入れば別空間、中庭のある住宅。素材にこだわり、住んで気持ちのいい物件を見てきた

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バブル期にも中庭付き物件はあった。だが……


中庭のある住宅の歴史は古い。住まいの歴史を概観した「世界のすまい6000年」(ノーバード・ショウナワー著、彰国社、1985年)によると、その起源は四大文明(!)にまで遡れるそうで、都市化が始まって以来、人間は長らく中庭のある住まいに暮らしてきたという。だが、近代以降、より効率的に住宅を供給する必要や、高層化が可能になったこと、その他の要因及び洋の東西の住宅に求めるものの違いなどから、徐々に中庭のある都市の住まいは少なくなっているとか。

現代の東京でも実は同じ現象が起きている。かつてバブル期には少なからぬ数の中庭付賃貸物件が作られていた。今も続くデザイナーズブームの先駆けである。この時期、トレンディドラマと呼ばれる恋愛ドラマが話題になったが、その舞台としていくつかの中庭付賃貸物件が登場する。その代表格が1988年にW浅野(と書いてお分かりだろうか、浅野ゆう子と浅野温子である)の主演でヒットした「抱きしめたい」の舞台となったアトリウムなる物件。建築家早川邦彦氏の設計によるもので、中庭を中心に住戸を配置、パステルカラーに塗り分けられた外壁が印象的だった。

だが、この当時の中庭は基本見た目だけを意識して作られていた。住戸の独立性は多少考えられていたものの、中庭本来のメリットが伝えられていたとは言い難い。それもあり、また、バブル以降、経費を節約した均質な賃貸住宅が中心になったこともあって、中庭付物件は激減した。その中にあって、今の暮らしにふさわしいものとして中庭付賃貸住宅を作り続けているのが丸山保博氏である。


高円寺の物件の中庭。まちの雰囲気とは全く異なる空間だ



明るく、開放的で防犯性能も高い中庭付住宅


建築事務所に10年ほど勤務した後、ヨーロッパ各国を建築研究のために外遊。その時に見た現地の建物への感動が今に繋がっているという丸山氏。中庭付の住宅には見た目以外にもいくつものメリットがあるという。

「中庭に面して住戸を配するので、たとえ北側道路に面している建物でも玄関、室内が明るく、気持ちの良い空間になります。窓も中庭に面して作りますから、外に向いた窓よりもプライバシーが守られ、場合によっては窓を開け放していても安心。開放的で通風、採光が良い住まいになり、公道に面して窓のある住宅とはそこが大きく違います。外からの喧噪も入ってきません」。

そもそも、中庭のある住宅の場合、入口は一か所だけになるため、防犯性能は高くなる。また、住戸が中庭=出入り口に面しているため、そもそも、人の目が向きやすく、良からぬ意図をもって入ってきた人は周囲から見られているという感覚を抱くかもしれない。

「中庭には緑を配するので、京都の坪庭のように夏はひんやりして快適。台風などの強風時には風の影響を受けにくいのか、中庭は静かで怖い思いをせずに済みます。一方で雪の眺めが楽しめるなど、緑や自然が目の前にあり、自分の居住空間の一部として感じられる生活は和みます。部屋が外に繋がっているような感覚でしょうか、実際の部屋の広さより豊かに思えるはずです」。


中庭に向けて開口部があり、玄関回りに土間のある物件。明るく、開放的で人の目も気にならない



自然に生まれるコミュニケーション


入居者同士が顔を合わせやすい点も今の時代にふさわしいと丸山氏。防犯、防災を考えると賃貸住宅でも、入居者間に緩やかなコミュニティが生まれていて欲しいところだが、中庭付物件では自然に挨拶をしあう関係が生まれる。丸山氏が最近手がけた西八王子の物件では中庭を地域のコミュニティの核となるよう、地元のお祭りの場として提供することを考えているそうで、使い方次第では楽しい空間になる。

周囲が変わっても住環境が変わらないというメリットもある。都会に住んでいると隣に大きな建物が建って日照が遮られたり、人目が気になるようになるなど住環境が変化することがあるが、中庭に面した住戸であれば外の影響を受けることはない。これは賃貸の場合だけでなく、自宅として中庭付住宅を考える際にも大きなプラス要因になるだろう。

まちの景観に寄与するという観点もある。「階段、廊下、各戸のドアが丸見えのアパートは生活感が外から見えてしまい、あまりカッコよくは見えない。それに対して中庭付物件の場合、外にそうしたものが出てこないので景観として美しく見える。まちに貢献する建物というわけです」。

丸山氏は2004年に中庭付物件で「杉並まちデザイン賞」を受賞しており、対外的にもまちへの貢献は認められていると言ってもよい。


西八王子の住宅街の中でひときわ目立つ物件。1階には店舗なども入っている



帰ってきた時に嬉しくなる、美しい中庭


そして、なにより、建物内に入った時のわくわく感が中庭付物件最大の魅力だ。私も最初に訪れた時には思わず、声をあげた。入った途端に空間が広がり、緑が広がり、今まで歩いていた日本のまちからどこか違う、独立した空間に入り込んだかのように感じたのである。

特に丸山氏の物件で魅力的なのは夜景。暗くなると中庭内のライトが自動的に点灯するようになっており、一人暮らしでもきれいにライトアップされた我が家に帰ることになるのだ。夜の中庭を称して「ホテルに住んでいるみたい」と言った入居者がいたそうだが、その気持ちはよく分かる。

室内には漆喰や無垢材のフローリングなど自然素材が使われているのも特徴。中には天井の木材があらわしになっている部屋もあり、丸山氏いわく「アパートらしからぬ空間」。人間が気持ち良いと感じるような素材であると同時に、時間が経っても古びないというのがポイントだそうで、室内、外壁などの素材はすべてそうした観点で選ばれているという。自然に見える中庭内の植物も、冬でも枯れず、成長が遅くて手入れが楽なマレーシア原産の常緑多年草ミスキャンタスが選ばれるなど、随所に工夫が凝らされているのである。


逗子の物件の中庭夜景。帰ったらこんな風景が待っていると思うと、帰宅するのが楽しみになるのでは



複雑な形は高そう、という思い込み


これだけ様々なメリットがあり、かつ、住んで楽しく、気持ちの良い物件なのに、どうして中庭付物件はそれほど作られていないのか。丸山氏によると複雑な形状の建物は高くつくと思われているという。「建物躯体を作る価格で差が出るのは基礎、壁が何面あるか。横一列に5戸が並んだ住宅の両端を曲げてコの字にすれば中庭付になりますが、それで考えてみると、基礎、壁の面数はどちらも変わりません。でも、なんとなく、イメージで複雑そう=高そうと考えている人が多いのではないでしょうか」。

逆に建物の外に直線の長い廊下を作らなくて良い分、中庭物件は有利だとも。「木造で作っても外廊下はそれとは別に鉄筋などで作らなくてはいけないため、建物の単価よりも高くつくことがあります。中庭から住戸に入る建物だと廊下部分が少なくて済むので、その分のコストが削減できるのです」。

このところ、世の中では相続対策で建てれられるアパートが急増、将来の空き家化を懸念する声がある。ヨソと同じ、差別化できないアパート建設に大枚をはたくなら、住む人に喜ばれる、ヨソと一味も二味も違うこうした物件を作れば良いのにと思うが、不動産に投資をする人達はそうは考えないのだろうか。不思議だ。


見上げても、見下ろしても、中に立っても中庭は楽しい空間



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