お米づくりを通じてLGBTの就労支援を目指す、茨城の『農家まっつら』の取り組みとは?

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性的マイノリティを自認する有職者は約8%


2016年、日本労働組合総合連合会が全国の有職者1000人(自営業者・家内労働者を除く20歳~59歳の男女)に、自認している性別や性的指向についての調査を行ったところ、

●LGB(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの人)・・・3.1%
●トランスジェンダー(出生時の性別と自分で認識している性別が異なる人)・・・1.8%
●アセクシュアル(他者に対して恋愛感情も性的感情も向かない人)・・・2.6%
●その他・・・0.5%
という結果となり、約8.0%が性的マイノリティ=LGBT当事者であることがわかった。

筆者自身は、社会に出てから複数のLGBTの友人ができたため、この割合を見て大きな驚きはなかったが、小・中・高校時代の約40名の学級編成に当てはめれば「1クラスに約3人はLGBT当事者がいた」ということになる。まだまだ性的マイノリティが認められにくかった当時の状況を考えると、友人、先生、家族、誰にも悩みを打ち明けることができず、辛い想いを内に秘めたまま思春期を過ごしてきた同級生が、実は自分のすぐ近くにいたのかもしれない。


▲井上様/ここにお写真をご用意ください・・・①まっつら農園の風景写真/11月から通販サイトオープン。コシヒカリとミルキークイーン2銘柄を販売予定



相談窓口を開設してわかった、一番多いLGBTの悩みは『仕事』のこと


「本当に少しずつですが、最近LGBTの存在が理解されるようになってきました。僕の学生時代には想像できなかったことなので、良い時代になってきたなぁって思いますね」と語ってくださったのは、性同一性障害のコンサルティング業務を行うG-pit net works(本社:東京都新宿区)の代表・井上健斗さん(31)。

井上さん自身もトランスジェンダーであり出生時の性別は女性だったが、タイで性転換手術を受け、戸籍上も男性となった。現在は妻と新婚結婚生活を送りながら、LGBTの就労支援の一環として茨城県笠間市で農業を営んでいる。

「トランスジェンダーの中でも、僕のように、生まれたときの身体の性は女性だったのに男性として生活している人のことを『FTM=Female To Male(女性から男性へ)』と言います。逆に身体の性が男性である人が女性として生活する場合は『MTF=Male To Female(男性から女性へ)』と言うのですが、こうしたトランスジェンダーの皆さんは社会に馴染めず、いろいろな悩みを抱えている方が多いのです。

テレビで活躍している芸能人を見ると、トランスジェンダーはおもしろくて明るくて快活だというイメージがあると思いますが、コミュニケーション能力か高い方は実はほんの一握り。様々なトラウマを抱えていて、周囲との人間関係つくりか苦手て、性格的におとなしい方もたくさんいらっしゃいます」

最近は大都市圏でこそLGBTが“新しい文化”として認識されるようになったが、閉鎖的な地方の集落では高齢者を中心としていまだに性の多様性を受け入れられない人が多い。そのため、いざ独立を目指して賃貸住宅を借りようとしても、不動産会社の担当者や大家さんの偏見によって契約を断られてしまったり、パートナーとの同居についてあれこれ詮索されたりと、社会からの疎外感を感じる機会が少なくないという。「都会よりも地方のほうが生活しにくい」「地元でウワサになると家族に迷惑をかけるから、できれば他の場所で暮らしながら自分の性をカミングアウトしたい」と考えている人もいるようだ。

「G-pit net worksでは、無料相談窓口を開設しているのですが、10代から70代まで様々な世代のLGBTの方から相談を受ける中で、最も多い悩みは『身体のこと』でも『恋愛・結婚のこと』でもなく、『仕事』のことだということがわかりました。“仕事を探しているので雇ってもらえませんか?”という相談もたくさん受けました。これは僕自身もびっくりしたのですが、トランスジェンダーの方は、高い仕事能力を持っているのに偏見によって定職に就きにくく、生活保護を受けている方も多いんですね。そこでLGBTの雇用を新たに生み出す場所を作ることができないか?と思い、『農業』をはじめようと考えたのです」


▲井上さんと話していると、声のトーンが低く浅黒く焼けた肌が逞しく見えるため、以前女性だったということを忘れてしまうほど。「実は、見た目でトランスジェンダーだと気づかれるか?気づかれないか?の度合いのことを『パス度』と表現するのですが、トランスジェンダーの場合は『パス度』によって偏見を持たれてしまうことが多く、賃貸住宅の契約を断られてしまったり、仕事の面接で落とされてしまったり、採用されても職場の人間関係を上手く作ることができず、悩んでおられる方が多いですね」と井上さん



LGBTの就労支援のためにはじめた『お米づくり』


井上さんが『農業』を選んだのは、子どもの頃からの憧れでもあったからだ。

「東京生まれ、東京育ちで土と向き合うことがなかったので、ずっと大自然への憧れを持っていました。悩みを抱えたときには東京を離れて田舎で過ごすことが多く、以来ずっと“いつか農業をやりたいな”と思っていましたし、どうせ事業を始めるなら“好きじゃないと続けられない”と考えてこの道を選びました」

しかし、いざ「農家になりたい、米をつくりたい」と門を叩いてみても、井上さんをすんなりと受け入れてくれるところは少なかった。中には、「農業を通じてLGBTの就労支援を行いたい」という井上さんの想いを聞くと、あからさまに拒否反応を示す行政の窓口もあったという。

「そんなときに、たまたま知り合いのFTMの方が、“うちの実家、茨城で米を作ってるんだけど、良かったら手伝ってくれない?”と声をかけてくださって、そこからお米づくりにチャレンジすることになりました。とはいえ、僕はまったくの農業初心者ですから、まずはお手伝いをして労働力を提供する代わりにイチから米づくりについて勉強させてもらいました。やっと1年が経ち、今年の11月にはうちの農園である『農家まっつら』から初めての新米を出荷できます」


▲「大自然の中で土と触れ合う時間は本当に楽しい!」と井上さん。<br />『農家まっつら』では2017年11月に通販サイトをオープン予定。<br />記念すべき農園初の新米は、コシヒカリとミルキークイーンの2銘柄だ



特別扱いされたいワケじゃない、LGBTが普通に暮らせる社会が理想


「まっつら」というのは茨城弁で稲を束ねる藁のこと。「まっつらのように、都会と地方、社会とLGBTの人たちを結んでいきたい」という願いをこめて農園に名づけた。五十反(約5ヘクタール)もの広大な田んぼを借りて米づくりを行う『農家まっつら』では、定期的に農業イベントを開催。今年の初夏の田植えイベントには、LGBTだけでなく、地元の人、都会で暮らしながら農業に興味を持っている人、老若男女幅広く60人もの人たちが集まったそうだ。

「当初は、“地元の人たちにLGBTを受け入れてもらえるのだろうか?”という不安もありましたが、ご近所の人に挨拶をして、僕自身がLGBTであることをカミングアウトしても、意外と“ふ~ん”という感じで無反応だったんです。それがとても嬉しかった。地元農家のおじいちゃんやおばあちゃんも、“はい、これ持ってって!”と収穫した野菜を分けてくれたりして親切にしてくださいますし、行政の方も“頑張ってね”という感じで普通に接してくださいます。特別扱いされずに生活できること…実は、これが僕らLGBTにとって理想の状態なんですね」

イベントでは“誰がLGBTで、誰がそうではないか?”という話は一切せずに、みんなで楽しく農作業をおこなった。すると、自然に会話が弾んで仲間意識が生まれ、一緒にご飯を食べながらポロっとカミングアウトしても、余計な偏見を取り除いた状態ですんなりと受け入れてもらえることに気づいた。

「時間をかけてでも、こういう場所が少しずつ広がっていったら、LGBTの人たちがもっと暮らしやすい世の中になるのではないかと思いますし、そういう人たちの受け皿を作っていくことが僕の今後の目標です」


▲『農家まっつら』では田植えや収穫祭などのイベントを季節ごとに開催。<br />世代や性別に関係なく、農業を通じて地域の人たちとの交流を育んでいる



『ウェルカミングアウト』の姿勢がLGBT支援につながる


ところで、皆さんは『ウェルカミングアウト』という言葉をご存知だろうか?

LGBT当事者の多くは、家庭で、職場で、友達同士で、「自分の性をカミングアウトをしたら、相手がどんな反応をするのだろうか?」「ひょっとして拒絶されて、これまでの人間関係を壊してしまうのではないだろうか?」ということを最も不安に感じている。

一度でもカミングアウトを拒絶されると、それが自己否定につながり、引きこもりを招くこともある…そのため『ウェルカミングアウト=カミングアウト大歓迎!』という周りの姿勢が、LGBT当事者の背中を押すきっかけとなり、社会へとつながる扉を開いてくれると井上さんは語る。

今後はLGBTに限らず、農業体験をしたい都会の人たちと田舎を結ぶウェルカミングアウトな活動拠点として、『農家まっつら』近くにゲストハウスをつくることを計画しているそうだが、こうした活動を進めていくためには、LGBT当事者だけでなく世の中の風潮や行政の取り組みも含めて“その他の人たち”の意識改革が欠かせないものとなる。

井上さんの『農業を通じたLGBTの就労支援』への挑戦はまだまだ始まったばかり。『ウェルカミングアウト』の意識改革と共に、今後の活動を応援したい。

■取材協力/G-pit net works
http://g-pit.com/


▲LGBTの方は、100人いたら100通りの複雑な悩みを抱えていますから、この『農家まっつら』の活動ですべてを解決できるとは思いません。ただ、健康だし、仕事をする能力もある、ましてや悪いことをしたわけでもないのに、社会の中で認められにくい…そんな人たちの拠点になるような場所を作って、今後の道を切り開くためのちょっとしたきっかけを与えてあげることが、僕自身の使命だと思っています」と井上さん



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