福岡「上長尾テラス」。オーダーメイドな地域づくりを目指すオーナーの想いとは

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「築古」「駅遠」なんのその!人気ビルオーナーが仕掛けるまちづくりの拠点


ここ数年、政令市での人口増加率1位と言われる福岡市だが、実はエリアによっての二極化も否めない。
人気の市営地下鉄空港線、七隈線、西鉄大牟田線沿線や、主要商業地である天神や博多から徒歩・自転車圏内のエリアには新しいマンションが続々と建ち、その反面、市内であっても、駅から離れた場所では空き家増加や過疎化を危惧する声もある。

今回は、福岡市城南区樋井川にある「地域交流スペース上長尾テラス」に伺った。
城南区樋井川は、昭和の時代の人口増加を背景に田畑を宅地化してできた街だ。県道555号線沿いには今も50店舗以上が加盟する商店街(上長尾名店街)があり、身の回りの物はすぐ近所で揃う。しかし、最寄り駅からは40分以上の距離にあり、移動手段は基本的に車かバスになってしまうエリアだ。天神や博多への通勤から住まいを考えがちなサラリーマン世帯や若年層の流入が難しい。
そんな場所だからこそ、上長尾テラスは、商店街や地域コミュニティーの活性化を促し、エリアの魅力を高める拠点として地域から期待されている。
商店街に隣接した休憩・おむつ替えのスペースでもあり、近隣の人々がふらりと立ち寄れるカフェであり、学校帰りに宿題ができる場所であり、チャレンジショップであり、また、こども食堂のような取り組みもしているという。

上長尾テラスを運営するのは、徒歩5分ほどの場所にある賃貸マンションオーナーの吉浦隆紀さん(有限会社吉浦ビル代表)だ。以前、<床も、壁も全て自分仕様にアレンジ可。全戸DIY可、福岡の人気物件を見る>でお伝えしたビルは、築40年を超える物件ながら、「全室DIY可」と良好な住人コミュニティーにより満室稼働、さらには入居待ちも出るほどになっている。そんな人気ビルのオーナーの地域にかける思いを聞いてきた。


上長尾テラス1周年記念イベントの様子(写真:吉浦ビル)



10年後を見据えて。不動産オーナーとしての危機感


「この辺りは、約40年前にできた街です。当時の20~30代がこの街をつくり、年数を経て今、住人の多くは60~70代が中心となってきています。最寄りの小学校は、福岡市内にありながら1学年に1クラスしかない。このままだとどんどん少子高齢化が進む街です。今はまだ大丈夫かもしれないけれど、あと10年もすると同時期に空き家が急増する。だからできるだけ早い段階で、若い人をこの街に呼び込みたいんです。」と吉浦さん。

吉浦ビルにDIYをしながら入居した新しい世帯は20~40代の若いクリエイターたちだ。また、以前から住んでいたのは高齢者や生活保護受給者で、入居者は日々の通勤などを必須としない「駅近」を求めていない層。しかし今後このエリアの住人が減れば、スーパーなどは撤退してしまう可能性がある。入居者の生活に大きな影響を及ぼしかねず、退去者が増えればそれは賃貸経営にも直結する。不動産とエリアとの関係は切ってもきれない。
自分のビルを地域に開いていても、地域との接点が薄く「もっとビル以外にも出ていかなければ!」危機感を覚えたのだという。

吉浦さんは、2015年9月に福岡市と地元NPO法人が実施した「地域デザインの学校」に参加し、地元自治会長や町内会長、商店街組合の役員らと繋がりを持った。地域協議の中で、子どもたちや高齢者の孤食、商店街の中に若い人や子ども達が気軽に立ち寄れる場所がないこと、本来そういった場になるはずの公民館が若い人にとって敷居が高くなっている実情などの課題を知り、「それなら商店街に民間の公民館のような場所を作ろう!」と思い立ったそう。


レトロさを感じるアーチ型の扉は、既存のものを利用(写真上)壁面の賑やかな絵は、近隣の障がい者福祉施設「葦の家」の方々に仕事として発注し、描いてもらったものだそう(写真下)(撮影:山口)



地域を照らす、みんなのテラスに


商店街副会長の紹介で、上長尾名店街に隣接するエリアの空き家のオーナーから木造アパートの一部(1階テナント部分と2階2DKの部屋)を借りることができた。
改装資金等はトータルで600万円ほどかかったそう。借り入れはせず、福岡市の「地域との共生を目指す元気商店街応援事業助成金」の200万円を利用して、残りは吉浦ビルが拠出した。
「当初は半分の300万円くらいでやる予定だったんですけど、なんだかんだ費用がかかっちゃって…」と吉浦さんは苦笑い。
仲間たちとDIYで改装し、2016年7月に地域交流スペース「上長尾テラス」がオープンした。

古いアパートの一部が明るい黄色で塗装され、軒には「レンタルスペース&カフェ」の文字。レトロ感のある扉を開けると、テーブル・カウンター席と、奥に2階へ続く内階段がある。
座席にはカフェメニューの他に、レンタルスペースとしての料金表が置いてあった。「2階のみ貸切 1時間500円」などかなりリーズナブルな料金設定だ。ヨガやパッチワーク、コミュニケーション講座など、主に地域の主婦の活動の場となっているという。
また、1日5000円で店舗をまるごと貸切り、チャレンジショップとして利用することもできる。
レンタル利用がない日は、地域の人が自由に利用できる場所として開き、並行してカフェとしても営業している。そのスタッフは近所の主婦達だ。

実のところ、上長尾テラスは改装コストや人件費等を考えると毎月20万円の赤字なのだそう。吉浦さんはそれでも意味があると言う。
「上長尾テラスは吉浦ビルのアンテナショップみたいなものでもあるんです。『住→店』でこんな風にできるというのを地域内外の人に見せている。広報のスタッフを1人雇っていると考えると、かなりの働きをしてくれています。」(吉浦さん)

上長尾テラスのオープンから1年ほど。現在は、多いときで日に20人、コンスタントに4~5人が利用し、毎月行うminiマルシェでは毎回100人以上の人がこの一角に訪れているそう。


仲間たちと一緒にDIYで作った店内。元美容室だった1階と住居だった2階をつなげ、内階段も自分たちで作ったそう(撮影:山口)



ニューヨークみたいな街にしたい


福岡の大学を卒業後、地元の金融機関や飲食店で働き、30歳を契機に東京で4年、ニューヨークで1年ほど過ごして福岡に戻り、35歳で祖父からマンション経営を引き継いだという経歴の吉浦さんは、不動産やまちづくりに関わり始めて5年になる。
所持金10万円とバックパックのみで移り住んだ「住んでみたいところに住む」が動機の東京暮らしでは、引越しを繰り返し、賃料も場所も様々な場所に暮らしたそう。東京で吉浦さんが痛感したのが、「自分のペースで動けない」ということだった。あれほどまでに多くの人が住んでいるにも関わらず「人の生活が、電車の時間で動いている」と強烈に感じ、この経験から、職住近接が可能なエリアにすれば強みになるのでは?と考えるようになったそう。
10万円あれば、日本国内は生きていけると経験した吉浦さんは、「次は海外!」とニューヨークに渡った。『住みたい場所に住むという幸福感』があったと言う。100年を超える古い建物に価値があったり、元倉庫をかっこよく改装して暮らしていたり、日本とは違う建物への多様な価値観にも驚いたそう。

「住まいは、雨風を防げて水が出るならそれでいい。『今、ニューヨークに住んでるんだ!』という高揚感と、それを求める人たちがいることを実感しました。魅力的なエリアに人は集まるということです。」(吉浦さん)

吉浦さんは「この地域をニューヨークみたいなところにしたい。」と話す。高層ビルが立ち並ぶ経済の中心の大都会という意味ではない。
このエリア独自の人や生活、生業や地域コミュニティーなどの魅力をつくり「樋井川に住みたい」と思われるようにしたい、日本中・世界中から、「樋井川に行ってみたい」と思われたり、何よりそこに住んでいる人たちに活気があって、「この街に住んでいて幸せだ!」と思うような街にしたいということだ。
吉浦さんはそれを上長尾テラスから発信し、つくり、広げていきたいと考えている。


有限会社吉浦ビル 代表の吉浦さん。自社ビルの再生には手応えを感じつつも、地域との関わりがあまりなかったそう。ならばこちらから商店街に出ていこう!と、新たな点を打った。「今後、エリアに波及できれば」と意気込む(撮影:山口)



0から1をやってみる、オーダーメイドな地域づくり


上長尾テラスでは昨年10月から、孤食になりがちな地域のこどもたちや高齢者が一緒に食事ができる場になればと、平日の夜間、ワンコイン(1食500円)で食事を提供する「地域食堂」を試みた。けれど来店人数は芳しくなかった。
吉浦さんは「子どもたちの間で『ごはんを食べられない子が行くところ』ってイメージになっちゃってて来にくかったようです」と分析する。

そこで、2017年の8月から「テラ小屋」というイベントを月1回開催している。紙芝居やゲームなど、地域の大人や子どもたちの交流を促しつつ、その後にみんなでごはんを食べて帰ろう、という会なのだそう。8月の回はなかなか好評で、今後は状況を見て開催頻度も増やしたいと意気込む。レンタルスペースの利用はなかなか盛況のようだ。

「ここは、何かやってみたいけどできない人に、0から1の経験をしてもらう場所だと思っています。本気で何かをやりたい人は、他人が止めても勝手にやっちゃいますが、大抵の人はそうじゃない。でも、1000円のリスクで何かを始められるなら、やってみたい人は意外といます。特に、この地域は主婦層に多かった。今彼女たちの働く選択肢がスーパーなどのパートだけで、もちろんそれでもいいんだけど、自分で何かをやって稼ぐという経験もしてみてほしいんです。ここで実験してうまくいったら、近くの空き家を借りたり、どんどん次のステージに進んで、そんな人が増えて、それぞれが思い思いに。小規模からでいいから、人やお金が集まって経済が循環するような街と暮らしをつくれたら嬉しいと思っています。」(吉浦さん)

ビルだけでなく、地域が賑やかであることを望むのは、吉浦さんの家系が代々続く地主であることも関係する。あと10年もすると地域が過疎化する現実を突きつけられたとき、「自分がやらなくて誰がやる?」という思いに駆られたのだという。
地域の人と一緒に、自分たちの暮らしをオーダーメイドでつくることが可能な街。その橋渡しを手伝ってくれる人やコミュニティーがある街。自身の「暮らし」を考えた時、そういう場所に住むのは魅力的かもしれない。

上長尾テラスFacebookページ
https://www.facebook.com/kaminagao.terrace/


2階レンタルスペース。予約が入っていなければ、こちらも地域に解放している。買い物帰りの休憩や、おむつ替えなどに利用可。学校帰りの子どもたちが宿題をしに来ることもあるそう(撮影:山口)



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