短期連載 ウィズコロナの観光コンテンツ、いま「城」が熱い!(下) 最新映像技術で天守をアート化

ジョルダンニュース編集部

高知城天守にゴッホのひまわりが“舞う”


 昨年12月2日~今年1月29日、高知市の中心にある高知城で『Art+ +高知城 ひかりの花図鑑–牧野富太郎と植物を愛した画家たち–』と題した夜間イベントが開催された。
 高知城は、関ヶ原の戦いの功績により徳川家康から土佐一国を拝領した山内一豊が築いた平山城。3層6階の天守(国重要文化財)は、国内に残る木造12古天守の一つ。夜景が見事な城として知られ、「夜景サミット」や「夜景検定」を主催する一般社団法人 「夜景観光コンベンション・ビューロー」が認定する「日本三大夜城」に、大阪城(大阪市)、高田城(新潟県上越市)と共に選ばれている。
 高知城の夜間イベントは毎回、家族連れやカップルに大人気だが、今回の趣向は一味違った。「印象派」の巨匠―モネ、ルノワールと「ポスト印象派」を代表するゴッホの絵画、さらに高知県が誇る世界的植物学者、牧野富太郎博士が愛した植物たちをモーチフに空間を演出した。

ゴッホのひまわりを投影した高知城天守(イメージ) 画像提供:株式会社シンユニティ

 4月3日に放送が始まったNHK連続テレビ小説『らんまん』。幕末から明治、そして大正・昭和と激動の世にあって、愛する植物のために一途に生きた男の波乱万丈な生涯を描くが、主人公(槙野万太郎)のモデルが牧野富太郎。1862年、高知県佐川町に生まれた富太郎は、独学で植物の知識を身につけ、新種・新品種など約1500種類以上の植物を命名し、「日本植物分類学の父」と謳われる。今回のイルミネーションでは、「見ているだけで心動かす力のある自然や植物を、偉大な画家たちの絵画を通して全身で感じてもらおう」との狙いから、富太郎が残した植物図鑑、さらに富太郎と同時代に生きたゴッホやモネ、ルノワールが愛した植物たちを最新アート化し、天守や石垣に映し出した。

公式動画


 追手門をくぐった先の入口石段は花手水(はなちょうず)に覆われ、高知の美しい川の水が高知城に降り注ぎ、花々と共に階段を流れていくイメージ。二の丸に続く石垣には、ゴッホが描いた絵画を投影。二の丸にはモネの「水の池」と「花の庭」を再現し、三の丸へ向かう途中のイチョウ並木には、ルノワールの描く花を表現。三の丸では、富太郎が愛した花々の植物図が高知城に根を張る木々へ流れ込んでいく様子を、天守には花や植物たちの持つ生命力をダイナミックな音と映像で描写した。

「ゴッホの通い路」と命名された二の丸階段(イメージ) 画像提供:株式会社シンユニティ

実物と映像がシンクロ


 これらの映像手法は「プロジェクションマッピング」と称される。映画のように映像をスクリーンなどの平面に投映するのではなく、建築や家具などの立体物に投映する技術だ。実物(リアル)と映像(バーチャル)をシンクロさせることにより、あたかも対象物が動いたり、変形したり、光を放っているかのように感じさせることができる。
 既存の建築物など投映対象に手を加える必要がないため、歴史的建造物などの演出にうってつけで、2012年9月にJR東京駅丸の内駅舎で行われたイベントで注目され、姫路城や小田原城などのイルミネーションで人気が高まった。

 今回の高知城でのイベントでは、プロジェクションマッピングからさらに一歩踏み込み、参加型コンテンツとして来城者に特別体験を提供。スマートフォンに専用アプリをダウンロードし、城内8カ所にあるスポットで富太郎博士が愛した花のイラストを採集すると、三の丸に設置したスクリーンで自分だけの「植物図鑑」を楽しめる、といった趣向を凝らした。

国宝・松本城をレーザーマッピングで演出


 デジタル映像は日進月歩で進化している。プロジェクションマッピングに続く映像技術として近年注目されているのが「レーザーマッピング」だ。その最新技術を用いて昨年12月~今年2月、長野県松本市のシンボル、国宝・松本城で『松本城~氷晶きらめく水鏡~』が開催された。



 松本城は、戦国時代の永正年間(1504~21年)に造られた深志(ふかし)城が始まりとされる。5重6階の天守が現存している日本最古の城で、城壁の上部は白漆喰、下部の下見板は黒漆喰で塗られているのが特徴。白と黒のコントラストがアルプスの山々に映え、見事な景観を生み出しているが、「光」と「音」で夜も幻想的に魅せようという試みだ。


堀に映る光や周辺植栽へのライトアップと共に、幻想的な世界をつくり出す松本城のレーザーマッピング 画像提供:Tokyo Lighting Design合同会社


 一般的にレーザーによる演出といえば、ライブなどで見る「光の線」のイメージが強い。これに対してレーザーマッピングでは、レーザーで打たれた先の「点」を見せる。つまり、対象物をスクリーンとして映像を「面」で表現するプロジェクションマッピングに対し、レーザーマッピングは「点」が移動した残像の「線」で表現する。
 そのメリットは明るさであり、さらにプロジェクションマッピングやライティング、スモークなどと組み合わることで、表現の幅が広がる。
 2021-22シーズンに初開催された同イベントは今回、光の演出が3種類増えて全10種類となり、「クリマス演出」「お正月演出」「バレンタイン演出」など季節イベントに合わせた期間限定の演出で観光客を魅了した。

会津若松・鶴ヶ城の「デジタルアートミュージアム」


 プロジェクションマッピング、レーザーマッピングなどデジタル技術を駆使した「城アート」は、天守の演出だけにとどまらない。
 昨年10月1日、福島県会津若松市の鶴ヶ城(若松城)内に体験型アートミュージアム「鶴ヶ城 光の歴史絵巻 Directed by NAKED」がオープンした。



 鶴ヶ城は、南北朝時代の1384年に葦名直盛(あしな・なおもり)が築いた東黒川館を起源とし、1593年に戦国武将・蒲生氏郷(がもう・うじさと)が東日本初の本格的な天守を建てて鶴ヶ城と命名。戊辰戦争(1868年)で新政府軍の猛攻に耐えたことから「難攻不落の名城」として知られる。1965年に再建された5層の天守は2011年、屋根瓦が幕末当時の赤瓦にふき替えられた。
 その天守が長命化工事により昨年10月から今年3月末まで登閣不可となったため、天守に代わる新たな見どころとして誕生したのが同ミュージアムだ。
 本丸に通じる正面玄関・鉄門(くろがねもん)、南走長屋(みなみはしりながや)、干飯櫓(ほしいやぐら)の内部を、それぞれ「歴代領主の軌跡ゾーン」「会津戦争・⽩⻁隊ゾーン」「鶴ヶ城の歴史ゾーン」として整備。干飯櫓ではプロジェクションマッピングの映像が壁一面に映し出され、鶴ヶ城が紡いできた歴史を体感できる。南走長屋では人が訪れるとセンサーが反応し、白虎隊に関する6種の映像がランダムに流れる仕組みとなっている。
 こうして天守に入場できない時でも、観光客は鶴ヶ城の魅力を満喫することができる。

食料の貯蔵庫として使われていた干飯櫓内の壁面を使ったプロジェクションマッピングショー 画像提供:株式会社ネイキッド

「城泊」「分散型ホテルの中核としての城郭」、そして「城アート」と3回にわたって、ウィズコロナの観光コンテンツとしての城の魅力を紹介してきた。現在、一般的に見学できる城は全国に200ほどあるという。観光ニッポン復活の原動力となる新たなコンテンツの登場に期待したい。

天野久樹(あまの・ひさき):1961年生まれ。早大卒。全国紙記者、旅行雑誌編集部などでの経験を生かし、ルポライター、翻訳家を務める。著書に『浜松オートバイ物語』(郷土出版社)、訳書に『アイルトン・セナ 確信犯』(三栄書房)

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記事提供元:タビリス