下宿だった町屋を利用したゲストハウス、「京都月と」。京文化に触れることで日本らしさを発信する取り組みを聞いてきた

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多くの京大留学生が下宿した町屋が、ゲストハウスに


平安時代から都があり、日本らしい情緒を残す京都。海外からの観光客の人気も高く、人気の旅館は予約をとるのも難しい。さらに近年の訪日客急増を受けて、京都市が民泊の実態調査をするなど、宿泊施設不足の解消に力を入れている状況だ。
そんな中、町屋を改装したゲストハウス&サロン「京都月と」が2017年4月23日にオープンする。ただ昔ながらの建物を利用するだけでなく、調度品にもこだわっているというので、亭主の山内マヤコ氏に話を聞いてきた。

マヤコ氏の祖父母がこの家に居を移したのは、昭和40年ごろ。日本画家の甲斐庄楠音(かいのしょうただおと)氏もたびたび訪問するなど、文化人との広い交流を持つ祖父母だったそうだ。
昭和50年ごろに祖父が亡くなると、地元の不動産屋からの薦めで、祖母は下宿屋を始める。マヤコ氏は当時東京在住だったが、夏休みなどに遊びに来ると、京都大学に通う外国人が出入りしていたのを記憶しているという。
なぜ外国人が多かったのかはわからないが、「祖母は幼いころから高浜虚子に師事するなど、日本の芸術や文化の造詣が深かったので、留学生に喜ばれたのではないでしょうか」と、マヤコ氏は推測する。


月との外観。ごく普通の町屋を改装してある



非日常の場としてのゲストハウス


祖母が10年前に亡くなり、6年前には父も他界。遺品整理のために京都を訪れると、貴重な調度品の数々が見つかったという。たとえば正絹に豪華な刺繍が施された座布団や、螺鈿細工の物入れなど。これらの品をたくさんの人に見てもらいたい、そして下宿屋時代のように人の集まる場所にしたいと考え、ゲストハウス&サロンをオープンさせることにしたのだ。

コンセプトは、「非日常の場に心身を置くことで、明日へのワタシが変わるサロン型ゲストハウス」
「現代は情報が発達して便利ですが、どこに泊まっても同じような印象しか残らないのではないかと思います。このゲストハウスは不便な分、鈍感になりかけている五感、さらに第六感に刺激を受けていただけるのではないでしょうか」

名の由来は、谷崎潤一郎の「月と狂言師」という随筆。曾祖父母の時代に谷崎家と家族ぐるみのつきあいがあり、共に夜の南禅寺を楽しんだ情景が描かれているそうだ。


正絹に鮮やかな刺繍がほどこされた豪華な座布団



本物にこだわりつつ、ユニークさも


調度品は伝統のあるものばかり。しかし、ゲストに押しつけがましく説明はしないという。
「人により、また時々により、どんな品が心に残るかは違うでしょう。お客様ご自身で、心に残るものを見つけてほしいと思います」

躯体の改修工事は本職に依頼したが、ふすまなどは公募したメンバーでDIYしたそうだ。そのため、ふすまに壁紙を貼ったり、信楽焼の風呂桶を使ったりと、ユニークなアイデアも盛り込まれている。

居室として提供する部屋は4室で、京都の四季をイメージして、春の間、夏の間、秋の間、冬の間と名付けた。視覚や聴覚ではなく、香りで四季を表現する予定で、調香師に香りをブレンドしてもらい、部屋に入るとふわっと香るようにしたいという。

グランドオープンまでは非公開だが、イラストレーターの村田篤司氏が手がけた壁画もあるので、興味のある方はぜひ宿泊してみてほしい。


ユニークな信楽焼のバスタブ



古くからの信頼により、地域から歓迎


しかし、町屋をゲストハウスに改修するには、さまざまな課題もあった。
「建物が隣と隣接しているので、防音には配慮しました。また、屋根を開けて壁に防火材を入れるなど、旅館業法にのっとって改修をしなくてはいけません。古い建物ですから、消防法をクリアするのは大変でした」と、マヤコ氏。しかし、近隣住人からはむしろ歓迎されたという。
「この近隣は夜になると暗いので、ゲストハウスの明かりがついて人の出入りが増えれば、安心できると言われました。また、本物の芸術品を置いていますから、その扱い方を知っている方がターゲット。騒いだり、ご近所に迷惑をかける人は宿泊されないと思います」

また、京都ならではの事情もある。京都の中でも特に洛中……つまり平安京があった場所に住む人々はプライドが高く、よそ者に対して冷たいと言われるが、その分一度信頼関係ができると、世代を超えてもめったなことでは揺らがない。
「祖母も父も行儀にうるさい人だったんです。特に父は火の始末にも厳格で、喫煙者だった祖母にたばこをやめさせるため、内緒で祖母の喫煙席の上にスプリンクラーをつけたことがありました。知らずに煙草を吸った祖母がびしょ濡れになり、大げんかになりましたが、それを知っている近所の方たちは、祖母と父に教育された娘さんなら大丈夫と考えてくださっているようです」と、祖母や父の代からの信頼が今も生きているそうだ。


下宿を利用した居室は落ち着いた雰囲気



日本文化を未来に発信すべく、ワークショップなども予定


京都月との経営プランは経済産業省の「第3回全国創業スクール選手権」で、日本の文化を未来につなげていくというテーマが評価されてグランプリを受賞している。プランの一環として、今後ワークショップを開催する予定だ。内容はまだ未定だが、日本らしさにアイデンテティを持ちつつ、未来につながるものとして、金継ぎをはじめ漫画やスケッチなどを考えている。

また、ゲストハウス内で、抹茶と煎茶、台湾茶などの提供も構想している。
「江戸末期に売茶翁(ばいさおう)と呼ばれる僧侶がいて、どんなに貧しくてもお茶を楽しむ心の余裕をもちましょうと、この近辺でお茶を売っていたそうです。その志を継ぎ、どんなに忙しい人も、お茶を楽しむ心の余裕をもてるような空間を造りたいと思っています」
また歩き疲れた観光客に、ゆっくり座って疲れを癒やしてほしいという。

そして、今後も地域とのつながりを大切に考えていく。
「食事を提供しないのは、消防法上の問題もありますが、周囲のおいしいお店を紹介し、地域を知っていただこうとの思いもあります。また、聖護院などの名所旧跡もたくさんありますから、押しつけがましくならない程度に紹介していきたいと思います。」

現在、「京都月と」のFacebookを見て興味を持った人や、マヤコ氏の知り合いがモニターとして宿泊している。学校の先生や外国人、会社員など、多様な人が集まってくるが、調度品を興味津々で見学する人が多いそうだ。
急ごしらえではない、昔ながらの京文化に触れたい人は、京都月とを訪れてみてはいかがだろう。


エントランスに立つ山内マヤコ氏



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