連載 令和30年に思いを馳せて 未来を考える③ 思い付きとITが結び付きライフスタイルを変える

ジョルダンニュース編集部

海外からも多くの観光客が訪れるサンフランシスコ

 ITバブルの真っ只中の2000年5月、シリコンバレーに出張中の私は、所用が1日早く済むことになったので、サンフランシスコに一泊しよう、と思い立った。
 ちょうど良い。逆オークションサイトとして話題の“priceline.com”にトライである。5月15日、San Franciscoと入力後、エリアの選択、ホテルランクの指定が続く。
“Concord-Lafayette, Emenyville, Hayward, Oakland, OaklandAirport, Pleasanton & San Ramon, San Mateo-Foster City, Union City, Downtown San Francisco, San Francisco Airport, Select All Zones” から “Downtown San Francisco” をチョイス。“1 Star(Economy), 2 Star(Moderate), 3 Star(Upscale), 4 Star(Deluxe)” から、“4 Star(Deluxe)”を選択する。「サンフランシスコのダウンタウンの四つ星ホテル」を希望というわけだ。“Name Your Price”と出て指値の入力に移る。
 ここは、迷わず100ドルの指値。税金と手数料5ドルが別にかかるとの表示。
 ホテルだって空室では一銭にもならない。それなら相当割り引いたって泊めたほうが得である。指値でオファーをしたからには、空室があれば必ず泊まる。つまり、オファーの際にクレジットカード番号を入力し、アクセプトするホテルがあれば、その時点でチャージされる、というルールのもとに、このリバースオークションは成り立っている。
 名前、カード番号を入力すると、「もう25%予算を増やすと、すごく良いのがありそうなのだけれどどうする」というシステムからのメッセージが続く。うまくこちらの心理を突いてくる。ゲーム性もあって、なかなかのシステムである。しかし、ここは心を鬼にして、「いや100ドルで」と提案を拒否する。
 1時間以内にメールで返事をくれるとのこと。はて、どんなホテルになることやらと、一抹の不安。4つ星と言いながら、すごく安いホテルにかえって高く泊まるなんてことになるのでは、といろいろ考える。 

逆指値が成功、半値で四つ星ホテルに宿泊


 1時間後にメールをチェックすると、「おめでとうございます。XXXXXホテルに宿泊が決まりました。」という仰々しいメッセージから始まるメールが届いていた。結果は、一泊200ドル以上のホテルに泊まれた。チェックインの際も名前を言うだけでOK。部屋も全く普通の部屋である。
 ちょっとした思い付きが、IT技術と一緒になってライフスタイルまで変えようとしている。アメリカのすごさをひしと感じさせられた。これが2000年5月のことであった。
 プライスライン社は、一般消費者が商品の希望価格を提示し,各企業が自社で提供できる価格を示して競り落とすという,いわゆる「リバースオークション」のシステムを開発。この方式で当時話題のビジネスモデル特許を取得している。このリバースオークションの対象を飛行機のチケット、レンタカー、といった旅行関連にとどまらず、住宅ローン、長距離電話および新車販売、B2B や定期生命保険、携帯電話サービスへの進出を始めた。さらに、ガソリンや生鮮食品などにまで,急速にその守備範囲を広げ始めた。
 日本でもソフトバンクの100%子会社であるソフトバンク・イーコマースと合弁で「プライスライン・ドット・コム ジャパン」を設立すると発表。2001年春を目途に旅行関連商品から取り扱いを開始するとの方針、勢いはとどまるところを知らないかのように思えた。
 しかし、破綻が程なくやってくる。2000年9月27日(米国時間)、プライスライン社は9月の航空券の売上が減少したことを理由に四半期の売上は予想をはるかに下回るだろうと発表した。これを受け、同社株は売り浴びせられ、42%も急落し、8ドル安の10.75ドルで取引を終えた。

ウォール街の人気者から窮地のドットコム企業へ


アゴダの日本語サイト 国内外200万軒以上のホテルから選べる

 ウォール街は長い間、プライスライン社がまったく儲けを出していないということは認識していたものの、その事業が天文学的な成長率を見せていることに慰めを見いだしてきた。だが、プライスライン社が利益減の見通しを明かしたことがきっかけで、その成長に疑いが持たれた結果、投資家たちはあっという間に同社から手を引きはじめた。
 結局、6か月間で90%近くと大幅に株価を下げ、ウォール街での「人気者」から「窮地に立つドットコム企業」へ転落したのだ。
 その後次々と問題が出てくる。ソフトバンクグループとの新会社の設立も中止される。12月には株価は1.87ドルまで下がるが、これを受けて、プライスライン社は、従業員の約11%を解雇し、「中核業務に資源を再集中する」ことを決定、再生が始まる。
 OTA(Online Travel Agent、オンライン・トラベル・エージェント)は、実店舗を持たずにインターネット上だけで旅行商品の取引が完結する旅行会社のことを指す。2022年の今、国内では楽天トラベル、じゃらんが有名であるが、世界では、Expedia(エクスペディア)、Priceline(プライスライン)が2大OTAである。
 プライスライン社は、2018年、社名をブッキング・ホールディングス(Booking Holdings Inc.)に変更、Booking.com(ブッキング・ドットコム)、priceline.com(プライスライン・ドットコム)、KAYAK(カヤック)、agoda.com(アゴダ・ドットコム)、Rentalcars.com(レンタルカーズ・ドットコム)、OpenTable(オープンテーブル)の主要6ブランドを傘下に抱える。倒産寸前の中から見事に復活している。
 プライスライン社の主要6ブランドの一つ、agoda.com(アゴダ・ドットコム)はアジアに特化している。ネット上での評判はいろいろあるが、アゴダは、とにかく安い。2022年5月に沖縄の那覇市に出張した筆者が、宿泊先を想定していくつかのサイトを検索した結果、agoda.com(アゴダ・ドットコム)がダントツに一番安い料金を提示、迷わずそのサイトから予約を入れた。

佐藤 俊和(さとう・としかず)
1949年福島県生まれ。 東京大学工学系大学院(修士)修了。79年株式会社ジョルダン情報サービス(現ジョルダン株式会社)設立、代表取締役社長に就任。現在に至る。18年 JMaaS株式会社設立。代表取締役社長。

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記事提供元:タビリス