治体の姿であるといえる。

注目していないと見過ごしてしまいそうな、道内どこにでもありそうな普通の町。かといって魅力がないかといえば、全くそうではない。それらの町がほとんどそうであるように、北海道の中では個性が際立たないだけなのだ。沼田町にはホタルが自生するような豊かな森林を中心とする自然や素晴らしい田園風景があり、移住希望者が魅せられるような北海道的エッセンスはしっかり備わっている。特にこういう環境の場所で子育てをしたいと思う人たちは多いだろう。


山青く、水清く、自然豊かな町、沼田町。



地域活性化モデルケースにも選ばれた、コンパクトエコタウン構想


リノベーションPJは、沼田町総合戦略の中心となっている『沼田町農村型コンパクトエコタウン構想(以下コンパクトタウン構想)』のひとつの施策として位置づけられている。このコンパクトタウン構想は、国の地方創生のビジョンとも連動し、町と地域住民が自ら考え実行するものとして、コミュニティデザインの第一人者ともいえる山崎亮さんを迎え、平成25年から進められてきた。その結果、内閣府の地域活性化モデルケースにも選ばれ、国のサポートを得ながらの大きな動きとなっているもの。

コンパクトタウン構想には、「市街地で歩いて暮らせる町」という大きなビジョンがある。住宅・医療福祉の施設も集約し、高齢になってもそこで安心して暮らしていける市街地に作りかえていこうというものだ。住民も参加するワークショップを地道に積み重ね、そこから出てきた様々な課題から生み出されてきたものだ。先にも書いた「空き家」「(移住してほしい)若い世代の住まい」もその中の課題として提示され、そこが結びついて生まれてきた施策が、このリノベーションPJという流れなのである。

沼田町のような小さな町が、大阪から山崎さんのような著名人を迎え、町民とともに地道にワークショップを積み重ねることは、かなりハードルがあったことと思われる。しかし、それをやり抜いて熱い思いが込められたコンパクトタウン構想なのだからこそ、その施策の実行にもしっかり力がはいるのではないだろうか。


夜高あんどん祭りで賑わう沼田町市街地。



リノベーションプランを設計する移住者


このリノベーションPJには、さらに注目したい点がある。リノベーションプランを担当する建築家のひとりに、沼田町への移住者がいるということ。その人は、現在沼田町で一級建築士事務所tocotoを主宰する山本郁江さん。同じくコミュニティデザイナーのご主人が、沼田町のまちづくりにブレーンとして関わったことがきっかけとなって、山本さんの故郷でもある沼田町に夫婦で東京から移住。その後お子様も誕生し、沼田町での子育てもスタートしている。そんな山本さんが、このプロジェクトの設計担当として選ばれたのである。

リノベーションPJは、建築家によるリノベーションプランの提案が大きなポイントとなる。したがってその建築家の経験や力量が重要なのはいうまでもないが、山本さんという建築家が加わることで、様々な視点のプラスオンが期待できる。いちばん重要な移住者という視点。子育て中の家族という視点。一方で生まれ育った故郷であるという視点。そんな当事者としての山本さんしか持ち得ない視点が、このリノベーションPJ全体にいい影響を及ぼすはずだ。そして、移住希望者にとっては、非常に頼りになる先輩移住者になるだろうし、その山本さんが提示するプランは説得力のあるものになるだろうと思う。

沼田町総合戦略の資料には「沼田町ならではの好循環を創ります」とある。好循環のためには、今後リノベーションPJも沼田町内で様々なことを動かしていく体制に持ち込む必要がある。その上で、町内在住の建築家である山本さんの存在は決して欠かせないものになるだろう。

参照資料:「北海道の人、暮らし、仕事。くらしごと」:奇遇なドラマの末に家族で故郷に「移住」しました。


[取材協力]
 ・沼田町
 ・北海道の人、暮らし、仕事。 「くらしごと」


山本郁江さんご一家。ご主人も建築家でこのプロジェクトの企画段階で関わっている。(写真:畠山雄豪)



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