観光を起爆剤に誇れるわが街に 深刻さ増すオーバーツーリズム 地域の生活環境悪化、旅行者の満足度低下 渡部晶(財務省勤務)

ジョルダンニュース編集部

 観光に関する話題で、最近毎日といっていいほど耳にするのが「オーバーツーリズム」という言葉である。「特定の観光地において、訪問客の著しい増加等が、地域住民の生活や自然環境、景観等に対して受忍限度を超える負の影響をもたらしたり、観光客の満足度を著しく低下させるような状況」をいう(注1)。

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 この夏、8月26日に、岸田総理は訪問先の沖縄で、沖縄県の観光関係者と車座対話を行った。参加者からは総理に対して、オーバーツーリズムへの懸念への対策や持続可能な観光の推進に向けた意見が出された。総理は、「観光客が集中することによって生じる混乱ですとか、マナー違反による混乱等、いわゆるオーバーツーリズムへの懸念についても、政府として重要な課題だと受け止め、この秋にも、対策をとりまとめていきたい」との注目すべき発言をしたのであった。
 これを受け、9月9日に「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係省庁対策会議(事務局:観光庁)の初会合が開催された。この会議に関する観光庁ホームページの冒頭には「国内外の観光需要の急速な回復に伴い、一部の地域や時間帯では混雑やマナー違反による地域住民の生活への影響や、旅行者の満足度低下への懸念が生じています」との認識が示された(注2)。

観光立国推進のうえで政府の大きな課題に


 この問題はコロナウィルス感染拡大の前からかなり顕在化してはいたが、いよいよ総理が発言し、観光立国推進に向けた大きな課題として、対策の必要性が明確に認められた。上記の関係省庁対策会議では、オーバーツーリズムの海外での事例として、スペイン・バルセロナでの社会問題化のほか、スイス・ツェルマットの対応事例を紹介している。ツェルマットの好事例については、昨年7月25日に掲載された「観光業界はコロナ禍のピンチをチャンスに」で紹介した(注3)。また、ベネチアやアテネなど世界の代表的な観光地でも対策が強化されつつあると報じられている。

外国人観光客で混雑する京都・伏見稲荷の千本鳥居

 筆者も、地域振興関連本を紹介する『月刊コロンブス』の「読書の時間」(注4)において、この問題に触れたアレックス・カー他著『観光亡国論』(中央公論新社)や中井治郎著『観光は滅びない~99.9%減からの復活が京都から始まる』(星海社)を紹介してきた。
 上記の著作で、アレックス・カー氏がいうように、適切なマネジメントとコントロールが重要であり、また、中井氏のほうは、インスタ映えのような文化抜きのテーマパーク化に対し京都の人々が主導権を握って「京都らしさ」を問い直すことを訴えていた。

ビーチやスキー場の入場予約性を


 この問題の解決は簡単なことではない。筆者がかねがね注目する「星野リゾート」の星野佳路代表は9月14日、大阪市内で開いた記者会見で「これからは新しい観光モデルを作る必要がある」とし、オーバーツーリズム対策として、海外のビーチやスキー場で事前の予約制を導入し、人数を制限している例を紹介し、また、現地に長く宿泊してもらうことで観光地までの交通機関の混雑なども解消され地域への経済効果も高まるとして、観光客が滞在期間を延ばしたくなるような取り組みが必要だという考えを示したという(注5)。
 また、別の報道番組のインタビューでは、星野代表は、このオーバーツーリズムが起きている場所は限られているとし、東京・大阪・京都・北海道・沖縄の5か所に、訪日外国人客の65%、半分以上が集中しているという。もっと“地方”に分散してもらうのが課題だとも指摘している(注6)。
 総理発言を契機に、関係者が危機感を持ち、星野代表の意見も踏まえて、観光庁だけに留まらないより総合的かつ効果的な対策が打てるかどうか、今後の動向を注視したいと思う。
(本稿は個人的見解である)

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省財務総合政策研究所長。いわき応援大使。学習院大学法学部政治学科非常勤講師(2023年度前期)。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中

(注1)JTB総合研究所 「観光用語集」より。
https://www.tourism.jp/tourism-database/glossary/over-tourism/
(注2)https://www.mlit.go.jp/kankocho/overtourism_yobou_yokusei.html
(注3)https://news.jorudan.co.jp/docs/news/detail.cgi?newsid=JD1658741369775
(注4)「月刊コロンブス」(東方通信社)
http://www.tohopress.com/?tag=%e6%9c%88%e5%88%8a%e3%82%b3%e3%83%ad%e3%83%b3%e3%83%96%e3%82%b9
2019年5月号、2021年2月号
(注5)オーバーツーリズム問題 星野代表“滞在延ばす取り組み必要” NHK関西 NEWS WEB
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20230914/2000077863.html
(注6)「スラムダンク」聖地に人が殺到…観光地の住民も頭を抱える“オーバーツーリズム” 星野リゾート代表の考える“解決策”【news23】
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/666632?display=1
記事提供元:タビリス