最年少が66歳!? 天然アユ漁継承者不在の危機に立ち上がった一人の漁師。空き家を拠点に川文化を伝える

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築48年の空き店舗をリノベーションし川文化を広める拠点をオープン


岐阜県の南部に位置する各務原市に2017年9月、一人の川漁師が川文化を伝える拠点『ゆいのふね』をオープンさせた。
築48年の木造2階建て・2軒続きの空き店舗をセルフリノベーションし、元寿司屋だった店を、鮮魚や加工品の販売のほか、水族館の職員を招いての出張授業や、魚のさばき方体験など、川文化を広めるスペースとして利用。隣の元美容室だった店舗はカフェとして改装し、栄養士である奥さんが作ったスイーツやコーヒーなどを提供している。

オーナーは平工顕太郎さん。長良川を拠点に天然のアユを獲る川漁師だ。平工さんに『ゆいのふね』オープンのきっかけについてお話を伺った。


天然アユ漁唯一の30代・平工さん。長良川をめぐる漁舟ツアーの案内人でもある。写真は元美容室を改装した『ゆいのふね』のカフェスペース。お客が自分で豆を挽くセルフドリップスタイルのコーヒーや、"清流スイーツ"を提供している



最年少66歳。清流文化を支える漁業者がいなくなる!?


「みなさん、天然のアユって食べたことありますか。アユは岐阜県の県魚で有名ではあるけれど、地元では消費されず都心部へ高級魚として出荷されてしまいます。天然のアユが獲れるのに、それを地元の人たちが消費できない現実を漁業者として寂しく感じていました。地元の財産を地元の人に味わってほしい、そんな思いがあり対面販売できる拠点を作りたいと思いました。
今はSNSの発達によって消費者と交流することができる時代です。こうした拠点を作って川文化をより広く知ってもらいたいというのも『ゆいのふね』をオープンさせた理由のひとつです」

川に親しみながら育ったという平工さんは、大学時代に水産学科でアユをテーマに研究。川漁師になることを夢見て現場に飛び込んだものの、想像していた以上に厳しい世界だったという。

「県が掲げている”清流の国ぎふ”というキャッチフレーズの通り、岐阜県は木曽川・長良川・揖斐川と大きな川が3つあり、水の恵みを享受して美濃和紙や和傘、岐阜提灯、日本刀などの工芸品や伝統文化が栄えてきました。けれども、その川のど真ん中で生きる漁業者は後継者不足により次々と看板を下ろしています。“清流の国”とうたっていながら、それを支える漁業者がいないのが現実です」と平工さん。

驚くことに平工さんを除くと、流域の漁業者最年少は66歳! 「アユのような地域ブランドの底上げのためには、清流文化を支えてきた漁師がいなくては成り立たない」と平工さんは言うが、まさに風前の灯である。アユの伝統漁法はまだ19種類残されているそうだが、継承は平工さん一人にかかっているのが現状なのだ。後継者不足の原因は、やはり不安定な収入にあるのだそう。

「アユ漁のシーズンは5月からの約5ヶ月。その間に僕らは年収分稼がなくてはいけません。でも天候被害があれば収入は大幅に落ち込んでしまいます。この不安定さを解消するためにはどうしたらいいかと考えました。家族を養うためにはオフシーズンの7ヶ月もきちんと安定した収入を得る必要がある。『ゆいのふね』は、川文化発信の拠点であると同時に、漁ができない冬季に収入を得るための生活基盤でもあります」と平工さんは話す。


アユは別名「香魚」、英語ではsweetfishと呼ばれている。配合飼料で育つ養殖と違い、天然のアユは石の表面に付いたコケを食べて生活しているから、そのコケが香りになるのだそう。「皇室献上のアユを獲る場所に舟を構えているので、日本最高級ランクのアユを扱っていると思います」(平工さん)写真提供:ゆいのふね



川ではなく、あえてまちで仕掛ける


平工さんは、岐阜城のふもと長良川で皇室献上の魚を獲る御料場に三艘の舟を持っているが、『ゆいのふね』があるのは川から離れた市の中心部だ。川魚を提供する販売店であり川文化を発信する目的ならば、川の近くで創業するほうがメリットがあるのではないだろうか。

「本当は舟のある川で勝負すべきなのかもしれないですけれど、僕はあえてこの場所を選びました。各務原市には県の水産研究所や河川環境楽園、世界の淡水魚を集めた水族館のアクアトト・ぎふといった水産主要基地が揃っていて面白いと思ったんです。駅前という立地は漁業とは相反する場所ですが、アクセスのいい場所で気軽に川を感じられるのが逆に強みになるのではと思っています」という平工さん。

『ゆいのふね』のすぐ目の前には名鉄「各務原市役所前」駅があり、駅周辺には小中高大学、養護学校を含め7つの学校がある。近所の小学生や学校帰りの若者たちがふらりと立ち寄れる気軽さを魅力だと考えているようだ。


左が元美容室、右が元寿司屋。左側はカフェ、右側がアユの販売や体験プログラムを行う場所となっている。まちなかで魚とふれ合う機会がない子どもたちも気軽に立ち寄れるようにと、店内には大きな水槽を設置。川魚だけでなくお客さんが獲ってきたスッポンも飼育中!



資金はクラウドファンディングを活用、改装は地域の力を借りて


先に書いたように、『ゆいのふね』は空き店舗を活用している。これは市の「DIY型空き家リノベーション事業」を利用したもの。同事業は、空き家対策だけでなくシティプロモーションの一環として市をあげて取り組んでいるということで、市役所建築指導課住宅係主事の古谷亮介さんにお話を伺った。

「2013年、総務省の住宅土地統計調査によると各務原市の使われていない空き家は2,540戸。空き家率は4.1%で岐阜県内ではそこまで深刻な状態ではないものの、市内一番の商業エリアである駅前も建物の老朽化と高齢化により空き家や空き店舗が増えています。
そんな中で、市の若手職員提案制度によって、魅力あるまちづくりの一環としてあげられたのが『DIY型空き家リノベーション事業』です。2015年度の末から、内閣府の地方創生加速化の交付金を活用して事業がスタートし、昨年からモデル事業として取り組んできて、今年に入り平工さんの『ゆいのふね』の契約に至りました」(古谷さん)

『ゆいのふね』は、この事業制度を利用しての店舗第一号だ。市役所職員や地域の有志の手を借りて、2階建ての店舗を改装。リノベーション費用はクラウドファンディングを活用し、目標金額50万円のところ、140万円を超える資金が集まったという。

平工さんは
「大家さんは格安で物件を貸してくれる、デザイナーさんも破格でデザインを引き受けてくれていると思います。僕は僕で修繕費を自己負担し、お互いが痛み分けしている」と話すが、空き家空き店舗のオーナーは空き家をそのままの状態で貸し出すことで修繕費や家のクリーニング代をカットすることができ、借主は空き家を自分好みにアレンジできるのはメリットに感じられる部分も大きい。


写真上:女性や子どもも参加した空き店舗のリノベーション風景。写真下:改装中の土間。「改装に携わってくれた方はこの店に愛着をもってくれていて、いろいろな場所で宣伝もしてくれます。みんなで作り上げたという思いも強く、絆につながっているのかもしれません」(平工さん)写真提供:ゆいのふね



漁師にしかできないことでまちのにぎわいを取り戻したい


岐阜大学の教授や水族館の職員らと連携して地域の子どもたちに川の生態や、魚のさばき方を教える体験プログラムも実施。
「まちなかにいて、川とふれ合う機会がない子どもたちにも川や魚の面白さを知ってもらいたい」と平工さん。

今後は空いている2階も使いながらのプロジェクトを考えているそう。
「夜釣りを体験し、釣った魚をさばいて食べて、宿泊して、翌朝はアユのセリにでかけるツアーを考えています。アユのセリは日本全国で岐阜県にしかないんです。ここでしか体験できないこと、漁師である僕にしかできないことをでやっていけたらと思っています。
それに、このあたりは、昔は飲み屋街でとてもにぎわっていたと聞いています。僕が仕掛けたこの拠点が起爆剤となって、まちがもう一度賑わいをみせてくれたら嬉しいですね」
とも話していた。


川が好き、魚が好き、という子どもたちを増やす、漁師を身近な職業として感じられる、『ゆいのふね』はそんな場所であり、シーズンオフの漁師の仕事としてのひとつのモデルケースとなっていくだろう。時間はかかるかもしれないが後継者不足を解消する足がかりとなり、まちのにぎわい創生の糸口となってくれたらと願う。


取材協力:ゆいのふね
http://www.yuinofune.com/
各務原市DIY型空き家リノベーション事業
http://www.city.kakamigahara.lg.jp/life/sumai/017180.html


川で漁をする平工さん。19の伝統漁法のうちのひとつ「手投(ていな)漁」の様子。次世代の清流文化を担う川漁師の挑戦に今後も注目していきたい。写真提供:ゆいのふね



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