空き家対策に欠かせない「産官学」の連携~日本不動産学会シンポジウムより~

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空き家対策を個別に進めることは困難


全国各地で問題となっている空き家だが、その発生要因はさまざまであり、空き家の状況も地域によって異なる。問題の解決や改善のためには、いろいろな立場の者が前向きなアイデアを出し合い、それぞれの地域に合った方策を進めることが大切だ。

他の都市における「失敗事例」から教訓を得ることも必要だが、それと同時に「成功事例」を学んでいくことも欠かせない。また、多くの知見を集め、よりよい解決策を探っていくうえで、住民や民間企業も巻き込んだ「協力体制」を構築することが求められる。そこで注目されているのが、空き家問題に取組む「産官学」の連携である。

2017年10月27日に「大都市部の空き家利活用における住民・行政・企業の役割と連携方法-地方の経験を生かして-」と題した公益社団法人日本不動産学会主催(独立行政法人住宅金融支援機構共催)の平成29年度科研費シンポジウムが開催された。今回はその様子をお伝えすることにしよう。


空き家対策を進めていくうえで「産官学」の連携が欠かせないという。いったいどのようなことだろうか。「大都市部の空き家利活用における住民・行政・企業の役割と連携方法」をテーマにした日本不動産学会シンポジウムの様子をお伝えする。



行政・民間・大学・地域住民の連携が重要


公益社団法人日本不動産学会会長で政策研究大学大学院客員教授の三井康壽氏による主催者挨拶や東京都市大学環境学部教授の室田昌子氏によるシンポジウム趣旨説明の後、まず壇上に上がったのは横浜市立大学国際総合科学部教授で学会の理事を務める齊藤広子氏だ。

齊藤教授による基調講演では、国内における空き家の現状や施策の状況、必要な対応策、地域の取組み事例などについて、たいへん分かりやすい解説があった。空き家問題の背景として、時代に合わない不動産制度、空き家予防や利活用のため「総合的に対応する政策の不在」を挙げ、公民連携、民民連携、公公連携、地域との連携など「連携体制の欠如」も指摘された。

また、必要な対応策として齊藤教授が示したのは次の6つだ。
□ 不動産(管理)施策
□ 都市計画との連携
□ 福祉政策との連携
□ 居住政策との連携
□ 不動産業政策との連携
□ まちづくりとの連携

それぞれの細かな内容についてここで触れることは避けるが、「連携」という言葉が繰り返し使われていることからも分かるとおり、空き家対策を進めるためには都市計画・住宅・福祉政策など行政内部における「公の連携」、さらにその「公」と民間・大学・住民などとの「公民、産官学+地域の連携」が重要であるとしている。

そして、民間同士をつなぐ「プラットフォーム(民民連携)」を構築していくことが大切だとされた。基調講演の後半では、横浜市立大学の学生が参加する「まちづくりコース」による実習内容の紹介などもあったが、若いうちから空き家問題に取組む人材が増えることは、不動産の将来にとってたいへん有意義なことだろう。

その学生たちがこれから先、不動産分野の職業に就くかどうかはともかくとして、国内における不動産のあり方や消費者志向の変化にもかかわっていくはずだ。


基調講演をされる齊藤教授



空き家対策における行政と民間の役割分担


次に自治体における空き家対策への取組みとして、北九州市産業経済局の石松亨介氏、京都市都市計画局まち再生・創造推進室の谷田部衛氏による事例紹介があった。

北九州市は2011年8月に「リノベーションスクール」が始まったことでも知られており、2017年3月までに12回開催されている。そのベースにあったのは2010年に検討がスタートした「小倉家守構想」(2011年3月に策定)であり、その都市マネジメント政策を打ち出した市の役割は大きかっただろう。

石松氏は「民間の知見に頼っただけ」と控えめな発言をされていたが、まったく新しい取組み手法を全国に先駆けて取入れることができたのは、北九州市の柔軟な姿勢があったからだと考えられる。話はシンポジウムから逸れるが、或る市では議会の古参議員が「空き家、空き家と騒げば市のイメージが悪くなるから、空き家対策を前面に出すな」と反対姿勢を示しているという。たとえ民間が主体となって取組む空き家対策でも、自治体サイドの全体が本気にならなければなかなかうまく前に進まない。

話をシンポジウムに戻すが、北九州市の「リノベーションまちづくり」について、小倉駅周辺を中心に門司港、黒崎、若松などの事例が紹介された。その根底にあるのは行政と民間の連携、役割分担だ。また、行政からの補助金などに頼るのではなく、しっかりとした投資計画にもとづくリノベーション事業計画を立てることが重要だという。

続いて谷田部氏による京都市の事例紹介では、市の特徴を踏まえたさまざまな条例、取組み、空き家対策促進事業などについて説明があった。とくに空き家化の予防を目指す「おしかけ講座」の開催、「地域の空き家相談員」による無料相談、利活用・流通のための「専門家」の無料派遣などは特色のある取組みだろう。

「おしかけ講座」は、地域や高齢者の集まりなどに、司法書士などの専門家と市の職員が「おしかけ」て、空き家化の予防をテーマとした説明会や相談会をするようだ。「地域の空き家相談員」は、希望する「まちの不動産屋さん」を市が登録するもので、2016年度末時点では273名が登録されているとのことである。


事例紹介をされる、左:石松氏、右:谷田部氏



民間もさまざまな手法で空き家対策・まちづくりに取組んでいる


住民の立場からは、横浜市旭区連合自治会町内会連絡協議会 若葉台連合自治会会長の山岸弘樹氏により「住民団体を中心とした取組み」についての紹介があった。

横浜若葉台団地は、神奈川県住宅供給公社による開発面積約90ヘクタール、分譲住宅5,186戸、賃貸住宅790戸、高齢者住宅326戸などの大型団地だ。居住人口は14,529人(2016年9月1日現在)にのぼる。入居開始は1979年3月であり、38年以上が経った現在、住民の高齢化や空き家の増加に悩まされているという。

とくに就職、独立、婚姻などによる若年世代の大量流出が課題となっているようだが、その一方で要介護認定率は全国平均や若葉台が属する横浜市旭区の平均を大きく下回るという調査結果が示された。

その背景には、開発当初から住民主体で進められてきた活発な地域活動があるようだ。住民自らが問題解決にあたり、多様な主体と役割分担しながら「住民連携のまちづくり」「高齢になっても在宅で安心して心豊かに暮らす福祉のまちづくり」などに取組んでいるという。毎年、定期的に開催される運動会や文化祭、まつり、花火大会、正月マラソン大会なども活発なようだ。

今後の目標として「世代をつなぎ未来をひらく、持続循環型まちづくり」を通して、まち全体の価値を維持し「選ばれるまち」であり続けることを目指しているようだが、空き家対策のうえでも参考になる事例だろう。

引き続き企業の立場として、東京R不動産代表ディレクターの吉里裕也氏から移住促進のための「トライアルステイ」(お試し居住プログラム)などの事例紹介、パナホーム株式会社ストック事業企画部の奥村強氏から同社が取組む「ニュータウン活性化」の事例紹介があった。

パナホームによる取組みは奈良県河合町にある「西大和ニュータウン」を対象としたもので、河合町との連携協定(2014年6月)にもとづくプロジェクトだ。国土交通省による「平成26年度住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業」として採択を受けているというが、1960年代の開発にあたった事業主体(現存しない)とは異なる企業が参画しているところが大きな特色だといえそうだ。

活動の成果が本格的に表れてくるまでにはまだ時間もかかるだろうが、事業周知WG、関係構築WG、調査活動WG、事業推進WGの活動を通じて、すでに住民からさまざまな相談が寄せられているという。


上:山岸氏、左下:吉里氏、右下:奥村氏



地域住民が積極的に参加できる仕組みづくりが必要


シンポジウムの後半には登壇者全員(三井会長を除く)によるパネル・ディスカッションが行われたので、主な発言要旨をまとめておくことにしよう。まず初めのテーマは「空き家の利活用で行政・企業・住民組織が果たせる役割と限界」について。

【石松氏】
行政の役割としては、取組みの入り口のところで外部からの知見を含めたいろいろな考え方を紹介し、きっかけや議論の場をつくることが大事。さまざまなハードルをクリアするための補助やお手伝いをしていきたい。

【谷田部氏】
空き家活用だけでなく、たとえば終活など、いろいろなところで空き家問題を考えてもらうことが大事であり、庁内における多くの部署の連携も欠かせない。空き家所有者へのアプローチは行政がやっていくべきで、行政から不動産の専門家に紹介するなどして、所有者の悩みに応えていくことが大事だと考える。

【山岸氏】
住民の立場からは「あそこが本当に空き家なんだろうか」ということが分かりづらいのが悩み。みんながこの街にもっと住み続けたいと思うようなまちづくり、就職などで外へ出た人に「そろそろ帰っておいで」とPRできるような取組みなどを応援していきたい。

【吉里氏】
いつも意識していることは「まず実践すること」であり、実践によって「成功事例」をつくっていくことが自分たちの仕事だと思っている。行政に対しては「同じ方向を向いて議論すること」や、あいまいな法解釈をどうするのかなど、二人三脚でやっていくことを期待したい。

【奥村氏】
個々の空き家ではなく、エリア全体あるいは大規模な事業として向き合うときに、住民から「商売気」を感じられてしまうようなやりにくさもある。行政がコーディネートした組織として、安心感のもとにワンクッションをおき、その後ろにいろいろな専門知識をもった組織が控えているといった体制づくりが欲しい。

【齊藤氏】
それぞれの事例を聞くと、行政との連携は比較的うまくいっているようだが、それだけでなく大学をもっとうまく活用して欲しい。大学にも地域貢献が求められているのであり、「学生が地域と一緒に育っていくこと」も空き家対策を進めるうえで重要である。

続いて「他の組織に対して望むこと」などについて発言があった。

【石松氏】
外から新しい考えを持ち込んだり若い人が中心になって動いたりするときに、住民はどうしても警戒する気持ちが先に立ってしまいがちだが、北九州・小倉の成功では地元住民の理解や協力が非常に大きかった。新しい取組みや若い人の動きを暖かく見守りながら、地域住民も一緒に動くことが大切である。また、エリア展開をしたり事業を継続して広げたりするときに、最初の段階で補助金がついてしまったらうまくいかないことを、まわりから言われて気付かされた。規模は小さくても初めから「ビジネス」として動かしていくことが大事であり、行政がそのような考え方をもつことが欠かせない。

【谷田部氏】
空き家の利活用に関してさまざまな団体が活動しており、行政に対してもいろいろな協力を求めてくるのだが、それらの団体が直接、地域に入っていってもなかなか地域住民に受け入れてもらえない。そこで、役所を通じて地域へ紹介する流れをつくれないかと考えている。

【山岸氏】
まちづくりの新しい展開をしていくうえで「それぞれの関係者が本音を言い合える関係をつくること」がたいへん重要だと感じる。

【吉里氏】
地域の活性化を図っていくうえで、地域住民のご理解をいただくことがかなり重要であり、空き家だけでなくその周辺の公共空間・施設などとの連携ができたらいいと考える。また、民泊などについても単純に反対するだけでなく、どうすればうまく活用できるのかをみんなで考えることが大切だろう。そのような議論ができる場所を設けることは民間企業では難しいため、行政や地域でつくって欲しい。

【奥村氏】
個別の空き家対策で問題を解決することは不可能だと思う。街全体の計画見直しや、まちづくりのやり直し、公共交通機関との連携まで踏み込んでいかないと根本的な解決にならないことを、これまでの活動を通して実感した。全体的な対策ではなく、地域を特定して集中的に行う活動も必要なレベルになっているように感じる。

【齊藤氏】
空き家対策を実践していくためには、行政の中の連携、不動産・建築・建設のチーム連携、民間の連携、公民の連携、大学との連携などをふまえたプラットフォームをつくることが必要。そのプラットフォームを固定することなく、だんだん仲間を引き入れながら時とともに動かしていくことも欠かせない。まずはアクションを起こすことが重要であり、1つが動けば点が線になり面になるだろう。

いくつかの成功事例が紹介され、さまざまな意見が交わされたシンポジウムだったが、全国にはもっとたくさんの取組みや実践例があるはずだ。適切な空き家対策の進め方は地域によっても異なる。これからも各地の取組みに注目していきたい。


パネルディスカッションの様子。空き家対策の進め方についてさまざまな意見が交わされた



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