SHIFT丹下社長「機関投資家参入には500億円必要」東証・岩永社長「グロース市場は成長企業の市場」 時価総額の上場基準厳格化
2025/12/17 16:37 ジョルダンニュース編集部

三菱UFJ銀行は12月16、17日、スタートアップ支援のためのイベント「MUFG Startup Summit 2025」を開催した。オープニングセッション「グロース市場改革~グロース市場を勝ち抜いていくための企業像~」で、東京証券取引所の岩永典行社長は、グロース市場の上場維持基準を「上場後5年で時価総額100億円以上」へと厳格化する方針をあらためて説明した。SHIFTの丹下大社長は自社の急成長の経験から、機関投資家を呼び込むための具体的な時価総額の分岐点や、投資家との向き合い方について語った。

冒頭、岩永氏はグロース市場の現状について危機感を示した。上場後の時価総額がIPO(新規株式公開)時を下回る企業が約45%に達し、時価総額100億円以下の企業が7割を占めているとのデータを提示。「機関投資家からは、投資対象として最低でも100億円、できれば300億円の規模が必要との声が多い」とし、現状では個人投資家中心の市場に留まっていると指摘した。
この課題を解決するため、東証は上場維持基準(廃止基準)の見直しを行う。従来「上場後10年で40億円以上」としていた基準を、2030年適用分から「上場後5年で100億円」へと引き上げる。岩永氏は「過去の実績を見ても、100億円を超えて成長した企業の9割超が5年以内に到達している。成長を目指す企業にとって無理な期間ではない」と説明した。
また、岩永氏はグロース市場の位置づけについて、プライム市場への通過点ではなく、米ナスダックのように高い成長性が評価される市場への転換を目指すと明言した。「プライムが成熟企業の市場なら、グロースはPER(株価収益率)が高くても許容される成長市場であり続けたい。大きく成長した後もグロースに留まり続けていただけるようなインセンティブを設計していく」と話した。
岩永氏は最後に、グロース市場の上場維持基準未達の場合でもスタンダード市場への移行を認めるなどの経過措置に触れ、「東証は規制の権化ではない。企業価値向上に向けて、一緒になって汗をかいていきたい」と結んだ。

一方、2014年のマザーズ上場以降、時価総額を大幅に拡大させてきたSHIFTの丹下氏は、実体験に基づいた「時価総額の壁」について言及した。丹下氏は「時価総額500億円を超えないと、機関投資家の投資対象として話にならない」と断言する。
同氏の分析によると、時価総額が500億円を超えると市場の「ホットトピックス」に入り、機械的に買いを入れる投資家層が現れる。さらに1000億円を超えると、本格的なデューデリジェンス(資産査定)を行う大手の長期投資家が参入してくるという。
株価形成のメカニズムについて、丹下氏は「出来高を作るのはヘッジファンドと大手機関投資家の『殴り合い』だ」と独自の表現で解説した。「IR(投資家向け広報)をしても8割の人は信じてくれない。信じないヘッジファンドが売り買いをして流動性を作り、本当に信じてくれる2割の長期投資家が株価を支える。この両輪が必要だ」

また、上場後の成長戦略については「上場は『一発芸』ではない」と指摘。祖業単体ではなく、M&Aや新規事業を組み合わせ、複合的に利益を積み上げるビジネスモデルへの転換が不可欠だと語った。その上で、厳しい市場の評価に晒される上場企業の環境について「経営に対する通信簿のようにコメントをくれる。この規律の中で稼ぐ力をつけることが好きだ」と前向きに締めくくった。
セッションには、三菱UFJ信託銀行株式会社の染谷知・常務執行役員 受託財産副部門長 アセットマネジメント事業長、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社の高橋照典・投資銀行本部 スタートアップ・アクセラレーション部長も登壇し、未上場段階からの資本政策支援や、上場後の企業との対話の重要性を訴えた。









