観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 鉄道大国として観光差別化が図れる可能性

ジョルダンニュース編集部

 1945年日本を占領した連合国軍最高司令官マッカーサーが1949年に「日本は太平洋のスイスであるべきだ」と発言したことが、「東洋のスイスたれ!」という形で流布し、著者が大学生であった1980年代までは耳にした。永世中立国スイスは、九州と同じくらいの面積、人口規模であるものの、ノバルティス、ロシェのような国際競争力の強い企業を国内にもち、高い生産性を維持していることや、国民皆兵制・民間防衛での武装中立、加えて国民投票が盛んに行なわれる国であることでも知られる。
 筆者がスイスを訪れたのは20年以上前になる1997年春。日本の金融当局とスイスの金融当局が1988年に始めた非公式会合に参加するために首都ベルンに赴いたとき。帰国の際、ベルンから鉄道でジュネーブに移動して、ジュネーブ国際空港から帰途についた。ベルンからジュネーブへの列車の車窓からのレマン湖の眺めが記憶に残る。
 鉄道旅行について、JR東日本のびゅうトラベルサービスが2020年10月に公開したネット記事「列車?車?旅行の移動手段はどっちがいい?」(注)では、渋滞に巻き込まれない、運転しなくていい、 車窓の景色を楽しめる、移動中の時間を自由に使える、(運転しないため)お酒を飲めるのをメリットにあげた。一方、荷物が多いと持ち込みが大変、 他の乗客に気を遣う必要がある、時間を気にして行動する必要があるをデメリットにあげる。

多くの列車が行きかうチューリッヒ駅

観光立国スイスは世界に冠たる鉄道大国


 スイスは、車社会のヨーロッパの中で、例外的に鉄道が優位に立つ国である。手元にある「地球の歩き方 スイス」でも、「観光立国スイスは、世界に冠たる鉄道大国でもある。国内に張り巡らされたネットワーク、正確無比な運行管理、そして清潔な列車と駅、親切なスタッフたち・・・・。スイス旅行の交通手段はまず鉄道を考えて間違いない」と記す。加えて、バゲージサービスも充実していることも解説。日本も鉄道大国として、観光で競合国との差別化を図れる可能性は大だ。鉄道は21世紀の課題である環境にやさしいことも容易にアピールできる。
 スイスでは、Bahn(RAIL)2000と呼ばれる都市間鉄道の改善のための大規模なプロジェクトが実施された。この財源については、スイスでは憲法に規定をもうけて、日本でいうところの自動車重量税や消費税などの税収の一部を充てた。1987年の国民投票により決定されたものだ。

スイスの鉄道といえば高山と列車というイメージが強い

スイスに学ぶべきことも多い


 スイス中央部の東西幹線軸であるベルンとチューリッヒの間では30分間隔のサービスが実現されたほか、乗り継ぎの基点(ハブ)となる駅では、列車が毎時0分と30分、あるいは毎時15分と45分の少し前にハブ駅へ到着するようダイヤが設定され、相互の乗り継ぎを容易にしている。スイスの鉄道は、鉄道路線の維持のために、政府から補助金を受けるほか、地方路線については、各カントン(州)からサービスを発注されるため、発生する赤字はカントンから補填される。また、路線については国防的要素も考慮することが法律で明記される。物流(兵站)も含めて考えれば、単純に民間企業の感覚で赤字路線の廃止を議論されては困るというのは正直なところだ。ただし、これまでの歴史の中で採算性の低いローカル線は整理されていることを付言する。
 「東洋のスイス」が目標とされた時代からはすでに半世紀以上たつが、いまだにスイスに学ぶところは多い。(本稿は個人的見解である)
(注)https://www.jre-travel.com/article/00192/ (2022年8月19日参照)

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
記事提供元:タビリス