北前船で栄えた湊町のまち並みを守りたい。 公民学で取り組む「三国町」の空き家再生まちづくり

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明治時代、鉄道が至らずまちは衰退へ


訪れた坂井市三国町は、福井駅から第三セクターのえちぜん鉄道で約50分。世帯数は約7500、細い路地に沿い、年月を経た格子窓の日本家屋が建ち並ぶ静かな港町だ。とはいえ、その街並みには豪商の面影が残る大きな商家やレンガづくりの旧銀行の建物なども点在しており、昔の豊かさや賑わいが伝わってくる。
東洋文化研究者のアレックス・カーさん監修のもと、築百数十年超の町家をゲストハウスに改修したまち、といえば思い当たる方もいるのではないだろうか。

三国町は古代から海運・水運によって栄え、江戸時代から明治時代にかけては北前船(買積み北国廻船)の寄港地として、やはり大河河口に位置する酒田や新潟と並んで繁栄していたという。ところが、明治時代に入って運輸の主役が鉄道にとって代わったことが、逆風になる。
「明治30年代に北陸本線建設の際、三国は当初の予定と異なり経路から外れ、それまでの繁栄に終止符が打たれます。また、昭和後期に国内各地の地方都市が衰退が叫ばれ始めたころ、三国町も人口減少や空き家の増加が顕著になっていました」と、地元のまちづくり組織「三國會所」の理事長、大和久米登さんは話す。


上/三國湊の海運と文学をテーマにした資料館「マチノクラ」の館内の様子。上は北前船の寄港地として栄えていたころの図 下/現在の三国町。小高い丘にある洋館は明治時代の「龍翔小学校」の外観を模して復元した博物館



住民主体のまちづくり組織「三國會所」が活動開始


2000年、歴史・文化やまち並みを生かして三国町を再生しようと、商工会と観光協会が中心となり「三國歴史を生かすまちづくり推進協議会」が発足。この組織は名称や役割を少しずつ変えながら活動を続け、2012年に法人化されまちづくり組織「三國會所」として確立した。同組織は現在、「商業・観光などの産業の振興、および歴史・文化を生かした総合的なまちづくりの推進」への寄与を目的として、さまざまな活動を行っている。「湊町の考察と町家の改修」や「三国祭の装具の支援」のほか、江戸時代から続く三国節でまちを踊り歩く「三國湊帯のまち流しの創設」などだ。
 
2013年から2015年にかけて行った「三国湊町家活用プロジェクト」では、空き家の保存、改修、活用に取り組んだ。坂井市の「県ふるさと創造プロジェクト事業」として採択されたもので、県からの補助金は1億円。
「三國會所が創設された2012年に、福井大学が行った調査で、三国町の住宅約1,300戸のうち126戸が空き家、42戸が空き家予備軍だと判明しました。空き家の増加は実感していたので、早急に解決策を模索したかったのです」(大和さん)


三國會所の本部がある「三国湊町家館」。三国町の資料が展示され、ボランティアガイドの常駐の場でもある



空き家の再生をビジネス、雇用創出に結び付ける


同プロジェクトの目的は、空き家を再生するだけでなく、ビジネスと雇用を創出することにあった。空き家を三國會所が借り受け市が改修してテナントを募集したところ、フレンチデリやアメリカ雑貨、盆栽屋など計6軒が開業に至った。また、冒頭で述べたように、アレックス・カーさんに監修を依頼し、築百数十年の薬局をゲストハウス「詰所三國」に改修したのも同様の理由だ。
このほか、東京大学と福井大学が参画して、空き倉庫をまちの歴史や文化を紹介する資料館「マチノクラ」に改修、このそばの下新公園を資料館と一体的に刷新し「マチノニワ」と名付けた。

2016年以降も、坂井市と三國會所、東京大学などが中心となり、プロジェクト期間中に策定したビジョンに基づいて空き家活用をベースとしたまちづくり活動を続ける予定だ。これに伴い、公民学の協力を得ながら活動を持続していくため、来年度にアーバンデザインセンター(UDC)を坂井市に設置することを準備中だ。UDCとは行政による都市計画や市民まちづくりの枠組みを超えて、地域に関わるさまざまな主体が連携するとともに、都市デザインの専門家が携わる組織である。この組織はすでに全国16ヶ所でそれぞれ活動している。
「三国町のUDCでは、坂井市、三國會所のほか東京大学、福井大学、福井県立大学、東京都市大学、地元金融機関や鉄道会社などの民間企業が参画する予定です」と、東京大学助教のころから三国町のまちづくりに関わってきた東京都市大学の講師、中島伸さんは話す。


左上/空き家を活用したフレンチデリの店 左下/アメリカ雑貨店「アメリカンスラット」の店内 右上/盆栽屋「みくに園」の店先から続く居間の様子。家屋は三国ならではのかぐら建て 右下/蔵を改装した資料館「マチノクラ」



公民学のバックアップで空き家再生まちづくりを持続


中島さんによれば、三国湊町家活用プロジェクトを通じて、空き家を生かしたまちづくりの課題が見えてきたという。公民学がそれぞれの得意分野を生かし連携できるUDCの立ち上げは、解決策のひとつなのだ。

課題のひとつは、空き家の情報が得にくいこと。たとえば、実際にはしばらく使っておらず傷んできているものの、所有者は「息子が定年後に帰郷したら入居するから」などの理由で“空き家”という認識を持っていないケースが少なくない。また、自治体は空き家を把握していてもプライバシーの観点から、情報を公開できない。
「住民主体のまちづくり組織のほうが、口コミなどで、空き家や空き家予備軍の情報をいち早く得られることがわかりました」(中島さん)
もうひとつは、自治体などの補助金を利用すると各年度のスキームに縛られてしまうこと。そのため、たとえば、同プロジェクトでは空き家を事業主側が年度内に物件候補選定・改修まで済ませてからテナントを探すことになった。
「自治体が関わるのは“お墨付き”になり、プロジェクトをすすめやすい局面も数多くあります。でも、本来は要望に合わせて改修できるほうが、テナントが決まりやすいですよね。民間企業などが持つノウハウを生かし費用を捻出できる仕組みをつくったほうが、活動の自由度は高まります」(中島さん)

この三国町のUDCを通じて得たまちづくりの知見は、坂井市全体に生かしていくという。空き家を活用することで昔ながらの街並みを大切にしつつ賑わいを呼ぶ手法と、さまざまなノウハウを持つ公民学がまちづくりをバックアップする体制の組み合わせに、注目が集まりそうだ。


ゲストハウス「詰所三國」。管理運営は盆栽屋「みくに園」のオーナーが担っている



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