観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 経済効果も見込まれるユニバーサルツーリズム
2022/9/27 16:40 ジョルダンニュース編集部
日本政府(観光庁)では、「ユニバーサルツーリズム」(すべての人が楽しめるように創られた旅行であり、高齢や障害などの有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行)の普及を目指している。今後も高齢化が進み、市場が拡大するのは明らかだし、誰もが楽しめる観光地となれば、集客も期待でき、大きな経済効果も見込まれる。
この分野でよく使われる言葉に「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」がある。
バリアフリーは、障害によりもたらされるバリア(障壁)に対処するとの考え方であるのに対し、ユニバーサルデザインはあらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種などにかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方である。バリアフリーは、もともと住宅建築用語として登場し、段差などの物理的障壁の除去をいうことが多かったので、どうしてもハード重視との印象があるが、ソフト面が不可欠なことを強調したい。
普及の方法も、バリアフリーは法律などで規制することで普及させる「行政指導型」で、ユニバーサルデザインは、良いものを褒めたたえ推奨する「民間主導型」と大きく異なっていることが指摘される。民間主導で普及を進める団体に「国際ユニバーサルデザイン協議会」(IAUD)(注1)がある。最近では、「なにわ一水」(有限会社なにわ旅館。松江市)が「障がいのある人もない人もみんなで一緒に泊まれる温泉宿」として、「IAUD国際デザイン賞」の2020金賞(住宅・建築部門)を授与されている。同賞は、ユニバーサルデザイン社会に向けた実践・提案を行っている団体・個人を表彰するもので、日本の旅館やホテルが受賞したのは、これが初めてとなる。
車椅子トラベラーの三代達也(みよ たつや)氏は、世界一周の経験を踏まえて講演を通じてユニバーサルツーリズムの魅力をユーチューブで発信している人物だ(注2)。
三代氏は、2021年3月に、温暖な気候に美しい自然、開放的な雰囲気に魅力を感じて沖縄に移住した。沖縄に移住してみて、本土にはない「心のバリアフリー」(様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと)を実感したという。「沖縄の設備面のバリアフリーは首都圏に比べるとまだ整っていない部分も多いですが、心の温かさやコミュニケーションでいとも簡単に乗り越えられる事が本当に多くあります」(「ゆいまーるの見える化」。沖縄バリアフリー観光ガイド『そらくる沖縄』16号(2022年8月)より)と指摘する。
沖縄県は、2007年に日本で最初に観光バリアフリー宣言をしたことで知られる。その中では「誰もが楽しめる、やさしい観光地」を目指すことを宣言している。那覇空港には「しょうがい者・こうれい者観光案内所(沖縄バリアフリーツアーセンター)」(注3)が2007年に沖縄県の支援で設置されている。
沖縄観光の魅力の1つとして、ゆったり、のんびり、明るいといった、癒しのスポットとしての人気があるが、他の地域でもユニバーサルツーリズムを進めることで、このようなニーズにこたえることも可能だろう。
なお、沖縄県では、2018年度から2021年度まで国の補助(一括交付金、注4)を受けて「おきなわ観光バリアフリー推進事業」を実施してきた。今年度からは、新たにバージョンアップして、ユニバーサルツーリズム先進地としての取組を強化する後継事業「おきなわユニバーサルツーリズム推進事業」を実施している。
「ユニバーサル」が象徴する「誰一人取り残さない」は、国連のSDGs(持続可能な目標)の重要な考えでもあり、ハード面の整備に止まらず、ソフト面にこの考えを取り入れることができる観光地が大いに支持されていくことは間違いない。
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
(注1)https://www.iaud.net/
(注2)「Miyo Channel」
http://www.youtube.com/channel/UCwKAtfs3eE39D1WfHo_ivcA?sub_confirmation=1
三代氏は、1988年、茨城県生まれ。18歳のときにバイク事故で頸椎(けいつい)を損傷。車椅子生活に。28歳の時、約9カ月間で23カ国42都市以上を回って世界一周を達成。2021年3月から糸満市に移住。著書に「No Rain No Rainbow 一度死んだ僕の、車いす世界一周」(光文社 2019年)がある。
(注3)http://barifuri-okinawa.org/BFtourcenter/index.html
(注4)沖縄の実情に即してより的確かつ効果的に施策を展開するため、沖縄振興に資する事業を県が自主的な選択に基づいて実施できるように2012年度に創設されたもの。対象事業費の8割を国が補助するという破格の制度。
この分野でよく使われる言葉に「バリアフリー」と「ユニバーサルデザイン」がある。
バリアフリーは、障害によりもたらされるバリア(障壁)に対処するとの考え方であるのに対し、ユニバーサルデザインはあらかじめ、障害の有無、年齢、性別、人種などにかかわらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方である。バリアフリーは、もともと住宅建築用語として登場し、段差などの物理的障壁の除去をいうことが多かったので、どうしてもハード重視との印象があるが、ソフト面が不可欠なことを強調したい。
普及の方法も、バリアフリーは法律などで規制することで普及させる「行政指導型」で、ユニバーサルデザインは、良いものを褒めたたえ推奨する「民間主導型」と大きく異なっていることが指摘される。民間主導で普及を進める団体に「国際ユニバーサルデザイン協議会」(IAUD)(注1)がある。最近では、「なにわ一水」(有限会社なにわ旅館。松江市)が「障がいのある人もない人もみんなで一緒に泊まれる温泉宿」として、「IAUD国際デザイン賞」の2020金賞(住宅・建築部門)を授与されている。同賞は、ユニバーサルデザイン社会に向けた実践・提案を行っている団体・個人を表彰するもので、日本の旅館やホテルが受賞したのは、これが初めてとなる。
沖縄移住で実感、「心のバリアフリー」
車椅子トラベラーの三代達也(みよ たつや)氏は、世界一周の経験を踏まえて講演を通じてユニバーサルツーリズムの魅力をユーチューブで発信している人物だ(注2)。
三代氏は、2021年3月に、温暖な気候に美しい自然、開放的な雰囲気に魅力を感じて沖縄に移住した。沖縄に移住してみて、本土にはない「心のバリアフリー」(様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと)を実感したという。「沖縄の設備面のバリアフリーは首都圏に比べるとまだ整っていない部分も多いですが、心の温かさやコミュニケーションでいとも簡単に乗り越えられる事が本当に多くあります」(「ゆいまーるの見える化」。沖縄バリアフリー観光ガイド『そらくる沖縄』16号(2022年8月)より)と指摘する。
観光地に期待される「誰一人取り残さない」の考え
沖縄県は、2007年に日本で最初に観光バリアフリー宣言をしたことで知られる。その中では「誰もが楽しめる、やさしい観光地」を目指すことを宣言している。那覇空港には「しょうがい者・こうれい者観光案内所(沖縄バリアフリーツアーセンター)」(注3)が2007年に沖縄県の支援で設置されている。
沖縄観光の魅力の1つとして、ゆったり、のんびり、明るいといった、癒しのスポットとしての人気があるが、他の地域でもユニバーサルツーリズムを進めることで、このようなニーズにこたえることも可能だろう。
なお、沖縄県では、2018年度から2021年度まで国の補助(一括交付金、注4)を受けて「おきなわ観光バリアフリー推進事業」を実施してきた。今年度からは、新たにバージョンアップして、ユニバーサルツーリズム先進地としての取組を強化する後継事業「おきなわユニバーサルツーリズム推進事業」を実施している。
「ユニバーサル」が象徴する「誰一人取り残さない」は、国連のSDGs(持続可能な目標)の重要な考えでもあり、ハード面の整備に止まらず、ソフト面にこの考えを取り入れることができる観光地が大いに支持されていくことは間違いない。
(本稿は個人的見解である)
渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
(注1)https://www.iaud.net/
(注2)「Miyo Channel」
http://www.youtube.com/channel/UCwKAtfs3eE39D1WfHo_ivcA?sub_confirmation=1
三代氏は、1988年、茨城県生まれ。18歳のときにバイク事故で頸椎(けいつい)を損傷。車椅子生活に。28歳の時、約9カ月間で23カ国42都市以上を回って世界一周を達成。2021年3月から糸満市に移住。著書に「No Rain No Rainbow 一度死んだ僕の、車いす世界一周」(光文社 2019年)がある。
(注3)http://barifuri-okinawa.org/BFtourcenter/index.html
(注4)沖縄の実情に即してより的確かつ効果的に施策を展開するため、沖縄振興に資する事業を県が自主的な選択に基づいて実施できるように2012年度に創設されたもの。対象事業費の8割を国が補助するという破格の制度。
記事提供元:タビリス