観光を起爆剤に誇れるわが街に 渡部晶(財務省勤務) 観光業界はコロナ禍のピンチをチャンスに

ジョルダンニュース編集部(ジョルダン)

多くの観光客が訪れる浅草。地元は「Go To トラベル」再開に期待

 いわゆる「Go To トラベルキャンペーン」に関して、観光庁は7月14日に、「県民割(地域観光事業支援・ブロック割)」の期限を7月14日宿泊分から8月末まで延長し、さらに7月上旬から開始予定としていた「全国旅行支援」の実施を延期すると発表した。
 この機会に「Go To」をそもそもから考えるのは有意義だ。参考になるのは、『平成の経済』(日本経済新聞出版社 2019年4月)で第21回読売・吉野作造賞を受賞するなど、官庁エコノミストとして著名な小峰隆夫氏(現・大正大学地域構想研究所任期制教授)が昨年2月24日に衆議院予算委員会の公聴会で公述人として述べた意見だ。
 小峰氏は、「経済学的には、コロナ危機下における旅行や外食需要は、いわば『時限的な外部不経済』に当たる。教科書的には、外部不経済(注)に対しては、『行動を抑制した主体に補助金を与えるか』か『行動に課税するか』のどちらかが必要となる。しかし、Go Toキャンペーンは『外部不経済の拡大に対して補助金を与える』ことになっている」という。
 一方、大和総研のエコノミストの鈴木雄大郎氏は、週刊エコノミスト(2022年4月4日)の記事で、「Go To トラベル」再開なら、経済効果は前回を超える4兆円と試算している。業界の期待は高まるばかりだ。コロナの感染防止に絞れば、両氏の論点は真逆といえよう。

「Go To」、反動減への懸念も


 7月17日付日経新聞朝刊で大岩佐和子編集委員は、「全国旅行支援」延期を論じた「公助に頼らぬ集客力を」と題したコラムで、公的支援の効果は一時的で、特典が大きいほど反動減にも見舞われると指摘し、「人材の育成や確保、滞在型需要への対応。割引がなくても集客できる力が問われている」とする。
 この点、今一度読まれるべき問題提起の本として、藻谷浩介・山田桂一郎著「観光立国の正体」(新潮社 2016年11月)を挙げたい。出版時の書評で経営学者の楠木建一橋大学教授は、「著者の山田氏に観光庁長官になってもらえないものだろうか。本書の主張にはそう思わせるだけのものがある」(週刊エコノミスト 2017年2月14日)と論じていた。

「観光立国の正体」の書影


「地域ゾンビ」の跋扈を批判


「第5章 エゴと利害が地域をダメにする」で詳細に語られているが、スイスのツェルマット在住の観光カリスマの山田氏は、GOTO類似の、プレミア旅行券のような施策について、「頑張っていいサービスや商品を作っている地元の真面目な事業者が、やる気をなくし離れていってしまう」とし、日本の観光の今後には、本来値段を引き上げる取り組みこそ必要なのにそれへの逆行であることを厳しく批判する。ベストセラー「デフレの正体」や「里山資本主義」で鋭い論客として知られる藻谷氏も、いまや時代遅れの団体旅行が華やかなりしころを良き時代として施策を望む「地域ゾンビ」の跋扈(ばっこ)を厳しく批判する。
 小峰教授は、先の公述人の意見陳述で、コロナ危機が「望ましい方向に転ずるきっかけとなりうる面」があることに期待をし、藻谷・山田両氏は日本の観光業についてコロナ危機以前の出版当時から「ここまでひどいと後はいい方向に変化するしかない」としていた。
 ピンチはチャンス。日本の観光業の積年の課題を考える大きな機会である。(本稿は個人的見解である)

(注)「外部不経済」とは、イギリスの経済学者でケインズの先生になるA.マーシャルが用いた言葉で,市場を通じて行われる経済活動の外側で発生する不利益が,個人,企業に悪い効果を与えることをいう(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)。

渡部晶(わたべ・あきら):1963年福島県平市(現いわき市)生まれ。京都大学法学部卒。1987年(昭和62年)大蔵省入省。福岡市総務企画局長を30代で務めたほか、財務省大臣官房地方課長、(株)地域経済活性化支援機構執行役員、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)、沖縄振興開発金融公庫副理事長などを経て、現在、財務省大臣官房政策立案総括審議官。いわき応援大使。デジタルアーカイブ学会員。産業栽培メディア「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラム「読書の時間」を執筆中。