自民党総裁選 森友・加計疑惑の再燃を嫌悪【平成クロニクル(15)】森友・加計 「権力私物化」の霧は晴れず

山岡淳一郎 (作家)(News Socra)

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Reuters

 自民党総裁選の火ぶたが切られた、はずなのに一向に盛り上がらない。石破茂元幹事長が論争を仕掛けても安倍晋三首相は真正面から受けて立とうとせず、大手メディアは安倍圧勝の票読みをするばかり。石破氏が「正直、公正」をスローガンに掲げると、自民党内で「(安倍氏への)個人攻撃は控えて」と批判された。石破批判は奇しくも安倍首相は「正直でも、公正でもない人」と見られている事を明らかにした。

 安倍首相がそうみられてしまうのは、「森友学園」と「加計学園」の疑惑にきちんと対応してこなかったからだろう。総裁選で再燃するのを嫌悪し、フタをしていたい、という心理がすけて見える。裏返せば、それほど「権力の私物化」とみなされる行為は罪深く、尾を引くのである。

森友学園への国有地払い下げ問題では、担当した財務省近畿財務局の男性職員が、18年3月、自殺した。

「決裁文書の調書の部分が詳しすぎると言われ上司に書き直させられた」

「勝手にやったのではなく財務省からの指示があった」

「このままでは自分1人の責任にされてしまう」

 と、男性職員は書き遺したと報道されている。亡くなって、まだ半年しか経っていないのに事件は、どんどん政治の後景へと押しやられている。

 もう一度、森友、加計問題の経緯を整理し、確認しておこう。

 先に火がついたのは、森友学園のほうだった。2017年2月初旬、近畿財務局が森友学園に払い下げた国有地の売却価格が非公開となっており、国有地が大幅に値引きされていた事実が報じられる。売却額は、鑑定価格より約8億円値引きされていた。そこに新設予定の小学校の名誉校長は安倍首相夫人の昭恵氏。学園理事長の籠池泰典氏の国家主義的教育を「熱意はすばらしい」と評価していた。

 17年2月17日、衆議院予算委員会で安倍首相は、こう断言した。

「私も妻も一切、この認可にもあるいは国有地の払い下げにも関係ない」

「私や妻が関係していたということになれば、まさに私は、それはもう間違いなく総理大臣も国会議員もやめるということははっきりと申し上げておきたい」

 この後、財務省の決裁文書は、理財局長だった佐川宣寿氏を中心に国会議員への提出に向けて、改ざんされていく。原本に「貸付契約までの経緯」と題して森友と近畿財務局のやりとりを詳述していた頁が丸ごと削除。安倍首相、麻生太郎ら国会議員の名前が消される。次の文章も、そっくり削られた。

「本年(2014年)4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めてください』とのお言葉をいただいた。」との発言あり(森友学園籠池理事長と夫人が並んで写っている写真を提示)

 財務省理財局が決裁文書を改ざんする一方、国会では財務省幹部が誤った答弁を行う。「交渉記録は破棄した」と主張する財務省に対し、野党側が犯罪捜査で用いる電子データの復元で解明を求めると、岡本薫明財務省官房長は、「バックアップ期間の14日を過ぎれば、システム運営会社の専門家でも、データの復元はできない」と言い抜ける。

文書管理の責任者の岡本氏が壁として立ちふさがった。18年3月の改ざん発覚後、財務省は大阪地検特捜部の協力を得て交渉記録などを公表することとなる。

 この岡本氏が現在の財務事務次官なのである。

 森友問題が首相夫人の情緒的身びいきに起因していたとすると、加計学園問題は首相の「お友だち優遇」体質に根ざしているようだ。

 17年3月、加計学園(岡山理科大学)は、国家戦略特別区域に指定された愛媛県今治市に獣医学部を設置するための認可を文部科学省に申請した。ここから問題に関心が集まる。

 過去に今治市は十数回、構造改革特区を利用した獣医学部新設を求めたが、文科省は「全国的見地から対応することが適切」として認めてこなかった。そこで、安倍首相の「腹心の友」である加計学園・加計孝太郎理事長は別の方法を模索する。

 第二次安倍内閣は、国家戦略特別区域を制度化した。そして、「既存の獣医師養成ではない構想」「ライフサイエンスなどの獣医師が新たに対応すべき具体的需要」「既存の大学学部では対応が困難」「近年の獣医師需要動向の考慮」など4条件を満たせば内閣府が新たな獣医学部設置を検討すると、15年6月、閣議決定した。

その年の暮れに「広島県及び愛媛県今治市」が国家戦力特別区域に指定される。16年10月の政府ヒアリングには、京都府と京都産業大学も獣医学部設置構想を提示した。

 しかし、「広域的に獣医師系学部が存在しない地域に限り」と国家戦略特区諮問会議がハードルを上げ、結果的に京都案は弾かれる。内閣府は、今治市で獣医学部設置の事業者を募集し、加計学園を選定した。こうした経緯で加計学園は文科省に設置認可を求めたのである。

 17年5月16日、朝日新聞が「総理のご意向」と記された文書が文科省に存在すると報じた。翌日、菅義偉官房長官は「まったく怪文書みたいな文書じゃないでしょうか。出所も明確になっていない」と突っぱねる。文科省も幹部の聞き取り調査だけで文書はないと応じた。 

 ところが、5月25日、前文部科学省事務次官の前川喜平氏が記者会見を開き、「あったことをなかったことにはできない」と内情を暴露。「平成30年4月開学を大前提に逆算して、最短のスケジュールを作成し、共有していただきたい。これは官邸の最高レベルが言っていること」「総理のご意向だと聞いている」という文書を担当課から示された、と証言した。

 7月24日の衆議院予算委員会で、安倍首相は、「すべて議事録はオープンになっている。選定プロセスは、民間有識者も、一点の曇りもないと述べている」と答弁。議事録の公開は4年後なので、嘘をついたことになる。

また「(加計学園の獣医学部新設の)申請を知ったのは、(17年)1月20日の(国家戦略)特区諮問会議だ」と述べた。これまたダーク・グレーだ。安倍氏と加計氏は、第二次安倍政権発足後、記録に残るだけでゴルフや食事で14回も会っている。獣医学部の話がまったく出なかったとは、考えにくい。

 官邸側の窓口とされる柳瀬唯夫・元首相秘書官は、「私の記憶のある限りでは、今治市の方にお会いしたという記憶はございません」と国会で証言した。こちらは、18年5月、愛媛県が記録文書を国会に提出し、会っていた事実が暴露される。野党は加計氏の国会での喚問を再三要求したが、安倍内閣は拒絶した。

 18年6月19日、加計氏は突然、地元岡山のメディアだけを相手に記者会見を開く。愛媛県文書の「15年2月25日に安倍氏と加計氏が面会」と記されていたことを、「記憶にも記録にもない」と否定。愛媛文書の記載は「事務局長のやったこと」と弁明した。

 ここで、加計疑惑は停止したままなのだ。加計学園の岡山文理大学の獣医学部には愛媛県と今治市、合わせて約93億円の公費が投入されることになっている。「権力私物化」の疑いは晴れていない。

(この連載は今回で終了します)

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