観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 発展途上の観光統計の整備

ジョルダンニュース編集部

 観光を語る際に統計に基づく数値データは議論を深めるには必要不可欠だ。しかし、関係者が様々努力してはいるものの、調査にかかるコストとの兼ね合いもあり、観光の統計の整備はまだまだ発展途上である。
 2017年5月、国では統計改革推進会議が次のような最終とりまとめをした。「我が国の経済社会構造が急速に変化する中、限られた資源を有効に活用し、国民により信頼される行政を展開するためには、政策部門が、統計等を積極的に利用して、証拠に基づく政策立案(EBPM。エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)を推進する必要がある。EBPMを推進するためには、その証拠となる統計等の整備・改善が重要である。また、EBPMを推進することにより、ユーザー側のニーズを反映した統計等が一層求められ、政策の改善と統計の整備・改善が有機的に進むことから、EBPMと統計の改革は車の両輪として一体として進めていく必要がある」

インバウンド関連の基礎資料となる観光庁の訪日外国人消費動向調査の1ページ目

比較に適さない都道府県ごとの集計不統一


 最近出た、経済学の観点から観光を論じた好著『観光経済学』(山内隆弘ほか著 有斐閣 2022年11月)でも、第Ⅳ部を「統計・実証」として全体の三分の一ほどの分量を割いてこの点を解説している。特に、第11章では「地域の観光統計」と題して、都道府県ごとの観光実態の捉え方を詳しく論じている。この中で、大きな問題として、都道府県の作成している調査や集計の手法などがまちまちで地域間比較に適さないことを指摘している。
 観光庁では、その基礎統計を活用して2014年より試算、公表している地域観光統計の精度向上等の観点から、加工素材となる2つの基礎統計(訪日外国人消費動向調査(注1)、旅行・観光消費動向調査(注2))について、見直し検討を2017年に実施し、翌2018年より新設計による統計調査を開始した。また、これを受けて地域観光統計の推計手法も見直しを図り、新たな推計手法による地域観光統計として、2018年結果分より都道府県毎に訪問者数、消費単価、旅行消費額を作成し、公表を始めた。実際、「旅行・観光消費動向調査」(2018年暦年(確報))は、2019年4月26日に公表、「訪日外国人消費動向調査」(2018年暦年(確報))は、2019年3月29日に公表されている。

多くの旅客でにぎわう関西国際空港(画像は一部修整してあります)

沖縄の統計数値が政治的駆け引きに


 筆者は、2016年6月から2021年6月までの5年間にわたり、沖縄振興に関わる仕事をしていたが、旅行消費額などの経済実態を冷静に分析するための統計数値まで政治的な駆け引きに動員されていることに閉口した(注3)。また、観光が地域経済の大きな柱である沖縄県はなぜ政策の基礎となる観光関係統計の正しい利用の普及やその整備にもっと力をいれないのか、たいへん残念に思っていた。
 上記の「観光経済学」では、観光庁の統計を踏まえて、2019年のインバウンド消費の割合が、沖縄県が大阪府、東京都、京都府、福岡県、愛知県に次いで5番目(注4)と高いことが明らかにされている。
 観光庁が、観光の先進地であるカナダやオーストラリアと同様、地域の観光統計の整備に力をいれてきたことは高く評価できる。各都道府県の取組みにも良い影響を与えることを期待したい。
(本稿は個人的見解である)

(注1)https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html
(注2)日本国内居住者の旅行・観光における消費実態等を調査するもの
https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/shouhidoukou.html
(注3)拙稿「沖縄振興の5年間」(財務省広報誌ファイナンス2021(令和3)年9月号)の「5.観光収入VS基地収入、跡地利用の経済効果」(25頁)を参照のこと。
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202109/202109e.pdf
(注4)沖縄県の旅行消費額:日本人は7位で7096億円、訪日外国人は6位で1767億円。 インバウンド消費の割合は約22%。(『観光経済学』274頁より)

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
記事提供元:タビリス