まるでジブリの世界 「中庭アパルトメント」の美と機能【名物賃貸におじゃまします(1)】

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日本のマンションはどうして似たようなデザイン、構造なんだろう。そう考えている人は案外多いのではないでしょうか。しかし、よく探してみれば日本にも、そんな先入観を吹き飛ばす個性的な集合住宅が見つかります。その一つが、中庭をデザインのカギにした集合住宅。今、静かな人気を集めています。【連載】名物賃貸におじゃまします
斬新なデザインや仕掛けをしている賃貸住宅=名物賃貸を毎月紹介する連載です。一見するだけでは分からない中庭の効果

東京・中央線の高円寺駅界隈(杉並区)は、商店街と静かな住宅地がほどよく混在する街。中央線沿線はもともと作家、漫画家、演劇関係者などが多く住むエリアと言われていますが、高円寺も例外ではなく、庶民的なにぎわいと文化の香りのする街です。

この街に中庭を特色とする集合住宅があると聞き、訪ねてみました。設計したのは、地元の建築家で、アトリエボーヌ(ATELIER BEAUNE/丸山保博建築研究所)を経営する丸山保博さん。丸山さんは「中庭アパルトメント」と名付けた中庭を配置した集合住宅をいくつも設計、2004年には、杉並「まち」デザイン賞を受賞しています。

代表的な作品の一つが、「カーサ・デ・アトリオ」。建物脇の通路を通って中へ進んでみましょう。

ありました! そう、これが中庭アパルトメント!

【画像1】「カーサ・デ・アトリオ」の中庭。上部からの光が明るく、開放感がある(写真撮影/織田孝一)

【画像1】「カーサ・デ・アトリオ」の中庭。上部からの光が明るく、開放感がある(写真撮影/織田孝一)

石畳の通路、その両側には植栽、そして全10部屋すべてがこの中庭に面しています。つまり住民が各部屋に出入りするときは、必ずこの中庭を通ることになります。

中庭の上部の屋根部分が円形に空けられ、光が十分に入るため、想像していたよりずっと明るく、開放的な感じです。円形の開口部、らせん階段、ゆるやかにカーブする通路など、曲線を用いたデザインがこの建物に優しい雰囲気を与えています。

基本的には南ヨーロッパの印象を受けますが、輸入してきたような違和感はまったくなく、とても自然。シンプルなデザイン、落ち着いた色彩、植栽、ディテールに取り入れた和のテイストなどがそう感じさせるのでしょう。

しかし丸山さんは、中庭は鑑賞のためのものだけではないと語ります。その機能として、次の3点を挙げます。

「まず、アプローチの機能。従来の日本の賃貸住宅は部屋を一列に並べ、入り口に沿って廊下が付くのが通常のパターンでした。この廊下は北側の場合が多く、暗いのが普通。この廊下を廃し、中庭から直接各部屋に入る方式にすれば、部屋は明るく、開放的になります。部屋を広くできますし、中庭はそれぞれの部屋の庭としても意識されるため、住民は気持ちの面でも広さを感じられます」(丸山さん)。中庭はまた、災害時の避難経路にもなります。

第2に、住民同士が中庭で自然に出会い、言葉を交わすといったコミュニティ機能。現代では、隣人がどんな人なのかまったく知らないほうがいいという人も多いでしょう。しかし、意外と人はゆるやかなつながりを求めることもあるもの。中庭はプライバシーを侵すほど近くなく、かといって完全な孤立にもならない、“ほどよい距離感”を、住む人々に与えてくれるようです。

また中庭という半公共スペースは、他者の目が適度にあるため防犯面でも役立ちます。「カーサ・デ・アトリオ」のオーナーである渡邊さんも、「ここは立地が三方を家に囲まれていたため、外側に部屋の出入りのための廊下や階段を付けるのは防犯上も良くないと思っていました」と振り返ります。

第3は主に、施主側に対するメリットです。「土地の形状にもよりますが、外廊下をつくらないことで建設費が下がります。また中庭が付加価値になり、賃料を高めに設定でき、利回りの点でも有利です」と丸山さんは話してくれました。

しかし、筆者は中庭アパルトメントの魅力は何より、中庭を核とした空間全体が、外界とはちょっと異なる雰囲気をもっていることだと思います。ある居住者は丸山さんに「(中に入ると)空気が変わりますね」と、感想をもらしたそうです。街の喧騒が入らず静かで、外部環境の変化の影響も受けにくい。そんなこともあって、日常生活の場であるのに、異世界に入るようなトキメキがあるのです。

また、建物に関しては素材の力も見逃せません。丸山さんは造形の魅力を最終的に伝えるのは素材だと考え、漆喰、石、土などの自然素材を駆使します(丸山さんは2008年、2009年と連続して、日本漆喰協会作品賞を受賞しています)。そのことで年月がたっても(むしろたつほどに)美しい建物を生み出しています。

【画像2】多くの場合、中庭から上階の部屋へはらせん階段などで入る。曲線や植栽のおかげで自然に抱かれて暮らす感覚もある(写真撮影/織田孝一)

【画像2】多くの場合、中庭から上階の部屋へはらせん階段などで入る。曲線や植栽のおかげで自然に抱かれて暮らす感覚もある(写真撮影/織田孝一)

ヨーロッパの「共同体を支える空間」に学ぶ

建築誌に取り上げられるなど、今は人気の中庭アパルトメントですが、最初はなかなか理解を得られませんでした。丸山さんが初めて中庭のある建築を提案したのは、やはり高円寺にある集合住宅「パラシオ・デ・ヒロ」ですが、当時、不動産会社の担当者からは、これではプライバシーが守れない、入居する人はいない、と反対されたそうです。

しかしオーナーの理解もあり、反対を押し切って建てた中庭付きの「パラシオ・デ・ヒロ」は、2000年に竣工するとすぐ満室に。以後、丸山さんの手法は評判を高めていきます。現在は、丸山さんの設計した集合住宅は高円寺エリアのほか、京都市北区、神奈川県逗子市などにも建てられ、いずれも人気物件となっています。

【画像3】初めて中庭を設けた「パラシオ・デ・ヒロ」。向かって左の通路を通って中庭に入る。外観も美しく、都市景観にも貢献している(写真撮影/織田孝一)

【画像3】初めて中庭を設けた「パラシオ・デ・ヒロ」。向かって左の通路を通って中庭に入る。外観も美しく、都市景観にも貢献している(写真撮影/織田孝一)

では、他に類を見ない丸山さんの発想はどこから生まれたのでしょうか。

丸山さんは高校生のとき、アンコールワットの本を見て建築に興味をもったそう。その後、日本大学理工学部建築学科に進み、卒業後は木村傳建築設計事務所に勤務します。しかし仕事のプレッシャーや人間関係に悩み、仕事ができなくなるような状態に。

「それを克服しようと哲学書を読むなど、試行錯誤しました。やがて、人間の感性や価値観の違いを理解するために、名建築と言われるものを片っ端から見ることを決意しました」

建築を巡る旅は、自分の建築事務所を持ってからも続き、海外へも足を運んだそう。そこで知ったのが、ヨーロッパの広場のある村や街であり、中庭のある建築でした。

「明治以降に日本に入ってきた西洋建築と言えば、駅や官庁など公共建築に多く見られるモニュメンタルなものを思い浮かべることが多いと思いますが、もう一つ、共同体から生まれ、その生活を支えてきた素朴な建築があります」

例えば、映画『ローマの休日』を観ると、グレゴリー・ペック演じる新聞記者が住む庶民的なアパートが出てきます。これがまさに中庭のある集合住宅で、あちらではごく普通に見られるものだそうです。

丸山さんが設計する集合住宅に影響を与えたのは、この共同体を支える建築でした。丸山さんの建築は、ヨーロッパ的な集合住宅を再現することによって、日本の共同体意識を再生しているという見方もできるでしょう。

【画像4】「中庭アパルトメント」という領域を切り開いた丸山保博さん。設計した逗子の集合住宅の模型を手に(写真撮影/織田孝一)

【画像4】「中庭アパルトメント」という領域を切り開いた丸山保博さん。設計した逗子の集合住宅の模型を手に(写真撮影/織田孝一)

生活そのものが楽しみになる空間

「カーサ・デ・アトリオ」のオーナーである渡邊さんは、「入居者さんが出入りに中庭を通る感じがとても良いと思いました。この中庭とデザインのおかげか、あまり空室になったことがありません」とのこと。

居住者の方々も、ここでの生活を楽しんでいるようです。「休日に中庭で歯を磨いている人がいたり、1階にお住まいの方が2階で中庭を眺めていたり……。特に女性の入居者さんには、『まるでジブリ(の作品に出てくる場所)みたいですよね』と言われたことがあります」(渡邊さん)。

確かにここは、『魔女の宅急便』を彷彿させる空間ですね。外界とはちょっと違う世界を感じ、それが日々の生活を楽しむことにもなっている。これが中庭のある建物のすばらしさなのかもしれません。

●取材協力
・アトリエボーヌ 丸山保博建築研究所
・「カーサ・デ・アトリオ」オーナー 渡邊さん

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