日本の風土に息づいてきた萱葺屋根。その技術と継承の課題を聞いてきた

LIFULL HOME'S PRESS

日本の風土に息づいてきた萱葺屋根。その技術と継承の課題を聞いてきたの記事画像

世界中にある草葺きの屋根の家


白川郷などで見られる萱葺屋根の家。
その歴史は古く、洞窟を出て生活を始めた人類が、まずつくった家屋が萱葺きだったと言われている。日本で萱はイネ科の草の総称で、茅葺の材料と言えばススキやヨシだが、草類で葺いた家屋は世界中にあり、ヨーロッパでは壁まで草で葺かれた前衛的なデザインのものがあるほか、南島には椰子の葉で葺いたもの、北欧にはワカメ葺の家まであるという。

農耕の国日本では、一昔前まで藁で葺いた屋根が一般的だった。台風の国でもあるため、しっかり技巧的に組まれており、耐久性が高い。

今回、奈良の寺院で葺き替え工事中の、山城萱葺株式会社代表取締役山田雅史氏にお話を聞かせていただいたので、萱葺屋根の魅力と課題を見ていこう。


葺き替え中の萱葺屋根。垂木の上に竹を乗せ、縄でしばっているのがわかる



日本の風土が息づいている萱葺


萱葺屋根の一般的な葺き方は、まずは垂木の上に、間隔を置きながら竹を水平に設置していく。そして垂木の下部から、萱を縦に乗せ、その上に竹を水平に乗せて縄で縛る。この作業を少しずつ上にずらしながら繰り返し、垂木の頂部にも萱を摘み、最後に杉皮などの防水材を乗せて完成だ。

その魅力は、なんといっても夏の涼しさだろう。原料のヨシやススキは空洞が多く、断熱材そのもの。軒の長い屋根なら壁に日光が当たらないので、真夏でもTシャツ一枚では寒いと感じるほどだという。

また、萱葺きの形には風土が表れるのだとか。
「日本の茅葺屋根は、釘などは一切使わず、稲干しを思わせるもの。まさに農業の国の屋根づくりだと思います。さらに地域によっても特色があり、たとえば中部地方は屋根が大きいので、手間をかけず、とにかく頑丈にしている印象です。東北地方では形に手をかけており、関東や関西は繊細、ヨシの太さをそろえたりして、丁寧に造られています。また、台風の多い四国の屋根は分厚くして、垂木にしっかり縛られています。面白いのは、同じ課題への対処方法が、地域によって違うこと。たとえば、雪の重みに対して垂木を短くして対処している地方もあれば、長くしつつ、萱を押さえる竹を増やし、ガチガチに固める地方もあるんです。後者の地域の屋根屋さんは、競争して重さに耐えるための技術力を高めたのでしょう。萱葺屋根はその地方の雰囲気も語ってくれるんです」

屋根が全国統一基準になりつつあるなか、萱葺屋根だけは、統一基準的な仕様書が作れない。山城萱葺が葺き替えをする際は、現存の姿を残すよう努めているため、仕事をするたびに知識が増え、技術力が向上するのだとか。

また、萱で屋根を葺くためにヨシ原を管理すれば、自然の保護になる。
山城萱葺が管理するヨシ原で採取したヨシは、萱葺屋根にされるほか、ヨシ紙などに利用されている。直径20センチくらいの束が毎年4~5000束採取できるが、使わないからと刈らずに放っておくとすぐに藪となり、ヨシ原に自生する植物が生えなくなるし、キジやカヤネズミなどの貴重な動物たちも住みにくくなる。ヨシ原の管理により、生態系が守られているのだ。
また、ヨシ原が動物と人間の緩衝地帯となり、距離感を保てる。かつて田畑が動物により荒らされる事件が少なかったのは、ヨシ原などの草原があったからだ。
「放置は保全ではありません。人間が刈り取ることによって生態系が保たれているのですから、二次的な自然といえるのではないでしょうか」


萱葺屋根の家は夏に涼しく、クーラーは不要だ



萱葺の家を継承するための課題とは


実は一時期、萱葺職人は減少の一途をたどっていた。
山田氏は建築の現場監督だったが、家族がスダレ職人だったため萱葺業界の現状を耳にする機会も多く、絶滅してしまうのではないかと危機感を抱いて、29才のときに萱葺修業を始めたのだという。萱葺屋根の施工注文は一年中あるわけではなく、スダレ作りもせねばならなかったため、修業できたのは一年の半分ぐらい。なんとか屋根を葺けるようになった4年目に、偶然仕事が舞い込み、独立したのだそうだ。

萱葺を専門とする会社は10社程度。個人で請け負う職人もいるが、50代以下は200人もいないのではないかという。
しかし山田氏は、
「今の若い人は、放っておいたら茅葺文化がなくなるのではないかと危機感を持っている人も多いように思います。この世界に飛び込んでくる女性もいますから、技術者が途絶えることはないのではないでしょうか」と、後継者問題の見通しは、さほど暗いわけではないと考えている。

ただ、萱葺屋根の数はじわじわと減っている。
「昔は、近くの里山に生えている萱で屋根を造り、腐ったら肥料にするという、無駄のない、閉じたサイクルができていましたが、今はそれがなくなりました。生活のサイクルから切り離され、淘汰されつつあるのだと思います」
また、萱葺屋根の致命的な欠点は、防火性の低さだろう。
密集地帯ではすぐに延焼してしまい、滋賀県の在原集落で起きた火事では、12軒中7軒が焼失した。防火層や放水銃が町中に整備されているが、たまたま不備があったうえ、風が強く、延焼を食い止められなかったのだ。
また、耐震性も課題と言えるだろう。

さらに、ヨシ原の管理にも壁がある。
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の施行により、国交省が行う堤防の草刈りや、風俗習慣上または宗教上の行事などを例外としてたき火が禁止となった。山城萱葺もヨシ焼きに失敗した際、京都市により、「風俗習慣上の行事とは認められない」と判断されてしまった。
しかし、ヨシ焼きをしないと、刈り取らなかった古いヨシが枯れたまま残り、藪化してしまう。萱葺のためにすべてのヨシを刈り取っていたわけではないので、ヨシ原が小さくなり、そこに営巣していたツバメの数も減少した。それに気づいた市民団体が声をあげ、自然保護のために新たにヨシ焼きをすることができるようになったのだという。


お話しを聞かせてくださった、山城萱葺株式会社代表取締役山田雅史氏



萱葺を住まいの一部に取り入れる人も増えている


萱葺屋根の家は魅力的だが、宅地には新たに建てられないし、防火対策も大変だ。しかし、一部だけ萱葺にするのは可能。
店舗の軒先に茅をあしらったり、和食の店舗の入り口にだけほどこしたりすれば、萱葺を身近に取り入れられる。雨に濡れて苔が生えることもあり、日本の住まいの味わいとして魅力が増すだろう。

山城萱葺では、萱葺の庇をオーダーメイドで請けており、おととしから始めて、年に4~5軒ペースで受注しているという。
「身近に萱葺を見てもらい、ヨシなどの草が生活に密着していること、建材だったことを思い出してもらうのが大事だと思っています」と、葭簀(よしず)作り体験も今までに2度主催している。

夏に涼しく、日本の伝統的な雰囲気をもつ萱葺屋根。この伝統を残すため、私たち一人一人が関心を持ちたいものだ。
機会があれば白川郷や美山かやぶきの里、大内宿などの萱葺屋根の集落に出かけ、昔ながらの雰囲気を楽しんでみてはいかがだろう。


庇や店舗の入口など、一部だけを萱葺にすることもできる



[関連記事]
日本の風土に合う民家とは?日本民家集落博物館で、さまざまな地域の民家を見学しよう
古民家を残したい! 世界に誇れる日本の住文化を再考しよう
道路建設で存続の危機にある中野区唯一のかやぶき古民家。保存を願う市民団体の思いを聞いた
石見銀山「他郷阿部家」から学ぶ、魂が宿る古民家再生
祖谷の古民家「ちいおり」~海外から観光客が訪れる山奥の秘境

出発:

到着:

日付:

時間:

test