日本初、奈良市指定文化財を宿泊施設にリノベーション。「ならまち」に残る豪商の住まい「青田家住宅」の活用

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日本初、奈良市指定文化財を宿泊施設にリノベーション。「ならまち」に残る豪商の住まい「青田家住宅」の活用の記事画像

奈良の旧市街「ならまち」に残る豪商の住まい「青田家住宅」


世界遺産の東大寺や興福寺、春日大社を擁する広大な奈良公園。その南には一転して、庶民的な雰囲気の旧市街「ならまち」が広がっている。一帯は平城京の「外京」にあたり、当時の街路の痕跡を残しながら商業地や住宅街として発展してきた。戦災を免れたおかげで、江戸末期から明治にかけて建てられた町家が数多く残る。

奈良市の指定文化財「青田家住宅」は、その「ならまち」の東南のはずれにある。「ならまち」中心部では碁盤の目状だった街路が、このあたりでは東西を結ぶ街道に切り替わり、町家の間口もやや広くなる。「青田家住宅」が建つ道は「清水通り」と呼ばれ、旧柳生街道「滝坂の道」へと続いている。

清水通り付近には春日山系から流れ出る名水が湧き、これを利用した酒造やしょうゆ製造が盛んだったという。青田家も、「横田屋」の屋号で代々醤油の製造販売を行ってきた。敷地内に残る井戸は、今も豊かな水を湛えている。


「青田家住宅」周辺の街並み。(上)今も造り酒屋が残る。(下)町家や蔵が並ぶ。奥に見えるのが「青田家住宅」を改修した「NARAMACHI HOSTEL & RESTAURANT」



建物の持ち味を活かし、奈良の伝統的な暮らしを追体験できる宿泊施設に


この「青田家住宅」が2016年2月20日、宿泊や食事ができる「NARAMACHI HOSTEL & RESTAURANT」に生まれ変わり、営業を開始した。

「文化財を宿泊施設にリニューアルしたのは、日本でもここだけです」と総支配人の吉田敬之さんは語る。もともとホテルや料亭だった建物が文化財に登録された例はあるが、文化財に指定されてから宿泊施設に用途変更した例は他にないという。ひとたび文化財になれば、改修はきわめて困難だからだ。「この建物も、本体にはほぼ手を加えていません。客室やシャワールームをつくるため、蔵の内側に新しく壁を入れて仕切ったぐらい。文化財の指定から外れている部分もあるので、そこを利用してテラスや喫煙コーナーを設けました」

古びた畳も、色あせた襖紙もそのまま。青田家の人々が重ねてきた暮らしの延長線上にいるように、古都の生活史を体感できることが、この宿で過ごす魅力だ。蔵のダイナミックな小屋組みを見せるため、一部の客室には天井を張っていない。室内の音は筒抜けになるが、建物の持ち味を活かすことを優先した。


(左上)座敷は改修せず、そのまま利用。畳の大きさも現代のものと少し違うため、取り替えていないそうだ(左下)蔵を利用した客室の廊下。左側の黒っぽい壁は、質感のある蔵の壁をそのまま現している(右)もうひとつの蔵の客室。あえて天井を張らずに屋根の構造が見えるようにした



江戸末期の奈良ならではの、太い木材を豪快に使った町家建築


「青田家住宅」が建てられたのは安政3年(1856年)、江戸の末期だ。300坪を超える敷地に主屋と落棟座敷が並び、3棟の蔵がある。

主屋はわずかに“むくり(上方向の反り)”がついた、大きな切妻屋根で、棟の上に換気のための腰屋根が載っている。表構えは、玄関の右側が奈良独特の丸太を用いた“法蓮格子”で、左側が三寸角の出格子。どちらも間隔が広く太い格子で、堂々として風格がある。

庇の上の壁には、大小2つの“虫籠窓(むしこまど)”が付いている。二重に縁取った木瓜型(もっこうがた)になっている、手の込んだつくりだ。

さらに、主屋の左に続く腰壁塀の内側に、主屋より屋根の低い“落棟座敷”がある。


(上)正面外観。向かって右が“法蓮格子”、左が出窓のように張り出した“出格子”。下枠も驚くほど太い(下)手前の塀の内側に庭があり、その奥に主屋より棟の低い“落棟座敷”がある



吹き抜けの通り庭には、春日大社の神様への供物を炊く“かまど”も


玄関を入るとすぐ左が“みせの間”で、今はホステルのフロントとして使われている。奥に続く吹き抜けのロビーは、かつては土間の“通り庭”だった。太い梁や桁、貫が縦横に走る、豪快な屋根の架構は、この建物の最大のみどころだ。しっとりとほの暗い空間に、高いところにある窓から日光が射し込む。

この通り庭には、タイル張りの流しや“かまど”も往時のまま残されている。中でも珍しいのは、ひとつだけ他から離して設けられた大きな“かまど”。これは三宝荒神を祀るもので、人間ではなく、神様のための“かまど”だ。前出の吉田さんによれば「大晦日にこの“かまど”で炊き出しをして、春日大社にお供えしていたそうです」。かつては安易に触れてはならなかったという。

落棟座敷には茶室と広間があり、レストランのダイニングルームとして使われている。主屋が建てられたあとに増築されたとみられており、細い材を幾何学模様に組んだ欄間や障子など、どこかモダンな印象の、繊細な建具が特徴的だ。

建物のそこここに置かれている箱階段や長持ち、風炉や鉄瓶などの家具・道具類は、いずれも青田家で使われていたもの。豪商と呼ばれた一家の暮らしぶりがしのばれる。


(左上)通り庭の上に見える屋根架構(左下)通り庭に床を張ったロビー。右手前の丸い“かまど”が神様用。奥にある人間用の“かまど”は今もイベントなどで使うそうだ(右上)中庭を望む座敷(右下)茶室



西欧や北米から多くの宿泊客が訪れる。日本文化を発信するイベントも企画


「青田家住宅」は1990年に奈良市の文化財に指定されたが、その後も青田家の末裔が住んでいたため、長く非公開のままだった。しかし、前述のように文化財になると改修も難しく、ここ何年かは使われていなかったという。「由緒ある建物を活用したい」という青田家の願いと、古民家再生に関心を寄せる東京の会社「easygoing」を結び付けたのは、双方から相談を受けた奈良市だった。

奈良には国内外から年間1000万人以上の来訪者があるが、宿泊施設が少なく滞在時間が短いのが課題とされる。「easygoing」の濱野浩一社長は「青田家住宅」と出会ったときから、ゲストハウスとしての活用を着想していたそうだ。

改修は奈良市の「奈良町都市景観形成地区建造物保存整備事業」・「ならまち町家建物内部改修モデル事業」で、「奈良県観光活性化ファンド」の第1号の投資対象にもなった。「NARAMACHI HOSTEL & RESTAURANT」は、町家の歴史を受け継ぎながら活用する先行例として期待されている。

オープンから約1年半、宿泊客の多くは、フランス、イタリアや北米など海外からの観光客だという。「国内からは、建築学生が泊まり込みで建物を見学して行く例もありますね。周辺で寺社仏閣を見て、ここで町家を体験して。丸1週間滞在したグループもいました」と、総支配人の吉田さん。「今後は日本や奈良の食文化・住文化を発信する、体感型・体験型のイベントも企画していきたいと考えています」。

取材協力/NARAMACHI HOSTEL & RESTAURANT
http://www.naramachihostel.com/


(左上)中庭の奥にある蔵にはバーとキッチンがある(右上)蔵のひとつ。丸太をそのまま使ったような太い棟木が特徴だ(左下)敷地内には、なるべく本物と同じ素材を使ったという、10分の1の模型が展示されている(右下)玄関近くにあるギャラリー。アンティークや着物地を使った雑貨などを扱っている



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