家という「OS」をアップデートせよ――住宅×テクノロジーで実現する「幸福度」の最大化

ジョルダンニュース編集部

学生起業家としての成功と挫折、ソニーでのハードウェアとサービスの融合、そして楽天でのグローバルビジネスへの挑戦。数奇なキャリアの「点」は、シリコンバレーという地で一本の「線」へと繋がった。2016年、楽天を退社した本間毅氏は、自身の集大成となるスタートアップ「HOMMA」を創業する。なぜ彼は50代を前にして再び起業という険しい道を選んだのか。そして、なぜ「住宅」をテーマとしたのか。インタビュー後半(下)では、HOMMAが目指す「ビルトイン・スマートホーム」の革新性、日本・韓国への市場拡大戦略、そしてAI時代における「人間の幸福」についての本間氏の哲学に迫る。

HOMMA Groupの創業者、本間毅氏

■すべての点が繋がる時――なぜ「住宅」だったのか

――2016年に「HOMMA」を創業されます。なぜ、再び起業を選び、そのテーマに「住宅」を選んだのでしょうか。

本間:2014年頃、昔からの知り合いで、オプト社長・会長を歴任された海老根智仁さんが、たまたまシリコンバレーにやって来られました。お茶したのですが、その時に「何か役に立てることはありますか?」と聞かれたので、思わず温めていた住宅のイノベーションのアイディアを伝えたところ、その場で「それ面白いからやりましょう」と言われました。これが今思えばHOMMAの誕生の瞬間でした。海老根さんには初期のエンジェル投資だけでなく最近までずっと社外取締役として成長を見守っていただきました。

「コネクティング・ザ・ドッツ」でもありました。私のDNAには祖父たちから受け継いだ建築への想いがありました。そしてアメリカに来て英語を話し、テクノロジーの最前線に身を置くようになりました。

2018年、経営者として影響を受けた母方の祖父と

シリコンバレーを見渡すと、電話はスマホ(iPhone)になり、車はテスラのような自動運転車へと進化していました。しかし、「家」はどうでしょうか。ほぼ100年の間、何も本質的な変化が起きていないのです。人間は人生の時間の約4割を家の中で過ごすと言われています。スマホをいじっている時間や車に乗っている時間よりもはるかに長い。ここを変えたら、人の生活は未来そのものになるはずだと確信しました。

また、日本の住宅産業は、工場で部材を作って現場で組み立てる「プレハブ工法」など、世界的に見ても非常に先進的で工業化が進んでいます。一方、アメリカの家づくりはいまだに現場で木を切って組み立てる、非常に時間のかかるプロセスです。この「日本の住宅技術」と「シリコンバレーのテクノロジー」を組み合わせているスタートアップは存在しませんでした。自分のバックグラウンドと経験、そしてDNAがすべて繋がった瞬間でした。

――社名を「HOMMA」とした理由は?

本間: 起業する時、ランニングをしながら考えたのですが、私の名前「HOMMA」は「HOME」とスペルが似ているなと(笑)。また、トヨタやホンダのように、創業者の名前を社名にする覚悟を持ってもいいんじゃないかと思い、「HOMMA」と名付けました。

■HOMMAが提供する「ビルトイン・インテリジェンス」

――HOMMAの具体的な事業内容について教えてください。既存のスマートホームとは何が違うのでしょうか。

本間: 私たちが提供しているのは、住宅向けの「ビルトイン・システム」の開発と提供です。マンションデベロッパーやビルダーに対し、物件の価値を高めるための統合システムを提供しています。具体的には「ビルトイン・インテリジェンス」と呼んでいますが、家中の天井面にセンサーを張り巡らせ、すべてのエリアをカバーします。そして家の中に「エッジコンピューター」という頭脳を置き、センサーを神経系統として機能させます。

既存のスマートホームの多くは、後付けのデバイスをAlexaやスマホアプリでいちいち操作する必要があります。しかし、私たちは「操作を必要としない」体験を目指しています。

例えば照明です。「サーカディアンライティング(概日リズム照明)」という技術を使い、時間帯に応じて光の色や明るさが自動で変化します。昼間はオフィスのように集中できる白い光、夕方はダイニングバーのような光、夜はリラックスできる温かい光へと、何も操作しなくても家が勝手に調整してくれます。

――スイッチやアプリを触らなくていい、ということですか。

本間: そうです。人間は1日に約300回も照明のスイッチを操作していると言われますが、それが一切不要になります。外出すれば、全ての照明は消えます。センサーが人の気配の有無を感知して自動制御します。また、このセンサー網は見守り機能も果たします。例えば、高齢者が住む家で「2日間動きがない」といった異常を検知すれば、緊急連絡先に通知が飛びます。カメラではなくセンサーなのでプライバシーも守られます。

私たちは、配線だらけの古いシステムではなく、無線技術を活用してコストパフォーマンスが高く、かつハイエンド物件に相応しいクオリティのシステムを構築しています。これにより、物件の家賃価値を6%から10%向上させる実績が出ています。

■日本・韓国への逆上陸と今後の展望

――当初はアメリカ市場を中心に活動されていましたが、現在は日本や韓国にも進出していますね。

本間: もともとは、新しいテックトレンドの発信地であるアメリカで成功モデルを作り、それを世界に展開する計画でした。しかし、昨今の米国の金利上昇により不動産開発市場が冷え込んでしまったため、予定を前倒しして1年半前から日本市場へ本格参入しました。

日本では、長谷工コーポレーション様のマンション「サステナブランシェ」シリーズなどで既に導入が進んでいます。

さらに、韓国からも引き合いがあり、ジョイントベンチャーを設立しました。韓国は住宅の8割が集合住宅(マンション)で、ソウル都心部ではスマートロックの普及率が9割を超えるなど、新しいテクノロジーへの適応が非常に早い市場です。

――資金調達や組織体制についてはいかがですか。

本間: これまでに累計で約43億円を調達しました。投資家には、B Dash Ventures、D4V、孫泰蔵さんのMistletoe、East VenturesなどのVCに加え、コクヨ、ドコモ・ベンチャーズ、DCMなどの事業会社も名を連ねています。また、私の地元・山陰の山陰合同銀行(ごうぎんキャピタル)からも出資いただいており、祖父たちが「銀行に入れ」と言っていた銀行から投資を受けるという不思議な縁も感じています。

組織としては現在15名ほどの精鋭チームです。エンジニア、プロダクトマネージャー、建築家、営業など、多様なバックグラウンドを持つメンバーが日米に分かれて活動しています。

■AI時代における「幸福」と次世代へのメッセージ

――最後に、本間さんの哲学と、次世代の起業家へのメッセージをお願いします。

本間: AIの進化により、生産性は爆発的に向上していますが、「幸福度」が同じように向上しているかというと疑問です。多くの人は時間の価値を「量(タイパ・時短)」で測っていますが、幸福度を高めるには「時間の質」を高めなければなりません。私たちの事業が「家時間の質を高める」ことを掲げているのはそのためです。AIにできることはAIに任せ、人間は「質の高い時間」をどう作るかに頭を使うべきです。

今の時代、AIを使えば人を大量に集めなくても事業を回せるようになりました。考え抜けばあらゆるチャンスがある、本当に良い時代になったと思います。私がインターネットに出会った頃のようなワクワク感が、今の世界には溢れています。物理的な現実空間(フィジカル)とテクノロジーを融合させ、人間の可能性を広げ、幸福にする。そんな事業に挑戦する若い起業家がもっと増えてほしいですし、私自身も「地方出身で英語もネイティブではない自分でもできたのだから、あなたにもできる」ということを証明し続けたいと思っています。

若者の支援にも取り組む。2016年、鳥取県とスタンフォード大学がオンライン教育プログラムで協定を結んだときの発足式にて

――本間さんご自身の趣味や、エネルギーの源は?

本間: かつてはランニングにのめり込み、8年前にはフルマラソンでサブ3(3時間切り)を達成しました。最近は少し走れなくなってしまいましたが、また再開しています。趣味は幅広くて、ガジェット、オーディオ、カメラ、料理、旅行など多岐にわたります。

2018年、California International Marathonでは、3時間を切る2時間54分でゴールした

子どもたちもアメリカで成長し、長男はスタンフォード大学医学部で研究、長女はハーバード大学、次男もスタンフォード大学、下の高校生・中学生の子たちは音楽の才能を発揮して全米レベルで活躍しています。これは全て妻のおかげですが(笑)、家族の存在も大きな支えです。

これからも、人の生活に寄り添い、未来の暮らしを「当たり前」にしていくために、地道に挑戦を続けていきたいと思います。

記事提供元:タビリス