短期連載 中国の身近なIT事情 スマホ支払いで消えたダフ屋

ジョルダンニュース編集部

 中国の労働節・メーデーの5連休は一年中で、旅行に最適な時期だ。しかし、今年は新型コロナウィルスのせいで旅行が制限され、感染者が少ないわが貴州省の各県も、このメーデーの休み期間中には、できるだけ移動しないように呼びかけていた。(中国の行政単位には省、内蒙古など自治区、北京など直轄市がある。それより狭い行政単位が市、そして県の順)
 県外に行かなくても、身近な場所に旅行に出かけるのは悪くない。日本で話題の近場の旅行、マイクロ・ツーリズムだ。中国は、高速鉄道の発展が目覚ましく、日本の国土の約半分、17万平方キロメートルの貴州省でも縦横斜めの3路路線の高速線路、延べ1527キロメートルが走っている。
 しかし、メーデーの連休を利用して、筆者が行ったのは、高速鉄道には乗らず、貴州省都の貴陽市から120キロ離れた畢節(ひっせつ)市織金県。緑の塗装の外観から緑皮と呼ばれる在来線に揺られ、時速60キロくらいの3時間ほどの鉄道の旅だった。

Google map


タクシー、鉄道、宿泊など予約簡単


 綿密な計画を立てるほどの旅行ではないが、念のため列車の時刻を調べ、切符や座席も確保しておこうと思った。こうした旅程を組み立てる場合、筆者と同世代かもっと若い世代は、スマホを最大限活用する。日本でも、ジョルダンの乗換案内を駆使して、経路検索や運賃、宿泊施設予約などをする人もいるだろうが、まだ多数派ではないかもしれない。
 筆者は出発前に、高徳地図や携程旅行などの携帯APP(アプリ)を開いた。自分の個人情報を登録後に旅行先を入力すれば、列車運行の時間、チケットの有無などが表示され、希望の列車を選んで、旅行保険や座席の選択も可能だからだ。さらに、目的地に着いた際の迎え車のサービスも表示される。現地での地理に不案内なら申し込めばいい。その後、支払いに進む、中国版ラインともいえるウイチャットのマイ財布や自分の銀行カードから払うことができる。
 もし、変更したいならば、一度だけの変更は無料で、2回目は5元(約100円)の手数料が取られる。慣れれば、スマホを使ったチケットの購入などは実に簡単。筆者は大学での講義後、帰宅してひと息ついた夜間にも予約できるのが助かった。実際に駅に行って列を並ぶより、時間も体力も節約できる。ちなみに、在来線の運賃は安くて、120キロの距離で、一人28.5元だった(約560円)。この距離は東京から熱海までとほぼ同じだ。

緑皮の在来線


携帯でチケットを購入

 中国では列車に限らず、飛行機のチケットもスマホ購入できるサービスが普及している。これは大きな利点がある。
 というのも以前は、ダフ屋が横行し、筆者もたびたび騙された苦い経験があった。偽造されたチケットをつかまされたばかりに、飛行機に乗れず、空港のチェックインカウンターで、真っ青になったことを思い出す。日本では、インターネットの販売サイドでチケット代金を振り込んだのに、詐欺だったなどということは、ほぼないだろう。スマホの普及で、中国では、ダフ屋もずいぶん減った。

タクシー運転手もつらいよ。乗客がスマホで評価


 朝、自宅から駅に行くのにネットでタクシーを手配する。行先を入力すると、料金、時間、車の種類など表示される。運転手の態度も乗客のスマホで評価できる。運転手はマスクを着用していたかどうか、タバコを吸っていたがどうかなどだ。目的地に着くと、料金は直接スマホの財布から引き落される。ネット配車が普及する以前、タクシー独占の市場では、迂回して余計な料金を請求されたり、短い距離だったら乗車拒否されたり、タクシー業界の評判は芳しくなかった。
 スマホで予約した結果、電話予約や流しのタクシーより格安の料金で貴陽駅に着き、身分証明書を示し改札を通り、小旅行は始まった。3時間の旅で隣席の旅行客が軽食やお菓子を取り出し、分かち合いながらよもやま話をしたり、沿線の風景を見たりするのも在来線ならではの楽しみだ。
 織金県は人口80万人、大半は沿海部や出稼ぎに行っていて、正月以外には人口が半減し、残りは学生と老人だった。織金の駅に着くと、すぐにバス乗り場があった。思いのほかバスは新しく、全て電気自動車。駅から目的地までは約20キロで、格安の4元(約807円)ほどだ。スマホがあれば、運転手の脇に貼られていたQRコードをスキャンして払うことができる。支払いが済んだら、音声で何元を払ったと知らせがあり、運転手も確認することができる。もちろん紙幣も硬貨も集金箱に投入もできるが、日本のような親切な両替機はないので、小銭を持っていないと困ることもある。
 1時間のバスの旅で、訪れたかった織金世界地質公園に着いた。地質公園では、スマホでも入園券を購入することができた。しかも、係がいる窓口より2元安く、わずかだが得した気分になった。筆者は、現地に着いてから、親切な案内人に教えてもらい、その場でQRコードをスキャンして購入した。

高原カルストの洞穴


 ガイドによると、今年はやはりコロナのせいで、連休なのに入園者は1日2000、3000人しかいなくて、コロナ以前の1万人以上の来園者と比べると寂しい限りだという。観光客を引き寄せるため、通常の入園料140元(約2800円)が、ほぼ半額の80元(約1600円)になっている。観光業も生き延びるため、頑張っていると痛感した。

現金持たずで、紛失、盗難の恐れなし。散財の恐れあり


 宿泊もネットで予約した。携程旅行のアプリなどに自分の条件に入力し、気に入るホテルや民宿が選べる。また、客のコメントも参考になって、ネットで、まだ部屋があるかどうかも表示され、電話や現地で確認する必要もなくなる。
 この小旅行の間、現金を使った記憶はない。日本での旅といえば、短い日程でも、万一に備え現金を持ち歩いたものだ。交通系電子マネーやクレジットカードなどがどこでも使えるとは限らないからだ。現金の紛失や盗難を心配とともに、紙の切符なども失くさないようにと気を使った。それが、今回のように現金不要、キャッシュレスで旅ができるのは便利このうえない。
 もっとも、後日、楽しく遊んだツケとして、支払いをしなくてはならないのは当然のことで、キャッシュレスは気をつけないと散財につながる。(この項おわり)

携帯でホテルを予約する



李海(り・はい) 1982年中国四川省生まれ、2001年に来日。2014年名古屋大学文学博士号。東京で約7年間香港メディアの特派員。2019年9月中国に戻り、現在、貴州省の貴州民族大学外国語学院準教授。著書に『日本亡命期の梁啓超』など。

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記事提供元:タビリス