観光を起爆剤に誇れるわが街に 旅の目的地に到着、その先の移動手段、二次交通は 渡部晶(財務省勤務)

ジョルダンニュース編集部

 この夏に放映された、俳優・六角精児が「酒」と「鉄道」というユニークな視点で旅するNHKBSプレミアムの「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」第31弾は、「全線運転再開記念 只見線を呑む!」(初回放送日: 2023年7月29日)であった。11年ぶりに全線で運転再開した、六角精児が愛するJR只見線を3日間で乗りつくす89分スペシャル。壇蜜さんの語りとともに、思い入れがあり、プライベートでも何度も乗ったという六角精児だけあって、父の郷里がある筆者からしても只見線の魅力をよくみせてくれていたと思う。
 只見線は、2011年7月の新潟・福島豪雨で被災し、只見川に架かる3つの橋梁が流失したほか、土砂崩れで線路が崩壊した。このため、福島県内の会津川口駅―只見駅区間が長らく不通となっていた。福島県、沿線自治体、JR東日本が協議を重ね、観光利用を重視する地元側が線路など鉄道施設の維持管理を担う上下分離方式を導入するという重い決断を行った。沿線自治体をまとめた同県の強いリーダーシップの発揮が注目に値するが、沿線自治体も将来にわたり、重い負担を担うこととなった(注1)。

春夏秋冬、風光明媚なことで知られる只見線

過疎化が進む地域で旅行者の足の便をどうする


 この全線運転再開でも指摘されているのが、「二次交通」の課題である。「二次交通」とは、「拠点となる空港や鉄道の駅から観光地までの交通のこと」である。「地域の観光地は、過疎化により鉄道やバスの便が悪いため、観光を振興させるには、自治体や民間企業が協力し観光地までのシャトルバスや乗り合いタクシーを運行し、レンタル自転車を整備するなど、旅行者の利便性を高める努力が必要となっている」と指摘される(注2)。只見線においても、会津若松から新潟県小出までの往復運行は1日3回という中で、二次交通のあり方が極めて重要だ。福島県や沿線自治体も力を入れている(注3)。最初に紹介した六角精児も、只見線の運行間隔のあく時間を利用して、タクシーを使って目的の場所に向かっていた。
 筆者は、2014年5月から郷里の福島県いわき市の「応援大使」に任ぜられており、2019年2月5日開催の『平成30年度「いわき応援大使」情報交換会』において、大倉由紀枝・国立音楽大学特任教授と筆者の2名がプレゼンテーションを行った(注4)。その際にふれたことの1つが観光における「二次交通」の重要性である。

観光客の第一印象になるタクシー運転手


 かって沖縄で仕事をし、タクシーを使用した経験を踏まえ、特に「二次交通」でのソフト面の重要性を強調した。観光客が駅や空港を降りて最初に出会うものの1つがタクシーだ。利用客と運転手の距離が近いため、そこに住む人や街の第 一印象を決める象徴とも指摘される。いわゆる「おもてなしの心」の重要性がここにあらわれる。一般に沖縄のタクシー運転手はこの点に長けていると感じた。各地のタクシー事業者でも様々な取組みがなされつつある。

旅の印象が大きく左右するタクシー

 観光客が不安を抱かないように、ドライバーの運転技術が高いことは当然だが、あいさつにはじまり、行き先などについて十分応答がなされたか、観光に関する有益な情報が得られたかなど、コミュニケーションに関するサービス・能力を高めることが求められている。ハード面の整備は重要だが、人手不足を理由に、こちらを忘れるようではせっかくの観光振興の努力も台無しになりかねないことに留意すべきだろう。
(本稿は個人的見解である)

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省財務総合政策研究所長。いわき応援大使。学習院大学法学部政治学科非常勤講師(2023年度前期)。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中

(注1)詳細は、鉄道協議会日誌『【JR東日本】只見線はなぜ復旧できたのか?沿線自治体の活動を振り返る』を参照のこと。
 https://tetsudokyogikai.net/jr/tadami
(注2)JTB総合研究所「観光用語集」の「二次交通」より
 https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/
(注3)只見線ポータルサイト
 https://tadami-line.jp/
 2023年8月17日付おしらせ「只見線観光には2次交通も併せてご利用ください!~ 只見線・バス・車で奥会津を周遊 ~」(福島県)を参照のこと。
(注4)平成30年度「いわき応援大使」情報交換会 いわき応援大使活動報告
 https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11616388/www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1001000003628/simple/ouentaishi_katsudou.pdf
記事提供元:タビリス