離島初の「クラインガルテン」と個性派カフェ&マルシェ。人口239人の佐久島が取り組む移住定住促進の今

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離島初の「クラインガルテン」と個性派カフェ&マルシェ。人口239人の佐久島が取り組む移住定住促進の今の記事画像

行政と島の有志で移住定住を促進。深刻化する高齢化に歯止めを


前回、「アートに出会える島」として佐久島のアートプロジェクトについてお伝えしたが、今回は佐久島の移住定住対策についてお届けしようと思う。

佐久島の人口は現在239人(2017年4月現在)。2010年の国勢調査によると島内の世帯数は134、そのうち65歳以上のみの世帯が68(うち一人暮らし39)と、高齢者人口比率は49.8%とほぼ半分が高齢者となっている。愛知県全体のそれが20.3%であるから、佐久島の高齢化はより深刻といえよう。

こうした状況を打開するため、西尾市佐久島振興課では島民の有志で結成した「島を美しくつくる会(通称:つくる会)」※と協働で島への移住定住の促進を進めている。また、東・西町内会と島の関係団体で組織する「定住部会」では、空き家対策や遊休農地の利用促進、Iターンを希望する若い世代の相談役を担っている。

※「つくる会」(会長・鈴木喜代司さん):「ひと里分科会」「漁師分科会」「美食分科会」「いにしえ分科会」を核に地域促進事業を行っている。


「島を美しくつくる会」の会長・鈴木さん(写真左)と、西尾市役所佐久島振興課の山下さん。鈴木さんは民宿「さざなみ」のご主人でもある



移住者がカフェをオープン。カフェ目当てで来島する観光客も


移住定住の取り組みやアートプロジェクトの成功、行政や島民の働きかけもあって、島の知名度は大幅にあがった。さらに今、移住した人たちが開いたカフェに固定ファンが付き、カフェ目当てに来島する観光客も増えたという。まずはカフェのオーナーたちに移住について話を聞いてみた。

『カフェOLEGALE』のオーナー加藤麻紀さんは、12年前に佐久島で漁師をしていた夫との結婚を機に島へやってきたという。
「結婚を決めて島へ移住するまでに期間が短かったので、あまり深く考えずに島に来てしまったという感じです(笑)」
子育てがひと段落した3年前からカフェをオープンさせ、ご主人が獲った海の幸と手作りおやつで観光客をもてなし、人気となっている。

一方、名古屋のカフェで働いていた神谷芝保(しほ)さんは、7年前に佐久島に移住。とはいっても最初の1年半は名古屋と行ったり来たりの生活をしていたそう。
「最初は名古屋から通っていたのですが、交通費もままならないし、交通費分くらい稼げたらいいかなーと畑のものを使ったおやつのカフェをはじめました」。
老朽化した空き家を仲間や近所の人たちでリノベーション。畑で自家栽培をして、できた野菜をカフェのメニューに取り入れた『oyaoya cafe もんぺまるけ』は神谷さんの人柄もあり、ここを目当てに来島する人も多いという。

西渡船場の小高い丘の上に建つ『カフェ百一』は昨年オープンしたばかり。オーナーの中村眞由美さんは、築100年は超えるという立派な黒壁の一軒家を買い取り、カフェを開きたいという夢を佐久島で叶えた。

「旅行に来たのが2016年の3月で6月にはもう物件を見に来ていました。9月にはここを買い上げて移住していました(笑)」。即決といってもいいほどのスピードで佐久島移住を決めたそう。


写真左上:『カフェOLEGALE』。家族や仲間と改装し3年前にOPEN。写真提供/OLEGALE<br>写真右上:『もんぺまるけ』の庭には、ツリーファニチャーとブランコが作られていて、訪れた人は自然の中で楽しいひとときを過ごせる。実はこれ、建築コンクールで優秀賞を収めた作品!<br>写真左下右下:『カフェ百一』。母屋は畳敷きの和室、離れは三河湾が一望できる絶好のスポットで、海風が心地いい!<br>



アーティストを集めたマルシェでの移住促進も


神谷さん、中村さんはともに名古屋のカフェで働いていた経験があるが、なぜ名古屋でなく佐久島でカフェを開くことにしたのか理由を聞いてみた。

「もともと名古屋で半農半カフェというスタイルのお店で働いていて、自分も畑をやってみたいと思って場所を探していました。たまたま訪れた佐久島で畑と空き家を紹介してもらったのもありますが、なにより古きよき日本の雰囲気が残っているというか、日本人のDNAに働きかけるような自然のエネルギーみたいなものがって、そこに惹かれたのかもしれません」(神谷さん)

中村さんは
「のんびりしていて穏やかな島の雰囲気が自分には合っていると感じたからでしょうか。空き家もたくさんあって都心部よりは安いですし、自宅としていっそのこと一棟買ってしまったほうがいいなと。収支をあまり気にせず気持ち的にゆとりのある生活ができています」
と話してくれた。

この3人の女性カフェオーナーらが中心となりスタートさせたマルシェ『佐久島39(saku)の市』(※前回の記事参照)も移住促進を視野に入れ乗り出したイベントのひとつ。愛知県の離島推進事業としてスタートしたものではあるが、いずれは県の手を離れる。「そうなっても息の長いイベントにしていきたい」と加藤さんは話す。

マルシェでは、島のグルメや作家のハンドメイド作品が並ぶ。その理由を神谷さんは、

「島での生業は漁業や観光業が中心ですが、島に移住していきなりそれらの仕事をするというのはイメージしづらいと思います。その点、アーティストさんなど創作活動をしている人であれば、島での暮らしも可能だと思うんですよね。マルシェが作家さんたちが島にくるきっかけになってくれたらいいと思いますし、マルシェ目当てのお客さんも島での生活に興味をもってくれたらいいなと思っています」
と新たな移住希望者に期待を寄せる。


食と芸術の祭典ニシオンナーレ、佐久島歩け歩け海原三里と併催された「佐久島39(saku)の市」第2回の様子。次回は10月29日の予定



旧民宿を改築したカフェを若者自立支援活動の拠点に


一方、佐久島の東地区では若者自立支援を目的にしたカフェも2年前から立ち上がっている。
『Caf&Bar じょえる』のオーナーであり、特定非営利活動法人・若者自立支援塾ONE STEPの代表理事でもある笠間淳さんに話を聞いた。

2015年旧民宿の建物を改築し、カフェと若者の自立支援の拠点として『Caf&Bar じょえる』を友人らと共同でオープン。カフェとして観光客を佐久島の幸でもてなすとともに、毎月一回、若者を集めた合宿を島で行っているという。

「引きこもりや若者の自立支援はお金を稼げる仕事ではないので、いかにお金をかけずにやるかということが大切でした。最初は佐久島なら安く家を貸してもらえるんじゃないかという期待があって候補にしていました(笑)。
だけどそれ以上に大切だったのが、自然が残っているということ。この島のいいところは"なにもない"ところ。コンビニも信号もない。アートが映えるのだって何もないからこそだと思うんです。今の時代、なかなかこんな場所はない。情報にあふれかえった社会で疲れ切ってしまった若者たちが、海で遊んだりしているうちに解放されていくんです」(笠間さん)

「高齢化が進む島で、力を持て余している若者が力になれることがあるはず」と佐久島での活動を始めた笠間さん。
「この島では若者がちょっと手伝うだけでも「ありがとね~」と、近所のおじいちゃんおばあちゃんがお菓子やジュースをいっぱいくれます。若者がそこにいるだけで存在そのものを重宝がってくれるんですね。必要とされることってとても大事で、それを実感できるのがこの場所なんです」

笠間さんはじめ『じょえる』に集まる若者たちは、今では島内のボランティア活動に欠かせない存在となっている。


東渡船場からすぐのところにある『じょえる』。佐久島名物の大アサリをつかったパスタが人気。島内では常に人手が不足しているので『じょえる』に集まる若者たちがボランティアとして積極的に島内の行事に取り組んでいる。写真右上はオーナーの笠間淳さん。元塾講師の笠間さんは若者自立支援の講演会をさまざまな場所で行っている。写真提供/じょえる



離島での試みは全国で初、愛知県内でも初の「クラインガルテン」を整備


行政も2012年の4月から遊休農地を利用したクラインガルテンを整備し、移住定住対策の一手を打った。クラインガルテンとは、ドイツ語で「小さな庭」という意味をもつ言葉で、日本では宿泊滞在型農業体験施設として広がりを見せている。

「ここ数年で日本でも普及してきている施設形態ですが、離島での試みは全国で初、愛知県内でも初めて。島に住むといってもいきなりは難しいと思いますので、まずこういった施設を整備し利用しながら島の生活というものを実際に体験して、その先の定住に向けての促進力になればいいなと思っています」。(佐久島振興課・山下さん)

広大な敷地内には10棟のラウベ棟(宿泊施設)があり、それぞれに約70m2の菜園がついている。ラウベ棟は約53m2、ロフト付き木造平屋建て。入居日から翌年3月31日までの年度単位の更新で、
「オープン以来、常に満室なんですよ。毎年たくさんの申し込みがあって、入居は抽選になってしまいます。現在入居されているみなさんは、菜園で野菜を作りながら農業体験をしつつ、魚釣りやアート巡りなどで島の時間を楽しんでいるようです」と山下さん。

今のところまだ定住にいたったケースはないそうだが、今後の定住促進のモデルケースとなることに期待が寄せられている。

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島での移住生活について、前出のカフェオーナー加藤さんは
「実際に暮らしてみると、良くも悪くも近所の目があったり、名古屋で暮らしていたときとはまったく違うので戸惑うこともありましたね。島独特のルールを受け入れ、周囲に受け入れてもらうことが必要だと思います」

長年住んでいる人と新しく入ってきた人がなじむまでには、どの土地であれ少しは時間がかかるもの。生活習慣の違いやマナーなど擦り合わせが必要な部分も出てくる。そういった場面で、振興課や「つくる会」が島民と移住者・移住希望者の橋渡し役となり、今後も移住者の新規開拓を行っていくそう。

最後に、印象的だった『もんぺまるけ』神谷さんの言葉を紹介したいと思う。

「本当に佐久島が好きで、ここで暮らしている人たちがいるんだということを知ってもらいたいです。とても懐かしい風景や気配を感じさせてくれる島が、外からの流れに荒らされるのではなく、この雰囲気のまま保っていけるようにしたいです。島の人が大切にしてきたものを守り、いい島であり続けられるように、島の人と大切なものを確認しあいながら暮らしていきたいなぁと思っています」

田舎暮らしに憧れを抱く若者も少なくないと聞く。自然あふれる島での暮らしは、そんな若者たちに魅力的に映るのではないだろうか。ただの憧れではなく、この島を愛し大切なものは何か、残していきたいものは何か、島の未来を島の人とともに考えられる、そんな人が移住してくれたらいいと心から願う。


※次回は、"三河湾の黒真珠"と呼ばれる佐久島の黒壁集落の保存活動についてお届けする。


【取材協力】
西尾市役所佐久島振興課
http://sakushima.com/guide/koutuu_kouji.php

※参考資料
「佐久島体験マップ」
「佐久島の概要」平成28年度版 


10棟のラウベ棟。菜園とロフト付きの一軒家を借りて、農業と島の暮らしを同時に体験できる。利用期間は一年単位の契約で、最長5年まで更新可能。料金は年間48万円(光熱費別)。敷地内には屋根付きバーベキュー施設もあり、利用する島内外の人との交流の場にもなっている。写真提供/西尾市佐久島振興課



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