観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 「日本遺産」、歴史や風土を面として活用、発信

ジョルダンニュース編集部

「日本遺産(Japan Heritage)」とは、地域に点在する遺産を「面」として活用し、発信することで、地域活性化を図ることを目的として文化庁が2015年に認定し応援をはじめたもの。具体的には、ガイド育成から多言語ホームページ作成などまで財政支援する。
「我が国の文化財や伝統文化を通じた地域の活性化を図るためには、その歴史的経緯や、地域の風土に根ざした世代を超えて受け継がれている伝承、風習などを踏まえたストーリーの下に有形・無形の文化財をパッケージ化し、これらの活用を図る中で、情報発信や人材育成・伝承、環境整備などの取組を効果的に進めていくことが必要です」(注1)というのだ。24府県18件の認定でスタートし、8年で全47都道府県104件に拡大。国は水準を維持するため2021年に評価制度を導入したところである。

写真:日本遺産は観光などの面で地域活性化が期待される

一攫千金の夢、北前船が文化も運ぶ


 2017年に認定を受けたのが、関係の自治体(16道府県49市町 代表自治体:山形県酒田市)が広域で取組む「北前船寄港地・船主集落」である。
 江戸時代の中ごろから明治30年代にかけて、大量の荷物を積んで日本海を往来していた多くの船を「北前船」という(注2)。北前船には「千石船」(米を1千石=150トン積むことができる大きさ)というイメージがあり、巨大な帆1枚で帆走する和船(弁財=べざい船)がほとんどであった。千石船で大阪と北海道を1往復すると、北前船は千両(現在の価値で6000万円~1億円)もの利益を得られたという。見習いの船乗りから始まって船頭になり、お金を貯めて、自分の船を持つと大金持ちになれた。身分制の時代に、まさに、「一攫千金の夢物語」とされるゆえんだ。そのため、遭難が数多いにもかかわらず、船乗りを志す男たちは絶えなかった。
 また、北前船は、さまざまな文化も運んだ。例えば、運ばれた北海道の昆布により西日本で現在の和食の基礎ができ、あるいは、寒冷地では、北前船が運んだ古着など貴重な木綿のリサイクル技術から派生した「刺子」は、今でも各地で伝承されている。

写真:福井県越前町の北前船の展示

魅力的な物語=ナラティブから地域活性化を


 一方、北前船交流拡大機構(注3)(以下、北前船機構)は、2007年以降、日本国内において、各地にある魅力ある有形・無形の文化遺産の知名度アップなどを図るため、北前船寄港地フォーラムなどを20回以上にわたって開催してきた。
 北前船機構は、昨年10月には、JETRO(独立行政法人日本貿易機構)やJNTO(独立法人国際観光振興機構。通称日本政府観光局)などと連携して、日本食・日本文化の発信を目的とした大会をはじめてヨーロッパ、フランス・パリで開催した。「第31回北前船寄港地フォーラム in パリ 開会式」を皮切りに、様々なイベントが開催され、多くのメディアにも取り上げられたという。
 この2月2日から4日にかけては、北前船機構は「第32回北前船寄港地フォーラムin沖縄」を開催した。沖縄県は寄港地ではないが、江戸期に北海道の昆布が北前船を経由して当時の琉球王国に運ばれ、中国に輸出された歴史を踏まえ、初めて開催地になったものである。北前船の主要な商品である「昆布」は沖縄料理にかかせないものである。
 このような日本の歴史を踏まえた広域の取組みにより、単独ではなかなか注目されない、既にある地域資源に新たな光をあて、魅力的な物語(ナラティブ)から地域の活性化を生み出すことが極めて重要だ。特に、「北前船」は、交易で栄えた日本海側地域の往時の豊かさをしのぶものとしても興味深い。(本稿は個人的見解である)

(注1)「日本遺産とは」(https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/about/
 『日本遺産 ポータルサイト』(https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/
(注2)パンフレット「北前船49」(北前船寄港地・船主集落)
https://www.kitamae-bune.com/download/
(注3)一般社団法人北前船交流拡大機構 https://www.kitamae.org/
かつて日本海側が栄えた「北前船寄港地」ルートを点から面へ、回廊として発展させようとするもの。2017年8月に「北前船寄港地フォーラム」を母体として、東日本旅客鉄道・西日本旅客鉄道・北海道旅客鉄道・日本航空・ANA総合研究所などが中心となり、新たな機構(一般社団法人北前船交流拡大機構)を立ち上げた。

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。
記事提供元:タビリス