九州の良さをPRするゲストハウスは泊まれるスナック?築50年以上の町屋をリノベした福岡「B&C Gakubuchi」

LIFULL HOME'S PRESS

九州の良さをPRするゲストハウスは泊まれるスナック?築50年以上の町屋をリノベした福岡「B&C Gakubuchi」の記事画像

「阿蘇び心」の“精神”を受け継ぎ、福岡市博多区で心機一転!


2016年春、熊本地方・大分地方を震源とする地震はその土地で暮らす人たちの生活を一変させた。被害が大きかった阿蘇は未だ一部通行止めのところがあり、JR豊肥本線は運転を再開で来ていない線路もあるという。JR阿蘇駅から近い場所に2012年にオープンしたゲストハウス「阿蘇び心」阿蘇店も半壊になり、休業をする決断に至った。

その「阿蘇び心」阿蘇店が、屋号を変え場所を福岡に移し、2017年6月9日に博多区呉服町にオープンした。宿の名前は「B&C Gakubuchi」(以下、ガクブチ)。津軽出身の店長・葛西さんと、鹿児島県沖永良部島からやって来た中村さん、神奈川県平塚育ちの鈴木さんの福岡に縁もゆかりもないこの3人が福岡の地から、福岡、阿蘇、九州の良さをアピールすべく立ち上がった。しかもこの宿、ただの宿泊施設ではない。“泊まれるスナック”なのだ。

スナック――。世代によってはあまり馴染みのない言葉のような気がするが、そこには屋号にもなっている「B&C」の「C」――Colony(集合体)、Communication(通じ合い)、Combination(組み合わせ)、Culture(文化)、Cross(交差)など、たくさんのワクワクと想いが詰まっているそうだ(ちなみに「B」は、Bedの意)。


左からスタッフの中村さん、鈴木さん、店長の葛西さん、オーナーの吉澤さん。玄関前の“ガクブチ”では、宿泊者とスタッフの思い出に記念撮影をすることができる



築52年の歴史と大家さんの想いが詰まった町屋をリノベ


1階はスナック兼ダイニングルームと半個室の相部屋、2階はすべてゲストルームとなっているガクブチ。「改築するよりも一回壊してつくり直す方が費用を抑えることができたんですけどね」と葛西さんは築52年の町屋を愛おしそうに眺める。

屋根はそのままに、鉄筋の梁をすべて無垢の木に差し替え。さらに柱を加えて、頑丈なつくりにした。2階は相部屋、個室など全部で5つの部屋をつくった。女性向けの相部屋は室内に専用のシャワールームや洗面所、パウダースペースがあり、女性に対しての心配りが随所に施されている。

「福岡といっても他にも街があるのに、どうして呉服町を選んだんですか?」。――この質問に、大家さんとの出会いがあったからと答えてくれた。

「昔、この場所はたくさんの町屋が軒を連ね、建物一つひとつに情緒があり、それらが風情ある街を形成していたそうです。でも、古くなった町屋はどんどん壊されてコインパーキングになり、街の雰囲気は随分変わってしまって…。わたしたちの想いに共感してくれた大家さんは、この町屋をあえて昔の面影を残したまま使ってほしいと願いを託してくれました。そして、この建物の使い方を一任してくれたんです」。

住宅、新聞販売店、本屋、絨毯の店など様々な変遷を経て、宿として再出発した大家さんの思い入れのある建物。新たな息吹を吹き込んだ葛西さんは、ここをただの宿泊施設にはしたくないという。

「いろいろな人たちに利用していただきたいのですが」と前置きをしたうえで「本音を言えば」と自分の想いを確かめるようにゆっくりと、そして静かに語った。「毎日がんばって仕事をしている女性にこそ、ガクブチの存在を知ってほしいんです。わたしが海外を旅したときに気づいた実体験。それこそがガクブチの原点なんです」。


スナックでのひとコマ。「阿蘇び心」阿蘇店から引き揚げてきた思い出のテーブルを囲んで宿泊者と楽しそうに寛ぐスタッフたち



日々の忙しさから立ち止まり振り返る場所、それが「ガクブチ」


葛西さんの人生の転機、それは27歳の時に迎えた大失恋だった。当時、看護師として命の現場の最前線でがむしゃらに働いていたが、失恋をきっかけに糸がプツンと切れたように、突然一人で世界20ケ国以上の放浪の旅へと出かけたという。

旅先で選んだのは、バックパッカーやゲストハウスと呼ばれる安宿。様々な国へ行き、知らない世界に触れることで、仕事があること、給料がもらえること、家があること、雨風をしのげてゆっくり眠れる環境があること、これらの当たり前すぎて普通だと思っていたことが他の国では当たり前ではないことに気づき、自分がいる環境に感謝の心が生まれたそうだ。

「仕事をがんばっている女性って、毎日、家と勤務先の往復で、疲れ果てている人が多いと思うんです。ガクブチがあるこの通りは、メイン通りから一本奥に入っただけですが、地元の人たちの暮らしが垣間見える静かな場所。5~10分ほど歩けば、御供所町という寺社エリアや歩くだけで楽しい川端商店街もあります。忙しさから解放され心に余裕が生まれたら、そしていつもとは違う環境に身を置くことで自分が生活している環境を見つめ直したときに、“わたしって幸せかも”と冷静に判断できる人が増えたらいいなって思ったんです。昔のわたしにようにね」。


写真は、女性専用の相部屋。無垢の木をふんだんに使った居心地良さそうな空間。相部屋は3800円、個室&半個室は4500円(チェックインは16時~22時)



“泊まれるスナック”の真意とは!?


年齢的にまだ若い葛西さんが、なぜ、“泊まれるスナック”を始めようとしたのか。質問を続けると、少し考え「人や物事と接点をつくるのに、絶好の場所だと思ったから」と言葉を探りながら口を開いた。

「わたしの勝手なイメージかもしれませんが、カフェやバーと違い、スナックは地域の常連さんのたまり場的存在のような気がするんです。だからこそ、そこに行けば地域の人だからこそ知っているディープな観光やおいしい料理を出すお店の話題に触れることができる。地元の人にとっては気軽に行ける場所でも一見さんは入りにくいスナックを宿の中に入れることで、宿泊者にとっては観光ガイドには載っていない生きた情報が手に入るし、地元の人と面白い会話もできる。人と人、人とモノが交差する場所、それがスナックです」。

また、葛西さん曰くスナックは「人情と空気を売っている場所」なのだそうだ。店に来る常連さんや地域のことを知っているからこそ、「この人とあの人を引き合わせたら、面白い事業が起こりそう」や「地域の歴史のことを知りたければ、この人がいい」など、上手な“仲人役”ができる、もとい、できるママになりたいのだそうだ。
だからお酒をサクッと飲んで帰りたい人には、恐らく向かない。ママやスタッフ、そこにいる人たちとゆるい会話をしたい人にとっては、最高の場所なのだ。


喫茶は8時~10時、スナックは16時~O.S.22時。スナックのドリンクメニューはALL500円と、うれしい1コイン!



マナーを伝えてこそ、街に愛され楽しむことができる


おいしそうにコーヒーを飲んでいる瞬間、笑いながら会話をしている瞬間、のんびり寛いでいる瞬間など、この場所に訪れた人たちの一瞬一瞬の滞在時間を切り取って心の中のガクブチに彩っていく。それは単体であっても最高の絵だと思うが、様々な色が混じることで、ガクブチの中の絵はグラデーションのように色彩豊かな表情を帯びていく。

オーナーと葛西さん、それぞれが旅先で経験したゲストハウスの醍醐味を伝えたくてスタートしたガクブチ。オープンしてからというもの、近所の人たちが顔を出してくれるようになり、地域の人たちから受け入れてもらえているとひしひしと感じているそうだ。「わたしたちのことを気にかけてくれる人や関心を持ってくれる人たちがいる。ヨソモノであるわたしたちを受け入れてくれたからこそ、わたしたちも裏切らないようにしていかないといけない」。

ここ数年の外国人観光客の増加は、うれしい経済効果をもたらしている反面、文化の違いによるマナーの認識不足に指摘が入るようになった。これは、どこの地域の人たちも頭を抱えている問題のひとつだ。「近くには禅寺も多いし、外国人に街を紹介するときは日本のマナーも一緒に伝えないといけないと思っているんです」と葛西さんは姿勢を正す。

温故知新を大切にしながらも、様々な人たちが入り混じり新しい風土をつくっていく。まだ福岡歴2ケ月の葛西さんだが、10年後にはこの街の顔としてすっかり定着しているのかもしれない。

取材協力/B&C Gakubuchi
http://bnc-gakubuchi.jp


ガクブチの正面にある道路は博多祇園山笠のルートとなっており、男衆の迫力ある山を目の前で見ることができる



[関連記事]
福岡の泊まれる立ち飲み屋「STAND BY ME」。目指すのは触れあう、元気になる宿
博多の老舗ゲストハウス界音(かいね)。築60年を超える長屋が旅行客の交流起点へ
Hostel and Dining TangaTable(タンガテーブル)。北九州リノベーションスクールから生まれた「まちを味わう旅の拠点」
中心市街地再生にかけた10年の動き。鹿児島県鹿屋市の挑戦
オリジナリティが魅力。鹿児島市内リノベーション物件見学記

出発:

到着:

日付:

時間:

test