早大、インパクト投資ファンド設立へ 文理融合「ディープヒューマニティ」で社会課題解決
2026/3/2 14:57 ジョルダンニュース編集部

早稲田大学は2月25日、社会問題の解決と財務的リターン(利益)を同時に追求するインパクト投資に特化した新ファンドの設立に向け、「早稲田大学インパクトキャピタル株式会社(WIC)」を新設したと発表した。人文社会科学の知見と先端テクノロジーを掛け合わせた「ディープヒューマニティ」という新たな概念を掲げ、人々の幸福(ウェルビーイング)に直結するスタートアップを支援する。技術革新が必ずしも豊かさや幸福に結びついていない現代において、大学が持つ「文理の総合知」を成長資金(リスクマネー)と結びつける今回の取り組みは、日本における人間中心のイノベーション創出に向けた新たなモデルケースとなる意義を持つ。
早大は2022年に「早稲田大学ベンチャーズ(WUV)」を立ち上げ、理工系の研究成果を起点とするディープテック領域への投資を先行して進めてきた。今回設立したWICは、それに次ぐ同大のエコシステム(生態系)の新たな柱となる。

記者会見に登壇した早大の田中愛治総長は、大学のビジョンについて「世界人類に貢献する大学になる」と強調。その上で、新領域へ投資を広げる背景について「技術の進化だけでは人々の幸福度が上がらない」と現代社会への危機感をにじませた。「人文社会科学の知見と理工系の技術を融合させた総合知によって、人間性のイノベーションを起こしたい」と語り、心理学や政治学、経済学などの文系の知を社会実装していく重要性を訴えた。
新ファンドの運用を担うWICの大野聡子社長(代表取締役・ジェネラル・パートナー)は、具体的な投資方針について、起業家の内発的な動機を最も重視する姿勢を鮮明にした。「技術ありきではなく、『この問題を解決したい』という経営者の社会課題解決への強い意志が起点となる」と述べ、社会を変革しようとする起業家の熱意に伴走する決意を示した。

WICは投資を通じて実現する「社会的幸福」の要素として、「選択の自由」「貢献機会の公正」「共感とリスペクト」「心の健康(メンタルウェルネス)」の4つを定義している。具体的な投資先としては、発達障害者の就学・就労支援、シニア層の終末期支援、ジェンダーギャップの解消に向けたソリューションを提供する企業などを想定している。
新ファンドの規模は既存のWUV(約84億円)と同水準を目指し、運用期間は一般的なベンチャーキャピタル(VC)と同様の10年を基本として設計される見通しだ。早大はファンド設立と並行して、今年4月から全学の学生が学べる副専攻として「アントレプレナーシップ(起業家精神)専攻」を新設する。大学内での起業家教育からVCによる資金供給まで、一気通貫のスタートアップ支援体制を構築する。

これまで国内の大学発ベンチャー支援は、その多くが理系分野の技術(シーズ)の事業化に偏重してきた。早大が主導する今回のファンド設立は、数値化しにくい「人間の幸福」や「社会のつながり」といった文系領域の課題に対し、資本主義のメカニズムを活用して持続可能な解決を図る野心的な挑戦だ。利益至上主義から社会的価値の創出へと経済の潮流が変化するなか、学術機関が旗振り役となり、孤立や分断といった現代の構造的な社会課題に対して民間資金を振り向ける意義は経済社会において極めて大きい。










