観光を起爆剤に誇れるわが街に~ 渡部晶(財務省勤務)

ジョルダンニュース編集部

 NHKの連続テレビ小説『ちむどんどん』がいよいよ今月11日から始まった。沖縄の本土復帰50年を記念し、沖縄本島北部のやんばるを舞台とする。沖縄料理に夢を懸けるヒロインと強い絆で結ばれた4兄妹の「家族」と「ふるさと」の物語だ。

『ちむどんどん』の舞台のやんばるの森 ©沖縄観光コンベンションビューロー

 国の機関として観光庁ができたのは、2008(平成20)年10月1日のことだった。観光庁のホームページには、「観光は、我が国の力強い経済を取り戻すための極めて重要な成長分野です。経済波及効果の大きい観光は、急速に成長するアジアをはじめとする世界の観光需要を取り込むことにより、地域活性化、雇用機会の増大などの効果を期待できます。」とその重要性が高らかに宣言されている。

 いま現在、コロナ禍の中で、沖縄観光は大変たいへんな苦境にある。しかし、旅をして、日常生活を一時的に離れ、新たな出会いを求めたいというニーズは途切れることはない。沖縄のホテル建設に大きな役割を果たしてきた沖縄振興開発金融公庫は、3月に「コロナ禍における沖縄旅行に関する調査(2021年版)」を公表した。沖縄旅行の動機を、全国と比べ「日常生活からの開放」、「思い出をつくる」、「家族の親睦」だと分析。海外旅行には慎重な姿勢がみられる中、国内旅行へのシフトは今後もしばらく続くという。沖縄の「海浜リゾート」に、コロナ疲れの癒しやリフレッシュを求める流れには根強いものがあるとみるべきだ。

ハワイを目標に観光に取り組んできた沖縄


美しい浜が広がる与那覇前浜ビーチ ©沖縄観光コンベンションビューロー

 これに早くから気付いて、ハワイを目標に観光に取り組んできたのが沖縄だ。「島嶼(とうしょ)学」の提唱者、嘉数啓(かかず・ひろし)・琉球大学名誉教授は、沖縄のような島嶼部は、資源・市場・規模が矮小であり、外からの輸入が不可欠で、経済が慢性的な貿易赤字に陥ることは避けがたいという。この赤字補てんの主要な財源は、出稼ぎによる海外送金の受け取り(Remittance)、政府開発援助(ODA)あるいは中央政府からの財政移転受け取り、そして、まさに観光収入(Tourism)になる。 小磯修二・公益社団法人北海道観光振興機構会長は、沖縄と並んで人気のある北海道の観光について、沖縄のように観光を基幹産業にとして位置付けて活性化をはかる重要性を長らく主張している。小磯氏は、北海道が地域経済の規模が沖縄の4.7倍もあるのに、観光来訪者の消費額にあまり差がない状況に着目した。

政府の特別措置に加え、自前の知恵と手法が奏功


沖縄料理店や土産物屋が並ぶ那覇市の国際通り。コロナ禍が収まれば、元の賑わいを取り戻すだろう ©沖縄観光コンベンションビューロー

 沖縄の観光消費が伸びるきっかけとなったのは、日本政府肝煎りの航空運賃の低減に向けた特別措置の実現であったという。沖縄には他地域に比べ国内航空旅客機の航空機燃料税が現在2分の1に軽減されているなど、長距離路線に効果が大きい優遇策がとられている。また、沖縄県独自策定の長期構想「21世紀ビジョン」(2010年)をきっかけに、沖縄に優位のある観光に国の交付金の投入を可能にしたことは高く評価される。

 沖縄の経験は「中央との緊張関係をエネルギーとしながら独自の政策を構築していく気概と、借り物でない自前の知恵と手法が必要」(小磯氏)なことを示している。それが北海道との現時点での違いを生み出している。
*沖縄県は新型コロナウィルス感染症が未だに猛威を振るっている。一日も早いコロナの収束を願ってやまない。
(本稿は個人的見解である)

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長を経て、現在、財務省大臣官房公文書監理官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
記事提供元:タビリス