観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 輸出産業の稼ぎ頭 外航クルーズ船寄港

ジョルダンニュース編集部

博多港に入港したクルーズ船、スペクトラム・オブ・ザ・シーズ号 画像:福岡市役所

輸出産業の稼ぎ頭 外航クルーズ船寄港


 平成30年の間に、日本の輸出産業は、労働コストの低減や、海外の有望な大消費地近くで生産するメリットを重視するようになり、地方から工場がなくなっていった。その結果、地域経済の衰退や国内の雇用機会が減少するという、いわゆる産業の空洞化が進んだのだ。
 インバウンド観光は、外国人観光客が日本国内で物を買い、サービスを消費してくれることから、日本の「輸出産業」として重要な稼ぎ頭となった。特に、地域経済においては、工場が撤退したダメージを埋めるのみならず、それを超えるものとして大きな期待が集まった。
 その代表的なものが、クルーズ船による外国人観光客の誘致である。クルーズ船の寄港は、1回の寄港で数千人の乗客(大勢のクルーも含む)が寄港地で買物や観光を行うだけでなく、その数千人の乗客がクルーズ期間中に船内で消費する食材や飲料を寄港地で調達することになるため、非常に大きな経済効果を生む。

アジアのクルーズ人口の増大を期待



 筆者は、2001年から2003年に福岡市に出向した際、市長室直轄の肝入りプロジェクトが、博多港にクルーズ船を寄港させようというものだったことを鮮やかに思い出す。福岡市は、早い時期から、アジアのクルーズ市場の成長とクルーズ船の大型化によりアジアのクルーズ人口が増大することを見込んで動きだしていたのだ。
 コロナ前の直近の2019年のクルーズ船の寄港数では、船会社側の事情もあり、那覇に一位を譲ったが、長らくクルーズに取り組み、地道に課題解決に努めて他地域のモデルになってきたことは高く評価される。
 近年のクルーズ市場の構造は、値段の高い順に、ラグジュアリー・マーケット、プレミアム・マーケット、カジュアル(マス)・マーケットの大きく3つの層に分かれている。

船内で宿泊や食事,寄港地への経済効果に疑問も


コロナ禍以前、波の少ない地中海クルーズは日本でも人気。モンテカルロの港を望む

 そのうち最も安価でクルーズ人口の多い層は、1週間以内で回る一定のコースを定期に周遊し、料金は1泊1万~1万5,000 円程度というようなクルーズだとされる。中国を起点として我が国に寄港しているのは主にこの層のクルーズであった。これについては、「クルーズは、交通混雑など地元に負担ばかりがかかる割に、宿泊や食事は船内で済ませるため、収益は船会社がほぼ持っていってしまう」という批判がある。
 福岡市は、コロナ前、ラグジュアリー・マーケットやプレミアム・マーケットにターゲットをシフトしつつあった。富裕層のクルーズ客を対象に地元経済への効果を期待したからだ。
 なお、観光庁は「日本の魅力発信に向けたクルーズ着地型観光の充実のための検討会」を立ち上げ、19年6月に「クルーズの着地型観光に関する優良事例集~クルーズ船寄港による地域の活性化にむけて~」と題する報告書を公開している。そこでは、シャトルバスの運行やバス降車後の歓迎イベントなどの情報発信のタイミングや方法などの諸課題を明らかにしている。
 国内クルーズ船は再開の動きがみられるが、まだまだ、日本での外航クルーズの復活には時間がかかることが予想される。しかし、これまでの経験を踏まえてどのような布石を打てるか、インフラ整備も含めて、各地の知恵の出しどころだろう。
(本稿は個人的見解である)

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長を経て、現在、財務省大臣官房公文書監理官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
記事提供元:タビリス