キャディ、製造業AIデータ基盤を開発 開発スピードを「10倍加速」

ジョルダンニュース編集部

製造業向けデータプラットフォームを提供するスタートアップのキャディ(東京・台東、加藤勇志郎代表取締役CEO)は8月6日、次世代版となる「製造業AIデータプラットフォームCADDi」を発表した。社内に分散する図面や会計などの多様なデータをAI(人工知能)で垂直統合し、自律的な分析や探索を可能にする。独自の「データ・セマンティクス基盤」を中核に、設計から調達、製造、保全に至るバリューチェーン全体のデータを意味付けして関連付けることで、モノづくりの開発スピードを「10倍加速する」というビジョンの実現を目指す。

キャディの加藤勇志郎CEO

▪モノづくりの「失われた30年」、打破目指す

AIの急速な進化で知的イノベーションが指数関数的に進む一方、現実の物理世界に落とし込むモノづくりのスピードは、この30年間ほぼ変化していない。新型モビリティやプラントの立ち上げには数年から10年の歳月を要する。この知的創出と物理実装(マテリアライゼーション)の乖離について、キャディの加藤勇志郎CEOは「世界にはまだ、解かれていない物的限界がたくさんある」と指摘する。

2017年創業のキャディは、特注加工部品の受発注プラットフォームから始動した。その裏側で自社内製してきたソフトウェアを顧客へ提供する形で、22年6月に図面活用クラウド「CADDi Drawer」を提供開始。現在は日経225構成企業の製造業の過半数、世界22カ国に導入され、累計資金調達額は257億円に上る。24年に受発注事業を統合し、開発期間を劇的に短縮する「次世代の産業OS」の構築へ舵を切った。

同社が掲げる「物的イノベーションの10倍加速」は、「個別業務の高速化」「手戻りの削減」「工程の並列化」という3つの掛け算によって実現する。製造業の企画から量産立ち上げまでは約118工程に及び、従来は直列の「バトンパス方式」で進むため、後工程で品質や原価のリスクが発覚する「手戻り」が発生していた。この工程を、人間とAIが同一の文脈(コンテキスト)を共有することで並列化し、構想設計の段階から調達・製造のリスクを予測して手戻りを撲滅する。

▪ベテランの暗黙知を可視化する「データの地図」

この壮大な変革を支える技術基盤として、キャディはプラットフォームを「データ基盤」「セマンティクス」「横断プロダクト」「業務特化プロダクト」の4つの層で構成し、設計した。

第1層の「データ基盤」は、ファイルサーバー、ERP(統合基幹業務システム)、図面など、散在するあらゆるデータを自動で吸い上げて解析・構造化する。技術の核心は第2層の「セマンティクス(セマンティックレイヤー)」である。これは一言で言えば、製造業データの「地図」だ。ベテラン社員が脳内に持つ「どの図面がどの部品に関連し、どのサプライヤーが最適か」といった暗黙知を構造化・言語化し、組織共通の地図として提供する。

製造業特有の3つの難しさ(やり直しの効かない「Undo」の不在、多専門のバリューチェーン、信頼関係と暗黙知)を克服するため現場の実用に特化。立場ごとに異なるデータの「見え方」を提供し、かつ厳しい権限制御を両立させた。

この「データの地図」を活用するのが、第3層の「横断プロダクト」である。全社データを横断探索しインサイトを引き出す「CADDi Explorer」と、自社の業務文脈と判断基準を学んだ「デジタルな部下」として、部品標準化やコスト削減、品質不具合の波及分析などを自律実行するAIエージェント「CADDi Agent」の2製品を市場に投入した。

▪6つの業務特化プロダクト 判断意図を会社資産へ還流する仕組み

さらに、バリューチェーン全体でデータを生み出し、プラットフォームへと還流させる役割を果たすのが、第4層の「業務特化プロダクト群(6製品)」である。現場の作業を効率化すると同時に、これまでメールや脳内で消えていた「なぜその設計や調達先を選んだのか」という『判断の意図(コンテキスト)』を、日々の実務を通じて自然にデータとして収集する。

キャディが提唱する業務特化プロダクト群(6製品)

各実務で日々生み出される「判断データ」は、セマンティクス基盤へ戻されてデータの地図を厚くし、AIエージェントの推論精度を研ぎ澄ましていく。この「データの還流」こそが、キャディが提唱する「育ち続ける企業基盤」である。

▪既存システムを「リプレイスしない」OS戦略と中堅企業への波及

多くの製造業の経営陣が懸念する「莫大な既存システムへの投資」に対し、キャディは既存システムをリプレイスせず、その「上」に乗る戦略を採用した。加藤CEOは「我々の導入で既存の何かをリプレイスすることはほぼなく、スイッチングコストは発生しない」と言い切る。既存のデータをそのまま「データソース」として扱い、セマンティックレイヤーを被せることで機能させる。

この戦略は、大企業に留まらず、中堅・中小製造業に対しても極めて有効である。日本には特定の技術や部品において世界トップシェアを誇る中堅・中小の「ニッチトップ」企業が多数存在する。加藤CEOは「10兆円企業でこれらを全社導入するにはステップが必要だが、100億円規模の企業であれば、1〜2年で全社をAI駆動の新しいOSへと塗り替えられる。中堅企業を強くすることこそ、日本の産業力の底上げにつながる」と期待を寄せた。

▪23兆円の国家戦略バーティカルAI

マクロ経済の動向、そして国の政策もキャディにとって強力な追い風となっている。2026年7月、日本政府(AI戦略本部)は「AI基本計画」を改定し、特定の産業領域に特化した「バーティカルAI」領域において、2040年度までに官民で累計23.1兆円の集中投資を行うことを決定した。

これまで日本は、工場などの物理空間における「カイゼン」「カンバン」といった徹底した現場の規律により、世界トップクラスの品質を誇る「メイド・イン・ジャパン」のブランドを築いてきた。しかし、その強さは物理世界に最適化されるあまり、デジタル世界においてはデータの不統一やドキュメントの散逸といった「不摂生」をもたらしていた。キャディの新たなデータプラットフォームが果たすべき真の役割は、この物理世界で培った「規律」を、データの世界へも持ち込むことにある。

フォトセッションに対応するキャディの加藤勇志郎CEO(左)ら

官民23兆円を超える国家的な投資機運のなか、キャディの存在感は高まっている。部分改善に留まらず、全社を統合する「産業OS」を確立し、現場での伴走支援まで行うキャディ。彼らの仕掛ける「物的イノベーションの10倍加速」という変革が、失われた日本の製造業の国際競争力を呼び覚まし、次世代の産業覇権を再び日本に手繰り寄せる契機となるか、その動向から目が離せない。

記事提供元:タビリス