東広島市 中心街人口増と郊外空き家問題。動き出した空き家対策と学生とのプロジェクトとは?

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人口は右肩上がりで増加中。気づくのが遅れた『空き家問題』


広島市中心街から電車で約30分、その名の通り“広島市の東”に位置する東広島市は、複数の大学のキャンパスが集まる国際学園都市であり、官民の学術研究機関や企業の誘致を積極的に進めながら発展を遂げてきた。広島空港からも近く、新幹線の『東広島』駅もあるため、“広島のもうひとつの玄関口”的な役割も担っている。

もともと、昭和49(1974)年に西条・八本松・志和・高屋の4町が合併して誕生したのち、平成の大合併に沸いた平成17(2007)年には黒瀬・福富・豊栄・河内・安芸津の5町も合併。現在は、広島市・福山市・呉市に次ぐ県下4番目の人口(平成28年時点/19万3486人)を誇り、右肩上がりで人口が増え続けているという成長の可能性を秘めた都市でもある。

しかし、そんな東広島市の中で現在の課題となっているのが、市の郊外エリアに広がる『農村部の空き家問題』だ。東広島市全体を見ると確かに人口は増え続けているが、それは市の中心街に限った現象。農村部では高齢化率も著しく進んでおり、同じ市内でも“地域間格差”が激しいという。

人口は順調に増え続けているのに、郊外の空き家問題に悩む…合併によって新たな課題を抱えることになった東広島市の取り組みを取材した。


▲市の中心街から車で約30分ほどの福富町には日本の原風景とも言えるのどかな里山が広がっている。しかし、地元の若者たちは進学を機に中心街やお隣の広島市へ移り住むケースが多く、地元のお年寄りも病院やスーパーが近くにないことから便利な場所へ引越しする人が増えている。この『福富』地域の高齢化率は36.8%だという



中心街では住宅着工件数が増加、郊外では空き家が増加


「実は、うちは広島県内でも『空き家対策』に出遅れた自治体です。人口が伸び続けているので、他市に比べて取り組みが遅くなりました。現在は、具体的にどのような施策を実施していくか検討している段階です」

市の空き家問題に取り組んでいるのは、東広島市役所の建設部住宅課だ。人口増加に伴い中心街では住宅ニーズが増え続け、着工件数も伸びているそうだが、それに反して郊外の空き家は増え続けている。

「平成26年に空家対策特別措置法が策定され、平成28年に独自の『東広島市空家等の適切な管理に関する条例』を作り、まずは“空き家がどこにあるのか?”という調査をはじめることになりました。地元のことをよく知っている住民自治協議会に調査を依頼し、空き家の件数を把握。そのデータを基にして、老朽具合はどの程度か?を一軒ずつ把握するようにしました。

その結果、現在の東広島市内の空き家件数は3760件。そのうち約67%は旧耐震のもので、現在の耐震基準を満たしておらず、何らかの補修・改築が必要な家でした。また、空き家を管理している人の年齢は7割が60歳以上で、管理者の多くが他の地域に住んでいる。本人は他の場所で暮らしているので、家がどのように老朽化していようとあまり関心が無い、というのが現状です」

親が亡くなり、都会で暮らす子どもが空き家を相続する。しかし、家は人が住まなければどんどん荒れていくため、地域に老朽化した空き家が増え、景観も治安も悪くなる…これは、空き家がもたらす“負のスパイラル”であり、自治体としては早めに食い止めなくてはいけない。


▲左から:東広島市役所建設部住宅課の荒谷尚輝さん、平田恭介さん、瀬戸川徹さん。「東広島市には『広島大学』『近畿大学』『国際大学』『エリザベト音楽大学』があるので学生の数が増えていますし、工業団地の進出により人口も伸び続けています。そのため、他市に比べて取り組みが遅くなりました」と瀬戸川さん



空き家問題で最初に取り組むべき課題は、“人を呼ぶ”こと


そこで、東広島市では平成29年9月末に独自の『空き家バンク』を立ち上げた。こちらも他の自治体に遅れての立ち上げだ。

「これまで、空き家情報については市では管理せず、地元の宅建協会のデータバンクへ情報提供を行っていました。しかし、不動産会社に空き家を紹介しても、そもそも郊外の空き家は不動産的な価値がないため敬遠されてしまい、一向に空き家の利活用が進みませんでした。そのため『空き家バンク』を立ち上げ、市のほうから所有者へ空き家登録を呼びかけることにしたのです」

立ち上げから1ヶ月(取材時点)。東広島市では、空き家バンクへの登録を推進するために、空き家の所有者などに対して「いま困っていること」についてアンケートを実施した。その回答の中から利活用に前向きな持ち主を探し、家の老朽度を確認した上で空き家バンクへの登録を勧めたところ、1ヶ月で20件の候補物件が挙がり、5件の空き家登録が完了。滑り出しとしては上々の数字だ。

「空き家対策が他より出遅れてしまったぶん、他の自治体ですでに成功している事例を参考にしながら登録促進への工夫をしていますが、正直なところ行政でやれることには限度があると感じています。何より必要なのは“人の力”。まずは地域の人たちに『空き家バンク』の存在を知ってもらい、『空き家を活用する方法がある』ということを理解してもらうこと。そして、何より『移住してくれる人・定住してくれる人を呼ぶためのきっかけを作ること』。せっかく“良い器”を用意しても、“人”が来なくては意味がありませんから…」


▲平成17年に新たに合併した福富・豊栄・河内エリアは豊かな自然環境を生かして農業で栄えた集落だ。まちの中を車で走ると驚くほどの大豪邸が多く、この地方独特の赤瓦を使った立派な日本家屋が建ち並んでいる。「せっかくの豪邸であっても、家は持ち主がそこに住んでいないと“意思を持たない財産”になってしまう。親御さんと離れて暮らしている人は、お正月の帰省のタイミングで『家のしまい方』についてもしっかりと話し合ってほしい」(荒谷さん・平田さん)



都会生まれ、都会育ちだからこそ、『地方の建築』に関心を持った准教授


「まずは人を呼ぶ」。
そんな目標を掲げた東広島市の農村部に、救世主的に登場した人物がいる。近畿大学工学部建築学科で歴史意匠を研究している谷川大輔准教授だ。

谷川准教授は生まれも育ちも東京都心という“生粋の都会っ子”で、本業は東京港区に設計事務所を構える建築士だが、縁あって東広島にある近畿大学のキャンパスで教鞭を執ることになった。

「僕自身も大学時代に建築を学んできましたが、東京で設計の仕事に携わりながら、いつの頃からか“都会の建築ばかりだけでなく、地方の建築のことを考えたい”と思うようになったのです。そんなときに、たまたま近畿大学から声をかけてもらい、これは郊外の建築や建物の保存について研究する絶好のチャンスだと思いました。せっかくなら田舎暮らしも体験してみたいと、農村部の空き家を探すことにしたのです」

谷川先生がここ福富町の一軒の空き家にめぐり合うまでには、実は3年の月日を要したという。まだ東広島市の『空き家バンク』が立ち上げられる前で、空き家の情報を集めようとすると地元の不動産会社に頼るしかなかったからだ。

「不動産会社の担当者はビジネスにならない物件は紹介してくれませんから“郊外の空き家を探している”と言っても話が進まない。仕方なく、人づてに紹介を受けながらたどり着いたのが『福富町』でした。実は、このエリアは広島県の『移住・定住のモデル地区』に指定されて、空き家を活用したカフェやパン屋さんができたりと、当時からすでに先進的な考えを持つ移住者コミュニティが形成されつつあったのです。そんな中で、築100年を超えるこの古民家にめぐり合い、2年間空き家になっていることを知って、所有者の方と相談して購入を決めました」

土地面積330坪、建坪62坪の母屋と30坪の納屋がついた空き家を約300万円で購入。それを教材にして、建築学科の学生たちに『伝統建築の技法を生かしながら現代風に改築する方法』を教えるという谷川先生のユニークな講義は市の関係者からも注目を集め、東広島市の『空き家対策協議会』計画策定諮問機関の委員に選ばれた。

現在は『空き家再生プロジェクト』を学生と共に進めながら、この古民家を会場としてイベントやワークショップを開催し、福富町へ“新しい人たち”を呼び寄せている。


▲近畿大学工学部建築学科歴史意匠研究室の谷川大輔准教授。「都会のど真ん中で生まれ育ったので、日本の田舎の風景に漠然とした憧れを抱いていました」と語る谷川先生は、妻子を連れて6年前にここ東広島へ移住した



空き家を再生しながら、地域の人たちとコミュニケーションを育むのが目的


谷川先生が購入した古民家は『星降るテラス』と名づけられた。その名付け親は地域の住民たちだ。夜になると満点の星空が里山を包み、幻想的な風景が広がることに由来する。

「東広島では、今ようやく『空き家件数、3760戸』という数字が具体的見えてきて、“さて、これからどうするか?”というところにようやく至った段階です。空き家問題に悩む農村部の中でも、地元の企業が率先して地域興し的な活動をしている集落もありますが、ここ『福富』の場合は地元というより“外から来てくれる人”を頼りにしている印象で、空き家対策を考えてくれる人、地域を盛り上げてくれる人を待っているんですね。そのため、排他的なところがなく、僕のようなよそ者でもすんなりと受け入れてくれる親しみやすさがあります。これはとてもありがたいことです。この『星降るテラス』を地域の皆さんが集まれる場所にして、地元の人と外から来た人のコミュニケーションを育む場所にしたいと考えています」

谷川先生と研究室の学生たちの『空き家再生プロジェクト』を軸にした新たなコミュニケーション形成はまだ始まったばかりだ。次回のレポートでは『星降るテラス』での改築作業の様子や、このプロジェクトが地域にもたらすものについてクローズアップする。

■取材協力/東広島市役所
http://www.city.higashihiroshima.lg.jp/
■取材協力/近畿大学工学部建築学科谷川大輔研究室
http://tanikawa-lab.jp/


▲築100年を超える『星降るテラス』は谷川先生の住まいであると同時に、建築学科の学生たちにとって“大切な教材”でもある。「古民家を使って建築的要素を採り入れながら改修すること。同時に、地域とのコミュニケーションを育むこと。これがうちの研究室のテーマですから、とても良い“教材”にめぐり合うことができたと思います」と谷川先生。改修には研究室の学生だけでなく、地域の人たちも積極的に参加しているそうだ



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