都市のバス停大変貌。民間がバス停上屋を設置する仕組みとは?

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雨風防げて、安全。バス停が快適になってきた


バス停の姿、形が少しずつ変化してきていることにお気づきだろうか。かつてのバス停は行き先、バス路線名などを記した標識柱が野外に立っているだけの、野ざらしなものだったはずだ。ところが近年見かけるバス停には日差し、雨を避ける屋根があり、風を防ぐ透明な壁があり、座る場所も確保されている。時刻表も見やすくなっており、夜になると照明が入って防犯の面でも安心。以前からするとはるかに快適なバス停が増えてきているのである。

このバス停だが、実は民間の費用で設置されている。発祥は1964年のフランス。バス停に掲載された広告料収入を原資に道路上に高品質なインフラを整備し、維持管理するという仕組みを思いついた人がいる。現在、日本でも北は札幌から南は鹿児島までの40都市、71バス事業者に普及しているバス停「B-Stop」を手掛けるMCDecaux社の創始者ジャンクロード・ドゥコー氏である。

以降、ストリートファニチャと名付けられた広告付きバス停上屋は全世界に広がっていく。2017年現在で世界68カ国、2,330都市に設置されており、そういえばパリの街角でも同じものを見かけたと思い出す人もいるのではなかろうか。利用者が過ごしやすいだけでなく、自治体が費用負担せずに整備から維持管理までができるという意味では行政にも嬉しいはずの「B-Stop」だが、このビジネスを日本で展開するにあたっては問題があった。


愛知県名古屋市のメインストリート広小路通りで行われていたバス停上屋工事。工事前、工事後でどう変わるかがよく分かる



小泉政権下の規制緩和で導入が可能に


ヨーロッパで見かけたバス停のビジネスモデルに将来性を感じ、日本に持ち込もうと考えたのは三菱商事でパリ支店長を務めていた大山昇氏。三菱商事との合弁会社を作り、事業を開始したのは2000年のことである。だが、この当時、道路法は道路上での広告事業を認めていなかった。そこで同氏は国土交通省、警察に日参、このビジネスが行政にとっても、利用者にとっても、そして広告を出す側にも益があることを説き続けた。いわゆる三方良しのやり方なのである。

それから3年。幸いにして小泉政権下の2003年1月に規制緩和の一環として事業が可能になった。「導入までに10年、20年かかっている国もあることを考えると、比較的スピーディーでした。小泉政権が掲げていた、民間の活力を生かすという方針にマッチしていたからでしょう」とは事業開発部部長の猪爪勇斗氏。設置が可能になった翌年の2003年、日本で最初に導入したのは岡山県岡山市だ。ついで名乗りを上げたのは神奈川県横浜市。2008年には東京都も導入を決めるなど、その後、続々と導入する自治体が増えているが、この導入にはまちにとっても嬉しいことがある。景観の美化である。

これまで屋外広告はバラバラのサイズのデザイン性に欠けたものが違法に貼られっ放しになっているなどして、景観を損なうと白い目で見られることが多かった。だが、同社の広告はまちの景観の一部であることを意識、デザイン性の高い、同一サイズのものが用意され、2週間に一度交換される。自治体によっては公共空間に掲出されるからとビジュアル面のチェックをしていることもあるとか。季節性に合わせたポスターはそれ自体がまちの彩りになっていると言っても良い。


札幌市の例。都市によってデザインが異なる



まちに合わせたデザインで景観賞受賞多数


また、バス停自体もまちの雰囲気に合わせたものが用意されている。たとえば、杜の都仙台では側面に木製素材を配してあるし、名古屋市ではすっきりした白のデザインが選ばれた。福岡市はネイビーとシルバーが基調だ。その他、屋根の形やベンチのデザインなどはまちによって異なり、そのまちらしさを表現している。それが評価され、2005年のグッドデザイン賞に始まり、名古屋市、富山市、仙台市、岡山市、北九州市、広島市、福岡市、岐阜市、西宮市で景観関連の賞を受賞している。いつもまちにあるものが変われば、景観が変わるということだろう。

広告のサイズを統一することでもうひとつ、可能になったこともある。広告は基本、それを見る人がどのくらいいるかで効果が決まる。乗降客数が多い駅前なら多数の人が見てくれるが、郊外の住宅街ではそこまで期待できないといった具合で、広告主はそれを考えてどこに出稿したいと考える。だが、同社の広告は全国で同時に同じサイズのものが掲出される仕組みだ。北海道には出したいが、九州には出したくないは原則的にはできないのである。

これにより、一般的には広告価値が低いとされる人口の少ない場所にもバス停が整備できるようになる。広告価値が高い、低い場所がセットで出広先になっているからだ。

「フランスではこのやり方で3000人ほどの村にもバス停が整備できています。日本ではまだそこまで行っていませんが、大都市圏での整備が進めば、それとのバランスで人口が少ないまちでも導入できるようになります。そのためにもまずは大都市での導入で価値を上げていきたいと考えています」。

ただ、このような全国ネット販売だけだと利用できるのは大手広告主に限られてしまう。そこでそれぞれの都市の地元の広告主にも利用してもらえるよう、全体のバランスを崩さない範囲で1面単位や都市単位で販売することもあるとか。良く考えられた仕組みである。


こちらは名古屋市。街中で見かけたら比べて見てほしい



防犯カメラ、フリーWi-Fi機能搭載の品も登場


バス停から始まった同社のビジネスだが、年を追うごとに進化している。分かりやすいのは3都市で導入が始まっているスマートパネルだ。日本の多くのまちには地図やまちのイベント紹介の掲示板があちこちにあるが、それが現代的になったものと言えばよいだろう。ニーズに合わせて自治体が選んだ機能を搭載できる非常に面白い製品なのである。

たとえば、富山市では一面が地図、もう一面に広告という、一見なんでもない形だが、パネル上部のケース内に防犯カメラが設置されている。富山市ではサイクルシェアリングが導入されており、自転車やステーションのいたずらを防止するために設置したものだが、地域の防犯にも役立っているという。実際、1週間に1~2回は警察からのデータ提供依頼があるとか。単なる掲示板ではないのだ。

また、鹿児島市では公共の掲示板と広告が表裏になっている。市中のイベント等の告知はこれまで紙、画鋲で行われていたが、それでは景観的にも機能的にも今ひとつ。だが、市単独では費用がないと、広告収入を活用することにした。その結果、市民は掲示する紙を市に搬入する手間が無くなった。市にデータを送れば同社に転送され、プリントアウトされて掲出されるからだ。

もっとも興味を惹いたのは名古屋市で2015年から行われている社会実験だ。名古屋市内には800基に及ぶ交通案内サインが建てられているが、内容の更新、いたずら書き対策などに人員、費用が掛かっていた。そこで、地図を再整備するとともに、観光客が利用できるようにフリーWi-Fiを提供。災害時には緊急地震速報や津波速報を表示できるよう、LEDディスプレイを搭載しており、平常時には時刻、天気予報を表示しているとも。実験を踏まえ、来年から本格導入が始まるそうだ。


富山県富山市のスマートパネルの例。防犯カメラを備えている



バス停、掲示板がまちの情報ステーションに


3市の例でも十分多機能だが、これらに加えて、非常用電源として使えることができたり、USBを通じてスマホの充電ができたり、AEDや消火器を搭載したりと使い方は自治体の選択でまだまだ拡張できるという。今後、技術が進めば、さらに可能性は広がる。街中にいつもあるバス停、スマートパネルがそれほど使えるようになっていたとは驚きだ。

ただ、本題からは多少脱線するが、バス停は良くなっているとしても、日本のバス事情には不満がある。ルート検索が非常に分かりにくく、利用しにくいのである。その点には改善の余地がないかを聞いてみたところ、海外との違いが浮かび上がってきた。

日本では1970年代以降バスの利用者が減っており、予算や路線の削減、スタッフの高齢化などもあり、現状のバスラインを運用するだけで手一杯、改善に力を入れる余地はないという。それに、そもそも公共交通に事業収支を厳しく求められるのは日本独自だという。

「欧米では専門の副市長が充てられるほど、交通政策は生活に密着した重要な施策。交通を疎かにすると地域が切り捨てられることになりかねないため、採算度外視で公共交通を考え、維持しようとする。それに対して、日本では民間主導で公共交通が整備されてきており、不採算路線は廃止されることも。東京の繁栄は民間主導のやり方が功を奏したものですから、どちらが良い、悪いと簡単に判断できないことですが」。

民間の資金を入れることでバス停が良くなったのであれば、その先、バス路線そのものにも何か、アイディアはないか。人口が減ったからといって路線が廃止されれば、そのまま衰退するまちも出かねない。もう少し、バスには頑張って頂きたいものである。


上が鹿児島市、下が名古屋市のスマートパネル。紙の掲示板よりすっきりキレイだし、多機能



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