山口県発スタートアップ、東京をハブに世界へ 村岡知事と山口県出身の宮坂学・東京都副知事、対談で一致

ジョルダンニュース編集部

山口県は3月15日、東京都のスタートアップ支援拠点「東京イノベーションベース(TIB)」で、県内発のスタートアップ企業8社が登壇するピッチイベントを開催した。豊富な産業集積と産業人材を誇る同県だが、スタートアップの次なる飛躍に向けては外部とのネットワーク構築が不可欠となっている。村岡嗣政知事と、山口県防府市出身である東京都の宮坂学副知事による対談からは、地方発スタートアップが東京をハブとしてグローバルを目指すための具体的な戦略と、社会全体の意識改革の重要性が浮き彫りになった。

村岡嗣政・山口県知事と、山口県防府市出身である東京都の宮坂学副知事がスタートアップをテーマに対談した

■隠れた「ものづくり県」のポテンシャルと脱・控えめ

山口県は全国有数の「ものづくり県」としての強固な基盤を持つ。大正時代から工業用水の整備を進め、現在も給水量は日本一を誇る。瀬戸内海沿岸にはコンビナートが集積し、製造業の労働生産性は全国トップクラスだ。さらに、地震などの災害が少なく企業の立地が進んでいるほか、工業高校や高専で学ぶ生徒の割合が高く、産業人材の層も厚い。

しかし、そのポテンシャルは十分に認知されていない。村岡知事は「山口県の人は非常に控えめで、優れている環境をあまり言わない」と指摘する。良いものを作ればいいという職人気質がある一方で、発信力に課題があった。村岡知事は「挑戦者がしっかり伸びていくためには、県内だけで完結させるのは難しく、広くつながって多様な関係を作っていくフェーズに入った」と述べ、外部リソースとの結びつきにより飛躍的な成長を目指す姿勢を強調した。

■東京をハブとした「多様なネットワーク」の構築

東京都側も、地方のスタートアップ・エコシステムとの連携を強く推進している。宮坂副知事はTIBの役割について、「たまたまイノベーションの拠点が東京にあるだけで、東京都のためだけにやっているのではない」と説明し、全国の自治体や世界と繋がる場としての意義を語った。

地方のスタートアップが成長するためのカギとして、宮坂副知事は「ネットワークの価値は繋がりの数ではなく、多様性にある」と指摘する。県内だけの繋がりだけでなく、東京、そして世界との繋がりを持つことが重要視される。「山口県が『東京』という住所を使って世界の人とつながる世界を作ってほしい」と述べ、東京を接点としたグローバル展開に強いエールを送った。

東京都の宮坂学副知事は、「山口県が『東京』という住所を使って世界の人とつながる世界を作ってほしい」と述べた

■「成長と共創」を加速する4つの具体策

山口県のスタートアップ支援は、起業家育成の段階から、スケールと共創を中核とするフェーズへと移行しつつある。新年度に向けては、「伸ばす」「開く」「繋ぐ」「実装する」の4つの方向性で支援を強化する構えだ。

特に注力するのが、脱炭素社会に向けた「GX(グリーントランスフォーメーション)」分野への集中支援である。村岡知事は、政府が指定を予定する「GX戦略特区」も見据え、「環境型のスタートアップやコンビナート企業などが組んで、いろんなトライアルをしていく環境を作っていく」と意気込む。また、企業や自治体が抱える課題を公開して解決策を募る「リバースピッチ」や、外部の知見を呼び込む「エコシステムアンバサダー」の創設などを通じて、産業界とスタートアップの共創を本格化させる計画だ。

村岡嗣政・山口県知事は、GX分野への集中支援などを検討しているという

■「大人が背中を見せるアントレプレナーシップ」

両自治体ともに若年層への起業家教育に注力しており、社会課題の解決に強い意欲を持つ若者が育ちつつある。しかし、社会全体を変革するには、大人世代の意識改革こそが急務である。

宮坂副知事は、「最大の教育効果があるのは、大人がアントレプレナーになることだ」と断言する。「守りに入らず、大人が腕まくりして『何か変えてやるんだ』と行動することが最大の(若者への)教育になる」と呼びかけ、若者に挑戦を促す前に、まずは行政や既存企業の経営者を含めた大人社会全体が、当事者として挑戦していくことの重要性を熱く訴えた。

東京イノベーションベース(TIB)で開催されたピッチイベントには、山口県発の多彩なスタートアップ8社が登壇した。

特筆すべきは、登壇企業の半数以上が山口大学発のベンチャーや、同大学の研究室・特許技術などをルーツに持つ企業である点だ。大学の知見を社会実装する最先端のディープテック(創薬、土木解析、衛星データ、次世代エネルギー)をはじめ、地方の医療や介護課題の解決に挑むヘルスケア領域、さらには廃棄物アートや音楽テックといったエンターテインメント領域まで、幅広いジャンルの顔ぶれが揃っている。

いずれも独自の技術やアイデアを武器に、深刻な社会課題の解決やグローバル展開を目指しており、山口県が持つ「ものづくり」の伝統と、強力な「アカデミア(大学の研究基盤)」のポテンシャルを力強く体現する企業群だった。

株式会社ADDVEMO世界初の高性能ヒト脳血管モデルの大量生産技術を活用。製薬会社の脳創薬スクリーニング補助や専門解析を行い、世界中の脳創薬開発のスピードを加速させることを目標としています。
ジニーズランプ株式会社山口大学発ベンチャー。看護師と患者をつなぐマッチングアプリ「らんぷのナースさん」を開発し、通院同行や冠婚葬祭などの保険外看護サービスを提供。潜在ナースの新しい働き方の創出も目指しています。
ドボクリエイト株式会社山口大学トンネル研究室をルーツに持つ企業。数値解析(物理シミュレーション)技術を用いて土木現場の課題を可視化・予測し、設計から維持管理までのDXソリューションを提供します。
株式会社New Space Intelligence山口大学発スタートアップ。仕様が異なる複数の衛星データを統合する世界唯一の技術を持ち、インフラ監視や災害対応、森林・海洋監視などに向けた高精度なデータサービスを提供しています。
株式会社Blue Water Energy山口大学の特許技術を活用するディープテック企業。**海水と淡水の塩分濃度差を利用した新しい再生可能エネルギー「濃度差発電(RED)」**により、安定供給・省スペース・環境負荷軽減を実現する分散自立電源の社会実装を目指します。
株式会社Baby Jam音楽テック企業。インディーズアーティストのプロモーションやデータ分析などを統合的に支援する、デジタルマネジメントアプリ「NORDER」を開発・運営しています。
株式会社メディモニー山口大学との共同研究を基盤とし、地方医療の課題解決に取り組む企業。オンライン診療システム「WawaTalk」を搭載したタブレットや、AIを活用した医療支援製品を開発しています。
記事提供元:タビリス