宿場町の歴史を彷彿させる三軒茶屋のデザイン賃貸。人に、時間に、消費されない物件とは

LIFULL HOME'S PRESS

三軒茶屋の歴史を未来へ受け継ぐ美しい賃貸住宅


東京都世田谷区三軒茶屋。江戸時代に神奈川県の丹沢・大山にある阿夫利神社への大山詣で多くの往来があった大山道の本道(今の世田谷通り)と近道(今の国道246号)の分岐点に、三軒の茶屋があったことが「三軒茶屋」という名前の由来とされる。

三軒茶屋駅周辺は多くの飲食店が連なるなど都会ならではの賑わいを見せるものの、大通りから少し入ると静かな住宅街が広がる。そんな住宅街の一角に誕生し、かつての宿場町・三軒茶屋の歴史を彷彿とさせるようなデザインの賃貸住宅があるというので、取材に訪れた。

その賃貸住宅の名はラテン語の「QUANDO(クアンド)」。日本語で「時」を意味する。深い軒や格子戸など、伝統的な日本建築の手法が随所に取り入れられた佇まいが印象的だ。この賃貸住宅を企画・設計した株式会社ブルースタジオの大島芳彦さんに、QUANDOのコンセプトや想いをお聞きした。


現在の三軒茶屋交差点。手前が国道246号線、右に進むと世田谷通り。この分岐点に三軒の茶屋があった



「人」「場所」「時間」の価値を追求。地域社会と共存する、コミュニティの一部としての賃貸住宅を意識


賃貸住宅を設計する際、ブルースタジオで大切にしているのが「あなた」「ここ」「今」ということ。すなわち、「人の価値」「場所の価値」「時間の価値」の3点において他の賃貸住宅とどう違うのか、何がオンリーワンであるのかを追求するという。

「『あなた』というのは、オーナー様の場合もありますし、あるいはそこに住むと仮定される入居者の場合もあります。『ここ』というのは、QUANDOで考えるなら三軒茶屋や太子堂という地域。地理的な側面も含めて、ここでなければという要素です。『今』はこの時代のこのタイミングということ。社会環境や、地域が抱えている社会問題も含めてそれを解決していく場になるのかどうか。その地域社会が持っている魅力を活用することができるのかという3点を大切にしています」と大島さん。

どのような賃貸住宅づくりを目指しているのか、もう少し具体的に教えていただいた。
「賃貸住宅はひとつのコミュニティです。よくこういう言い方をするのですが、賃貸住宅というのは、『家族の次の段階のコミュニティの最小単位』なんです。家族をコミュニティと言わないのであれば、賃貸住宅というのは地域社会におけるコミュニティの最小単位です。そのコミュニティをどうデザインするかを考えた時に、その地域社会において閉鎖的なコミュニティであるべきではないと考えています。

『ここでなければ』ということを考えた時、コミュニティデザインが賃貸住宅のデザインであるならば、地域社会がどういうコミュニティであるか、そのコミュニティの一部をデザインするという意識を持たなくてはなりません。かつての成長する社会においては、ゲーテッドコミュニティをつくり地域社会を排除して、それを価値と呼ぶ高級賃貸住宅がありましたし、未だにあります。しかし、私達がつくろうとしている賃貸住宅は囲われた中に存在する、いわゆる消費の対象になってしまうようなものではありません。地域社会の中で、地域と共存して変化していくような持続性のあるコミュニティを増やしていきたいと考えています」


深い軒や格子戸など、細部まで木のぬくもりが感じられる美しい外観。1階が2戸、2・3階がメゾネット方式の2戸、計4戸の賃貸住宅。4戸ともに前面道路から縦格子と土間を介して入室する日本古来の家屋ならではのプラン。三軒茶屋というまちを考慮した、地域社会に自然と溶け込むデザインになっている



「均一」ではなく、消費されない賃貸住宅をつくる


日本全国どこの町にも同じようなビルが建ち、高層マンションがそびえ、そして似たようなデザインの賃貸住宅が建ち並ぶ昨今。私たちは誰でも「クオリティの高い均一な住環境」を手に入れることができるようになった。それは確かに魅力的なことでもある。しかし一方で、消費され競争力を失い、選ばれない賃貸住宅が増えているのも事実だ。それらは大島さんが賃貸住宅に求めるものと真逆の、「あなたでなくても」「ここでなくても」「今でなくても」成立する価値を追い求めてきたからではないだろうか。技術革新のスピードはますます早まる時代。新しいものをよしとするなら、そのような住環境は瞬く間に見向きもされなくなってしまう。

「家電製品や車のように、世にある耐久消費材は『均一』でいいと思うのです。更新されていくことが技術革新につながるからです。しかし住環境がそれを求めるというのは違うと考えています。住環境やまちは、消費されていく存在であってはなりません。家単体をとっても、家というのはまち並みそのものなのです。それが一新されてしまう状況というのは、地域の人たちのアイデンティティを失う可能性すらあります。再開発は、自然で考えたら突然見慣れた山がなくなるみたいなものです。海や山や川を始め、都市においてはそこに存在するまち並みもその地域の人たちの心象風景であるはずです。そういったものがどんどん更新されて失われていくだけでは、その地域が生活するための環境としてただ消費されるだけで終わってしまいます。そうであるならば、その反対を考えたらどうかということです」

次号では、「あなた」「ここ」「今」に基づいた「QUANDO」の設計コンセプトなどを紹介する。

※※建物写真はすべて撮影:千葉顕弥、提供:ブルースタジオ


消費されないまち、そして賃貸住宅であるために。地域コミュニティの一部として機能し、地域社会と共存しながら活力を生み出すような賃貸住宅を目指して完成した「QUANDO」。住人が誇りを持って暮らせる美しい外観デザインも特徴。1階を玄関とする2・3階がメゾネットの2人暮らし向け住戸は低層住宅用地域の利点を活かし、3階からは周辺地域の屋根の連なりや地形を見ることができる



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