王貞治氏も株主 蓄電池スタートアップのパワーエックス、東証グロース市場に上場 CEOは連続起業家の伊藤正裕氏
2025/12/23 13:27 ジョルダンニュース編集部

蓄電池スタートアップのパワーエックス(PowerX、東京・港)が12月19日、東京証券取引所グロース市場への上場に伴い、記者会見を行った。伊藤正裕社長兼CEO(最高経営責任者)は、国内生産による「経済安全保障」と「長期保守」を武器に、2040年までに300GWh(ギガワット時)規模へと拡大が見込まれる国内蓄電池市場でリーディングポジションを狙う意欲を示した。伊藤氏はシリアルアントレプレナー(連続起業家)として知られ、株主にはプロ野球のレジェンドである王貞治氏も名を連ねる。著名スタートアップはどのような成長戦略を描くのか。

伊藤CEOは会見の冒頭、同社の存在意義について「日本のエネルギー自給率向上に貢献したいと思って作った会社だ」と強調した。
岡山県玉野市に生産拠点を構えるパワーエックスは、2021年創業の蓄電池メーカーだ。大型の系統用蓄電システム「Mega Power」シリーズを主力とし、設立からわずか約4年半で累計受注残高は624億円に達している。
現在、国内の大型蓄電池市場は中国製や米国製のシステムが浸透しているが、伊藤氏は「重要インフラに導入するという観点からは、やはり国産で制御が安定しており、20年間にわたってメンテナンスが日本で完結することが(顧客の)決め手になっている」と、外資メーカーに対する優位性を語った。
背景にあるのは、再生可能エネルギーの導入拡大に伴う「出力抑制」の課題だ。太陽光や原発の電力が余った際に蓄電し、不足時に放電する「蓄電所」の需要は急速に高まっている。伊藤氏は「電池は(電気の)色を選ばない。原発でも火力でも太陽光でも、余った電気を貯めて後で使うのが目的だ」と述べ、今後15年で累計10兆円規模に成長すると予測される市場に対し、積極的な攻勢をかける姿勢を示した。
財務面では、2025年12月期の売上高(見通し)を189億円(前期は61億円)と発表。先行投資による赤字が続く中での上場となるが、藤田利之執行役は「ベース収益と呼べる受注残が非常に溜まってきており、収益化の蓋然性が高いフェーズに入った」と説明する。

上場の狙いについて、伊藤氏は資金調達以上に「信用力」の向上を挙げた。「弊社のお客様は大手企業ばかり。スタートアップに対し、数十億円単位のインフラを発注してもらうには信用が必要だ。『長期的にインフラを作る』というコミットメントを示すためにIPOを選んだ」と、上場企業としての社会的責任を強調した。
質疑応答では、原材料である電池セルを中国から調達していることへの「チャイナリスク」についても質問が及んだ。伊藤氏は、現在採用しているLFP(リン酸鉄リチウム)電池はコモディティ化しており、米中間の輸出規制対象からも外れていると説明。その上で、「サプライチェーンの多重化は一生懸命やっており、1年以内に東南アジアからの供給も開始する。国内産のセル利用についても前向きに検討している」と明かした。
また、同社が掲げる野心的なプロジェクト「電気運搬船(パワー・アーク)」については、運搬船に先駆けて「電気運搬バージ(はしけ)」の製造が最終段階にあると言及。屋久島の余剰水力電力を種子島へ運ぶ構想を紹介し、「離島と蓄電池の相性は極めて良い。エネルギーの安定供給に貢献できる」と展望を語った。

19日の株価は、9時10分につけた初値こそ、公開価格(1220円)を90円下回る1130円だったが、終値は制限値幅の上限(ストップ高水準)となる初値比300円高の1430円だった。
伊藤CEOは、「投資家が判断すること」と前置きしつつも、「電力やエネルギーは奥が深く、評価しづらい部分もある。トップライン(売上高)ばかり追うのではなく、健全な成長企業を目指し、IRやコミュニケーションを強化していきたい」と結んだ。
伊藤CEOは2000年、ITベンチャーのヤッパを創業。2014年M&AによりZOZOに入り、ZOZOテクノロジーズの代表取締役CEOを経て、2019年ZOZOの取締役兼COOに就任し、「ZOZOSUIT」、「ZOZOMAT」、「ZOZOGLASS」など数多くの新規プロダクトの開発を担当し、イノベーションを牽引した。2021年3月にパワーエックスを設立した。









