築100年超の古民家空き家を「教材」に。近畿大学 学生たちの『星降るテラスプロジェクト』

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都会育ちの准教授が、東広島の里山で学生たちと空き家再生に挑戦


広島市の東隣に位置する東広島市。その中心街から車で約30分の農村部に福富町の集落がある。

日本の原風景とも言うべき豊かな里山が広がる地域だが、町の人口は約2487人(平成28年度)で、高齢化率は36.8%。若者離れが進み、空き家がどんどん増えていくという、今の日本の“典型的な郊外型集落”でもある。

そんな福富町で、築100年を超える空き家を“教材”として活用し『伝統建築の技法を生かしながら現代風に改築する方法』を学生たちに教えているのが、近畿大学工学部建築学科の谷川大輔准教授だ。

前回のレポートでも紹介したが、谷川先生は生まれも育ちも東京都心という生粋の都会っ子。東京で個人宅や商業施設等の設計の仕事に携わりながら、いつしか「地方の建物を保存すること」に関心を持つようになり、6年前に東広島への移住を決断した。

「郊外の建物保存の研究をしたいと思っていたら、たまたま近畿大学から声をかけていただきチャンスに恵まれたのです。もともと、学生時代の専門は意匠論で建築設計論について研究していたのですが、その頃から“これって部屋のなかで結論が出るものではないはず。もっと外へ出て現場で実践してみたい”と考えていました。地域の宝とも言える“実際の教材”を前に、現場で研究ができるということは、次世代の建築業界を担う学生たちにとっても良い経験になると思います」(谷川先生)

2年間空き家だったこの古民家は、地域の人たちから『星降るテラス』と名づけられ、地域の人たちも作業に参加しながら改修工事が進められている。福富町は、もともと広島県の『移住・定住モデル地区』に指定されており、移住者への理解が深い。“都会から来たよそ者”を積極的に受け入れる風土が、谷川先生の取り組みを後押しすることになった。


▲近畿大学工学部建築学科歴史意匠研究室の谷川大輔准教授。「子どもの頃から都心を離れたことがなかったので、ずっと田舎暮らしへの憧れを持っていました。建築も、文化も、東京に住んでいるだけではわからないことがいっぱい。都会と地方の暮らしを両方知っていれば、次世代の建築に生かせることがたくさんあると思います。妻も同業者なのですぐに移住を納得してくれましたが、うちの親は“東広島へ引っ越す”と聞いてビックリしていました(笑)」と谷川先生



古い建物を元に戻す、のではなく、古いものを生かしながら現代風に改築


この『星降るテラス』を教材にして、谷川先生の研究室が『空き家再生プロジェクト』に着手したのは約3年前。当初は、天井も床も前所有者が改修した素材で覆われていたが、手始めに床を剥がしてみると囲炉裏の跡が見つかり、天井を剥がしたら囲炉裏の梁を発見した。100年の時を経て、この家本来の“住まいの機能”が蘇ることになった。

「屋根はいま銅版で葺いてありますが、これももともとは萱葺きだったようで、囲炉裏に火を入れて萱を燻し、虫除けにしていたという当時の暮らしぶりがわかります。できれば萱葺きに戻したいのですが、今は萱自体が貴重でなかなか手に入らず、予算が3000万円ぐらいかかってしまう。それは現実的に難しいことなので、研究室の取り組みとしては“昔の建物を昔の状態に戻す”ことを良しとするのではなく、“昔の良いものを採り入れながら現代風に改築する”ことを目標にしています」(谷川先生)

筆者が取材に訪れたこの日はワークショップが開催されており、テーマは『三和土(たたき)と竈(かまど)づくり』だった。まるでアウトドアキャンプの準備をするかのように、学生たちはそれぞれの持ち場を決め、手際よく作業を進めていく。次に何をすべきか?をすべて把握しているようで、実に頼もしい作業ぶりだ。

「昔の大工さんが建てた建物は、今の技術では絶対に再現できないもの。それを実際の教材にして現場で実践できるのは本当に貴重な機会だと思います。古い建物の構造を知ると、その背景にある文化を知ることができます。この家の人たちがここでどんな生活をしていたのか?何のためにこういう構造になっているのか?それを謎解きのようにひとつひとつ探っていけるのが楽しい」(大学院1年生/守本怜矢さん)


▲写真下段中央は『掘りごたつ』の跡。もともとここには居間があり、この中に火鉢を入れて暖を取っていたことが窺える。自分たちで作った囲炉裏に火を入れて昼食の準備をするのも学生たちにとっては貴重な体験だ



現代の構造計算が当てはまらない家だからこそ、丁寧に改築して残したい


しかし、現代風の改築を進める上では様々な課題がある。例えば耐震性能。築100年を超える『星降るテラス』は、『石場立て』と呼ばれる伝統工法で建てられているため、現代の構造計算が当てはまらず、確かな耐震性を計ることができない。

「昔の建物というのは、現代の建築のように基礎を作ってアンカーボルトで固定するというものではなく、基礎石の上に柱を載せた状態で、万一地震が起こったときには揺れることを前提にして建てています。ようは、建物と基礎を切り離した“元祖・免震構造”になっているんですね。

地面が揺れると建物はズレますが、建物には直接揺れが伝わらないようになっているし、分厚い梁や柱で支えているので家自体がとても強い。だから、100年を超えてもちゃんと地震や台風に耐えて今も残っているんです。『星降るテラス』では、この家の伝統工法を生かして構造には手を加えず、一部の柱や梁を補強する形で耐震強度を保つように改修しました」(谷川先生)

田舎暮らしを望んで移住する人の中には“昔ながらの手を加えていない古民家に住みたい”という人も多いそうだが、耐震性や断熱性など住まいの性能について考えると“本当の古民家”に永く住み続けることはなかなか難しい。しかし「一部を現代風にアレンジすれば、そのハードルが低くなるのでは?」と谷川先生は話す。

「空き家を再生するにあたって、我々が絶対に変えてはいけないのは“建物の存在意義”です。この雄大な段々畑のなかに建つ大きな屋根のある家を、いかに永く後世へ残すことができるのか?いまこの場所に建っている家の良さを、そのまま表現し続けることが、『空き家再生プロジェクト』の大切なコンセプトです」(谷川先生)


▲土壁のかわりに開放感たっぷりのガラス窓へ。近所の方たちは「古い家でもこんなにお洒落に変わるんだねぇ」と好意的な反応だという。「このあたりの空き家は二束三文で、不動産的価値はほぼゼロに等しい。中には“住んでくれるならタダでもいいよ”とおっしゃる所有者もいます。でも、井戸を掘ったり浄化槽を作るのにお金がかかるため、それなりの予算は必要です。移住者の中にはいま流行りのセルフビルドで家の改修をしたいという方もいらっしゃいますが、柱や床をいじるのはやっぱり大工さんじゃないと難しいでしょう。現代の技術では二度と建てられないような貴重な家も多いので、丁寧に改修して残していきたい」(谷川先生)



空き家を無理に利活用せず、“自然に戻す”という方法も


谷川先生の中で、この『星降るテラス』の改修はまだまだ途中段階だ。「今回、三和土と竈が完成したら、次は照明を整備して、五右衛門風呂を作って、そのあと蔵作り…まだ2~3年はかかるかな?『星降るテラス』を改修していく過程が地域のイベントにつながっているので、完成時期が見えないほうが楽しいんです(笑)」(谷川先生)

谷川研究室では、今後海外からも留学生を受け入れてワークショップを開催する予定で、ここ福富町から『日本の田舎暮らしの良さ』を国内外へ発信していく。また、この『空き家再生プロジェクト』をきっかけに、地域と連携して新しい町づくりを行うことも、学生たちの次なる研究テーマとなっている。

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最後に、谷川先生に『空き家の利活用』はどのようにしたら進むと思うか?と聞いてみた。

「難しい問題ですね。家の問題と、人の問題、仕事の問題はすべて紙一重なので、単純に『空き家問題』に取り組むだけでなく、人を呼ぶこと、仕事を作ることも同時に進めていかないと解決しないと思います。空き家については利活用も大切ですが、なにより根本的な法改正が必要なのではないでしょうか?今の法律では、空き家を持っていても手放すメリットが何も無い。取り壊すとしてもお金がかかるので、“放置状態がいちばん楽”というのが所有者の本音でしょう。

僕の実感として、利活用できる空き家はほんのわずかです。もしどうしても放置状態になってしまう空き家があるのなら、無理に利活用を進めず、フラットにして自然に戻すという方法もあると思います。山を切り開いて家を建てたなら、もとの山に戻す…生態系を自然の状態に戻していくことを考えなくてはいけない時期に入っているのです」(谷川先生)


▲「移住者に求められるのは地域に溶け込むこと。この『星降るテラス』を地域のコミュニティスペースにして、地域と連携をしながら新しい町づくりにチャレンジしたい」と谷川先生。一人でも多くの人に『福富町』を知ってもらい、移住希望者を増やしていくことが、空き家の利活用につながる



建築の未来は『作る』時代から『古いものを更新して生かす』時代へ


筆者には“自然に戻す”という発想が無かったため、谷川先生の提案には驚かされたが、これから日本の人口がどんどん減っていく中で、“土に還す”という新たな取り組みは、建築業界の未来における重要なテーマとなるのかもしれない。

「作って、壊して、また作る、という時代はもう終わりです。古いものを更新して生かす、または、自然に戻す時代だということを学生たちがこの現場で学び、日本の町づくりに生かしてくれたら嬉しいですね」(谷川先生)

都会と田舎…暮らしや文化の違いはそれぞれ独自の価値観を生み出す。この『星降るテラス』で空き家再生プロジェクトに携わった建築家の卵たちが、その価値観をどのように捉え、これからの日本の未来の風景をどのように創り出していくのか、楽しみにしたいと思う。

■取材協力/近畿大学工学部建築学科谷川大輔研究室
http://tanikawa-lab.jp/


▲近畿大学工学部建築学科、谷川研究室の学生のみなさん。現役の学生だけでなく、ゼミの卒業生など未来の建築家の卵たちがプロジェクトに参加している。「そもそも建築に興味があるのでこのプロジェクトへの参加は本当に楽しい。建物を建てたり、改修したりすることだけを目的とするのではなく、その建物の存在が地域にどんな有益をもたらすか?総合的に考えながら設計をしたい」という頼もしい意見も聞かれた



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