古民家活用に、国も乗り出す。全国8会場で開催された「歴史的資源を活用した観光まちづくりセミナー」

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全国8ヵ所で行われたセミナー。九州会場は定員120名の会場がほぼ満席に


日本経済において、今後成長が見込める有望な産業と目されているのが“観光”だ。
訪日外国人旅行者は年々増加している。ただ、一時の“爆買い”ブームが陰りを見せるなか、新たな観光資源・観光コンテンツの創出が課題となっている。
内閣官房「歴史的資源を活用した観光まちづくり連携推進室」では、全国8会場で「歴史的資源を活用した観光まちづくりセミナー」を開催。12月1日に行われた九州会場でのセミナーに参加してきた。


2017年12月1日に九州運輸局で行われたセミナーの様子



民間の専門家と政府が連携して地域の取り組みを支援する


基調講演は、観光庁の斉藤永氏による「日本の観光と、古民家を取り巻く環境」。各種データに基づいた日本の観光マーケットの現状と課題、そし古民家活用に向けた国の取り組みについての報告が行われた。

少子高齢化、特に生産年齢人口の減少は、これからの日本の経済を支えていくうえで大きな課題だ。あらゆる側面から対策を考えていく必要があるが、なかでも観光産業が担う役割は大きい。旅行者、つまり交流人口が増えることで、定住人口の減少を補う経済効果が期待できるからだ。たとえば、2015年の定住人口1人当たりの年間消費額125万円を旅行者の消費に換算すると、外国人旅行者8人分に相当する。

2016年の日本国内における旅行消費額は総額25.8兆円で、このうち外国人旅行者が占める割合は14.5%の約3.7兆円。これは、電子部品の輸出額(約3.6兆円)を超える水準だ。ただ、総額は増えているものの、旅行者1人当たりの支出額は2015年7-9月期の18万7166円をピークに減少傾向にあり、2016年10-12月期では前年比12.2%減の14万7175円にまで落ち込んでいる。今、観光の潮流は“モノ消費”から“コト消費”に移行しているといわれるが、日本国内では“コト消費”ができる観光コンテンツが不足しているのではないか。

外国人旅行者の滞在日数を国別に見ると、アジアからの訪日客は比較的短期だが、欧米からの訪日客は2週間ほどと長い。なおかつ、アンケートでは都市部より地方の生活文化に触れる旅を望む傾向が見られる。古民家や古い街並みが好まれるというデータもある。こうした観光資源を磨きあげ、活用していく取り組みが必要だ。

国は昨年3月30日に「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、新たな目標値を設定した。2020年までに訪日外国人旅行者数を4000万人に、旅行消費額を8兆円に。旅行者数は達成できそうだが、消費額は1人あたり20万円に相当し、現状から約5万円引き上げるという高い目標だ。

そのための施策として、政府は昨年9月に「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」を立ち上げた。今年1月30日には民間を中心とした「歴史的資源を活用した観光まちづくり専門家会議」と、内閣官房と観光庁・農林水産省の連携による「歴史的資源を活用した観光まちづくり連携推進室」を設置した。官民が連携して、各地域からの相談・要望にオーダーメイドで支援していく。2020年までに全国200地域に拡げることを目指している。


官民連携による支援体制(資料:内閣官房)



山間の限界集落が農家民宿で再生、城下町では分散型ホテルが成功をおさめる


講演では先進事例として、民間の公益法人であるノオトの代表理事・金野幸雄氏が、兵庫県篠山市での取り組みを報告した。

ノオトが篠山市で最初に手掛けたのは、盆地の谷の行き止まりにある全12戸の小さな集落、丸山の再生だ。着手時には、12戸のうち7戸が空き家で、人口は5世帯19人、農地の半分が耕作放棄地だった。そこで、住民と半年間、ワークショップを重ね、出した答えが「ここにある日本の原風景を展示し、体験してもらおう」というものだった。

7戸の空き家のうち、持ち主の承諾を得た3戸を一棟貸しの民宿に改修。さらに、うち1戸の蔵と納屋をレストランに改修したところ、神戸から著名なフレンチシェフが来て、裏山で捕獲されるイノシシや鹿などのジビエを中心とした地産地消型の料理を提供するようになった。朝は宿の運営にあたる集落の住民が、集落の食材だけでつくる朝ご飯を出す。丹波篠山ならではの黒豆味噌の味噌汁やきんぴらごぼう、切り干し大根など、宿泊しなければ食べられない地元の味だ。

料金は1棟1泊4万円、1名利用だとサービス料金込みで4万5000円になるが、それでも1人旅の宿泊客がやってくる。さらに集落では、伝統の注連縄づくりをワークショップにしたり、外国人旅行客のためにティーセレモニーを催したり、ウエディングパーティーの要望に応じたりしている。かつての限界集落に、多くの人が行き交うようになった。

営業開始から8年が経ち、集落にUターンする家族や、移住者も現れた。まもなく12戸中9戸に人が住み、残る3戸が宿泊施設になって、集落は完全再生されることになる。ノオトが考えていた以上の成果という。「何より驚いたのは、開業5年後に耕作放棄地がゼロになったこと」と金野氏。特に仕掛けたわけではないのに、オーガニック栽培を目指す人が入植してくるなどし、自然発生的に耕作地が再生されていった。

続いてノオトは、篠山市中心部の活性化にも取り組んだ。こちらは小学校区規模のコミュニティで、城下町として400年の歴史を持つ。しかしながらご多分に漏れず空き家が増え、なかには廃墟のようになっていたものもあった。

そこで、8年前からカフェ、工房などへの改修を進め、2年前にはいよいよ宿泊棟の整備に取り組んだ。まち全体をひとつのホテルに見立て、空き家4軒合わせて11室の宿泊室をつくる、分散型の開発だ。周辺の雑貨店や料理旅館、土産物店もホテルの一部とみなし、連携を深めている。一帯にはまだまだ空き家がたくさんあるので、今後も宿泊室や飲食店を増やしていく計画だ。

「約10年間、古民家再生に取り組んできて分かったことがある」と金野氏は語る。「古民家が重ねてきた時間はそのままに、最小限の手を加えるようにすれば、改修費が安くすむうえ、顧客に喜ばれる。なおかつ、そういう空間には自然にクリエイティブな人が集まってきて、その人たちが新たな未来を開いてくれる。1日のお客さんを招くことが、一生の定住者を招くことにつながっていく」

金野氏は「今年がちょうど、価値観が反転した年だ」と言う。高度経済成長やグローバル化の中で日本社会が置き去りにしてきた、古民家や地域に根ざした食文化、伝統工芸などが見直され始めた。政府も古民家や歴史的資源の活用を課題に挙げるようになった。「今年は古民家再生元年。これから全国に多くのプレイヤーが必要になる。中でも、古民家を仕入れ、改修し、運営者に渡す事業体をどうつくっていくかがポイントだ」。


一般社団法人ノオト代表理事の金野幸雄氏



税金に頼らず自立して採算が取れる、“旅の目的になる施設”を目指せ


ノオトが開発した篠山城下町の分散型ホテル「NIPPONIA」の運営を手掛けているのが、次に登壇した他力野淳氏率いるバリューマネジメントだ。2005年の設立以来、歴史的建造物の利活用に取り組んできた。篠山以外でも、文化財建築や伝統建造物群保存地区を舞台に宿泊施設やレストランを運営し、実績を挙げている。他力野氏は「運営に補助金や指定管理料をもらっている施設はひとつもなく、すべて自主運営で成り立っている」と胸を張る。

これまで、文化財建造物の活用といえば「公開」で、保存のためには税金の投入が欠かせなかった。しかし、そのままでは文化財を次代に残すのは難しい。税金に頼らず、建物そのもので事業を成立させていく必要がある。「手法のひとつは観光。外から人を呼び込むこと。同時に、地域の人に使ってもらい、喜んでもらうことも重要。両輪で回って行く必要がある」と他力野氏。

従来型の観光は、集客力のある観光資源のまわりに宿泊施設や物販が建ち並ぶコバンザメ型だった。しかしこれからは、施設が自ら旅の目的となって、集客できなければ生き残れない。宿泊施設は旅の目的にするのに向いており、地域に人を呼びこむための核になる可能性がある。

これまでは、古民家を宿泊施設に改修したくても、関連法規に適合させることも、十分な営業面積を確保することもできなかった。しかし今は、法の整備が進み、複数の古民家をまとめて分散型の宿泊施設がつくれるようになった。

地方創生の観点からみれば、経営がうまく回れば若い世代のUターン、Iターンも呼び込めるようになる。また、宿泊施設を目当てに訪れた人にニーズに合った町のコンテンツを紹介することで、町のファンが増え、さらに情報が拡散する可能性も生まれる。

近年は、制度面からもファイナンス面からも、歴史的資源の活用がしやすい環境が整ってきた。ぜひ全国で、税金に頼らない古民家・歴史的建造物の活用事業が育っていってほしい。


バリューマネジメント代表取締役の他力野淳氏



これから古民家の再生活用を目指す、地元福岡・太宰府市からの報告


福岡県太宰府市は「歴史的資源を活用した観光まちづくり」の取り組みを始めた地域のひとつだ。パネルディスカッションには同市観光推進課の山崎崇氏と、市と連携する三井住友銀行の松澤尚志氏、西日本鉄道の草場康文氏が登壇した。

太宰府市は太宰府天満宮をはじめ、市域の16%が国の指定史跡という観光資源に恵まれた地域だ。にもかかわらず、多くの観光客は天満宮ほか一部の観光拠点に立ち寄るだけで、滞在時間は3時間程度、消費金額は1人あたり2000円を切る。山崎氏は「太宰府を楽しむには宿泊してもらいたい。天満宮の門前町には古民家が点在しており、これを宿泊施設や飲食店に活用してほしい」と語る。

市と三井住友銀行が今年6月に実施した古民家活用セミナーでは、地域の人々から反響を得た。西日本鉄道では今年7月に「太宰府委員会」を立ち上げ、観光資源と交通の連携促進や駅・駅広場などの拠点整備に取り組む計画だ。

司会を務めたノオトの金野氏は「太宰府市にはすでに、海外からクルーズ船でやってくる大勢の短期滞在の観光客がいる。これからは、従来とは違う新たな客層に向けた観光資源づくりに取り組むわけですね」と応答。「九州には他地域にも隠れた資産ががくさんある。それが空き家になって残っているのだから、どんどん活用してほしい」

歴史的資源を活用した観光まちづくりHP
http://kominkasupport.jp/


パネルディスカッションで太宰府市の現状を報告する山崎崇氏。右端から西日本鉄道の草場康文氏、三井住友銀行の松澤尚志氏。写真左端は司会の金野幸雄氏



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