中国人学者、日本旅を語る②駅弁は日本の文化だ

ジョルダンニュース編集部

車内で食べるとは限らない、自宅や手土産にも


 新宿のデパートで開催される駅弁大会を楽しみにし、東京駅にある「駅弁屋祭」はすぐに売り切れになる日も多いと聞く。旅行雑誌にしばしば登場する駅弁特集はよく売れる。駅弁をテーマにしたブログも花盛りだ。列車の旅に限らず、自宅でも駅弁を食べたい、手土産に駅弁を持っていく。つくづく日本人は駅弁が好きなのだと思う。
 雪国の北海道から南国の鹿児島まで、南北3000キロの鉄道旅行には駅弁が欠かせない。筆者が食べた駅弁では、北海道のイクラやウニ、カニをふんだんにつかった海鮮弁当、秋田の比内鶏、東京のウナギ、岩手黒豚、米沢牛、仙台牛タンなどの駅弁で、その地に泊まらなくても、通過するだけで、地元料理を味わえるのもうれしい。
 駅弁とお茶、そして缶ビールを添えて列車に乗る。荷物を棚に収め、リクライニングの調整をして落ち着いたところで、箸を割り、駅弁を開き、缶ビールをプッシュと開ける。さあ、旅が始まる。あるいはひと仕事終え、自宅に戻る安堵感とともに、箸が進む。


駅弁グッズコレクションにも驚き


 驚いたのは、駅弁の容器だ。神戸に出張した時、明石の「ひっぱりだこ飯」を買った。「明石に行ったら名物の駅弁を食べてみたら」と言われていたのだが、まさかこんな駅弁だとは想像できなかった。「ひっぱりだこ飯」のネーミングも笑ってしまう。茶色の陶製の容器で、外側にはタコのレリーフがある。これはタコ壺を模しているそうだ。インテリアにもいいのではと自宅まで持ち帰ってきた。そのタコ壺を見るたびに、明石を思い出し、神戸を思い出す。
 また、醤油を入れた小さな容器とか、駅弁の包装紙、掛け紙というらしいのだが、こうした駅弁グッズをコレクションしている人がいるのも驚きだ。

中国では旅のエネルギー補充に過ぎない


 一方、中国の駅弁事情はというと、暮らしの向上に伴い、日本の駅弁に似た弁当が広まってきた。とはいっても、日本の駅弁のようにひと目を引く包装紙、ふたを開ければ、その彩や盛り付けにも手間かけていることもなくて、そっけない。旅のエネルギーを補充するような感じで、旅情がそそられることはない。
 しかし、大半の人は、駅弁がそこそこ高いこと、また駅弁を買うほどの経済的余裕がなく、自宅からアルミの弁当箱に食事を詰めて持参している。
 中国人は食にはこだわりがある。様々な香辛料を巧みに使い、焼く、煮る、炒める、蒸すなどバリエーションも豊富だ。しかし、駅弁に関していえば、断然、日本の方が優っている。駅弁は日本文化の一つではなかろうか。

李海(り・はい) 1982年中国四川省生まれ、2001年に来日。2014年名古屋大学文学博士号。東京で約7年間香港メディアの特派員。2019年9月中国に戻り、現在、貴州省の貴州民族大学外国語学院準教授。著書に『日本亡命期の梁啓超』など。

中国人学者、日本旅を語る ① ああ、懐かしいあの温泉
記事提供元:タビリス