既存住宅の流通促進に向けた住宅ストック関連法案。住宅政策における課題と目指す方向とは?

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住宅政策における課題。既存住宅の流通促進に向けた国の取組みとは?


2016年の首都圏のマンション市場における象徴的な出来事の一つが、新築マンションの発売戸数と中古マンションの成約数の"逆転"だ。首都圏の新築マンションの発売戸数3万5,772戸に対し、東日本レインズが集計する中古マンションの成約件数が3万7,189戸と、中古マンション成約数が新築マンションの供給戸数を初めて上回ったのだ。
このうち新設住宅着工戸数の内訳を見ると、相続税対策や低金利などの影響により、貸家が前年比10.5%増と着工数全体をけん引している。世帯数が2020年をピークに減少していく事が予測される中、拡大が難しい新築市場に替わり、既存住宅の流通市場やリフォーム市場の拡大に向けた整備が急務となっている。

国土交通省は、住宅政策における課題として、大きく以下の2つを挙げている。
課題1)若年・子育て世帯の住居費などの負担が大きく消費が伸びない
課題2)住宅の資産価値が市場で評価されず、適正価格で売却ができないことが老後に備えた貯蓄性向を上げている(消費が進まない)

2016年3月に閣議決定された「住生活基本計画」で、既存住宅流通の市場規模を4兆円(2013年)から8兆円(2025年)へ、リフォームの市場規模についても7兆円(2013年)から12兆円(2025年)という成果指標を掲げられる中、どのような施策が進められているのだろうか。

2017年6月23日、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会の第9回社員総会で、特別講演として登壇した国土交通省 大臣官房審議官 伊藤明子氏(当時)から、ストック住宅関連施策についての発表があったので紹介したい。


新設住宅着工数の推移(長期)を表したグラフ。東日本レインズによる集計を開始した平成2年以降、<BR />初めて首都圏における中古マンションの成約件数が新築マンションの発売戸数を逆転した<BR />(資料)国土交通省『住宅着工統計』を元に作成



「住みたい」と思える既存住宅の流通促進「安心R住宅」(仮称)


国土交通省は今後の住宅施策の目指す主な方向性として、以下の2つをあげている。
1)空き家を含む既存住宅をリフォームして売却・賃貸にすることで、若年や子育て世帯の住居費等の負担を軽減
2)魅力ある既存住宅の供給を通じて、住宅が資産として評価されるようにすること

これらの課題解決に向けた取組みの一つが「安心R住宅」だ。
従来の中古住宅に対する不安や汚さ、情報の少なさといったネガティブなイメージの払拭を目指し、一定の品質を備えた既存住宅に、国の関与のもとで「安心R住宅」の商標を使用できるようにする仕組みだ。

安心R住宅の対象となる住宅の要件として、以下がある。
■「不安」の払拭するための要件
・耐震性を有すること
・インスペクションの結果、構造上の不具合及び、雨漏りが認められず、購入予定者の求めに応じて既存住宅売買瑕疵保険を付保できる用意がなされているものであること
■「汚いイメージ」の払拭するための要件
・事業者団体毎にリフォームの基準を定め、基準に合致したリフォームが実施されていること
・リフォームを実施していない場合は、参考価格を含むリフォームプランの情報を付すること
・外装、主たる内装、水廻りの現況の写真等を情報提供すること
■「わからない」の払拭するための要件
・新築時の住宅性能評価や設計図書に関する情報、過去の修繕履歴などの情報の有無が広告時に開示されること

今後、不動産仲介事業者や不動産ポータルサイトは、これらの基準を満たす物件に対して「安心R住宅」の商標を表示することで、掲載されている物件が一定の品質を備え、適切な情報提供が行われているものであることがわかるようになる見込みだ。


「安心R住宅」の商標付与のイメージ。<BR />国は、「安心R住宅」の商標及び、それを付与できる住宅の要件を設定した上で、<BR />商標の使用を希望する事業者の団体を審査・登録し、商標の使用を許可する。<BR />事業者団体はリフォームの基準及び商標の使用について、ルールを設定し、団体の構成員の事業者の指導・監督を行う<BR />(出典:国土交通省「住みたい」「買いたい」既存住宅の流通促進)



空き家等を活用した新たな住宅セーフティネット制度


今回報告された3つの住宅ストック関連法案のうち、2017年10月25日に施行されるのが「新たな住宅セーフティネット制度」である。単身高齢者や子育て世帯、低所得者など、住宅の確保に困る"住宅確保要配慮者"に対し、空き家を活用して入居を促すことで、増える空き家の問題と住宅弱者の問題を両面から解消する狙いがある。
日本賃貸住宅管理協会の調査によれば、単身高齢者の入居に対して家賃滞納や孤独死などを理由に「拒否感がある」と回答した大家の割合は65%にのぼる。また、単身高齢者は今後10年間で約100万人(うち民間賃貸入居者22万人)増加すると見込まれており、これに伴う生活保護受給者の増加が懸念されている。

今回の住宅セーフティネット法の改正では、「住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度」が創設された。空き家を含む賃貸住宅の大家が、"住宅確保要配慮者の入居を拒まない"という意思のもと都道府県ごとに申請、耐震性能や一定の居住面積の適合確認後に登録されるものだ。登録された場合、国、自治体から大家に対して改修費用の補助や融資、家賃・家賃債務保証料の低廉化費用が補助される。
また、住宅確保要配慮者と物件のマッチングを円滑に進めるために、都道府県が家賃債務保証等の居住支援活動を行うNPO法人等を指定し、情報提供や入居相談を実施するとしている。


出典:国土交通省 住宅局『新たな住宅セーフティネット制度について』



空き家の活用による地方創生。不動産特定共同事業法の改正と民泊新法


住宅ストック関連法案のうち、不動産証券化の支援を目指すのが「不動産特定共同事業法の一部を改正する法律」だ。
「不動産特定共同事業」とは、宅建業免許を持った不動産の専門家が、複数の投資家から出資金を調達し、不動産売却や賃貸収入などの収益を投資家に分配する事業を行うことを指す。
今回の改正では、空き家や空き店舗等の再生・活用事業に、地域の不動産事業者等が幅広く参入できるよう、出資総額等が一定規模以下の「小規模不動産特定共同事業」が創設された。これにより、比較的小規模な不動産業者でも複数の投資家に出資を募って事業が行えるようになり、投資家としても少額から不動産投資が可能になる。
また、事業者の資本金などの要件を緩和すると共に、5年の登録・更新制とするなど投資家保護を確保する内容も盛り込まれている。

住宅ストックの"場"の有効活用の一つとして、2017年6月9日に成立したのが住宅宿泊事業法、いわゆる「民泊新法」だ。急増する訪日外国人観光客への宿泊施設の供給と、空き家の有効活用を目的としている。
これまで民泊を合法的に行うためには、旅館業法で定める営業許可を所得して行うか、国家戦略特区である東京都大田区、大阪府(政令指定都市および中核都市の37市町村)で行うかのどちらかしかなかった。
民泊新法では、都道府県知事への届け出た上で年間営業日数を180日以内とし、非常用照明器具や警報機など、最低限の安全確保のための措置が必要である。


民泊関連制度の概要(3類型)について 国土交通省の資料を元に作成



既存住宅の評価が変わることで、住宅の購入意識も変わる


安心R住宅のような基準は、既存住宅の購入を検討する人にとって、これまでよりも安心感に繋がる要素の一つになる。また、既存住宅が購入対象になることで、新築のみを検討していた人にとっては、より住まいの選択肢が広がることも考えられる。そして何よりも買主自身が既存住宅の購入の際に、イメージや見た目だけでなく、住宅の品質を見極める上でどのような点をチェックすべきなのか、という視点を持つようになる点に、この施策の大きな意義があるのではないだろうか。

建物の価値が築年数の経過と共に減少してしまう現状の中、将来的に既存住宅が正しく評価されることで、住宅購入を資産形成の一部として捉えることもできるようになるだろう。そうなれば、老後資金形成などを考える上で、"住宅購入"がより前向きなものとして捉えられる時代になるかもしれない。


安心R住宅と3つの住宅ストック関連施策について発表をする国土交通省 伊藤明子氏



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