連載 令和30年に思いを馳せて 未来を考える⑤ 人間並みの知能を備えたAIによって社会が変わる

ジョルダンニュース編集部

 パーソナル・コンピュータという言葉の名付け親は、1972年にゼロックスの研究所で働いていたアラン・ケイである。日本ではパソコンという言葉が普及したが、これは私の高校の同級生で、朝日新聞社に入社した三浦賢一さんが名付けたように記憶している。三浦さんは、朝日パソコンという雑誌の立ち上げに関わる。ジョルダンが乗換案内を開発、販売を始めた頃と時期が重なっており、私たちはよく会い、テクノロジーの未来のことを話した。

AIは私たちの社会をどんなふうに変えるのだろうか

 まだ、インターネットの商用化は始まっていない頃のことである。パソコン通信がはやり始めていた。「究極のトラベル」について、パソコン通信の先に旅先の映像が現れ、まるで実際に行ったような擬似体験までできるようになる。それでも実際にその場に行くと感激はひとしおである、私はそう考えた。三浦さんは実際に移動する必要は無く、脳に直接刺激を与えればそれで十分ではないか、と話していた。未来を描いた映画に、人間の脳が保存されている画像が出てきて、脳同士がコミュニケートしている場面が強く印象に残っている。まさにあの世界が、「究極のトラベル」なのかもしれない。
 シンギュラリティ(技術的特異点)に触れたが、レイ・カーツワイル博士らが示した未来予測では、2029年にはAIが人間並みの知能を備え、現在の社会的なシステムが変化すると言っている。雇用はどんどんAIに置き換わり、ベーシックインカムの導入が始まり、脳や臓器は人工物で代替される。2045年に技術的特異点が来る、というのは、「AIが自ら人間を超えた賢い知能を持つ時が到来し、人間が予測不可能なことが起きると推測されていること」ということである。

人類のしもべ、あるいは人類統治の神なのか


 AIが人間の知能を超えたとき、そこからがコンピュータは早い。「連載4変化を牽引するもの」で記したように、コンピュータの価格性能比は、1年で2倍である。10年もしたら人間よりも1000倍賢くなる。そのときのコンピュータは、人類のしもべなのか、仲間なのか、あるいは人類を統治する神なのか。さまざまな議論がなされている。ゾッとするようなイメージではあるが、コンピュータは神になる。その頃には今の博物館に相当するものに、物体としての人間が展示されている。一部の人間の脳は保存され、その脳同士が対話をしている。三浦さんの考えた未来のイメージは、その世界をみていたのかもしれない。
 時間を前に戻し、現在のことを考えよう。このところ再びAI(人工知能)が盛り上がっている。1980年頃、第5世代コンピュータ計画が日本で話題になったことがある。1982年、通産省所管の新世代コンピュータ技術開発機構(ICOT)が設立され、第5世代コンピュータ計画が始動した。当時、フランスで研究されていたPrologというプログラミング言語をベースにした一大プロジェクトである。およそ10年の歳月と540億円の予算が費やされたが、結局このプロジェクトは失敗に終わった。

産業インフラとして欠かせない集積回路

衝撃が走った囲碁棋士がコンピュータに負けた


 それからAI(人工知能)は冬の時代を迎える。所詮、コンピュータは単なる計算機、知識を持つなんてあり得ないと、ほとんどの人が考えるようになった。ところが2015年、囲碁の世界チャンピオンのイセドルがコンピュータと対戦、Google傘下の人工知能研究所DeepMindが開発したAlphaGo(アルファ碁)に負けてしまった。このことが大きなニュースとして世界中に流れる。私も自分の目の黒いうちに囲碁でコンピュータが人間に勝つことはありえない、と考えていただけにショックだった。
 ディープラーニングという新しい手法が登場してきたのである。これまでの論理的なつながりを重視するやり方ではなく、人間が知識を得ていく過程をそのまま踏襲したようなやり方、何万枚もの動物の画像を見せながら、これは犬、これは猫と教えていく。すると、やがてみた画像からこれは犬、これは猫と判断することができるようになる。コンピュータの性能の向上とインターネットの普及で膨大な画像が簡単に取得できるようになったことが背景にある。
 アルファー碁は、2015年に世界チャンピオンのイセドルを破った後、コンピュータどうしでの対戦を繰り返し、さらに強くなっていく。2017年5月、世界レーティング1位の中国のプロ棋士、柯潔(かけつ)が人類の「最後の砦」として対戦する。しかし、この対戦もコンピュータの3戦全勝であった。以後、DeepMind社は人間との対戦をやめ、新たなバージョンとなるAlphaGo Zeroを開発、これにて開発を終了する。

進化が著しい ディープラーニング


 ディープラーニングは、音声・画像・自然言語を対象としながら、どんどん進化している。チャットボットという会話でやりとりをする技術が一般消費者とのやりとりで用いられ始めている。私がはじめて有力なチャットボットの存在に気づいたのは、5年以上前、ラスベガスの宿の予約サイトを使っていたときである。
 予約までは、通常の日本のネットサイトと同じである。エリア、日付を入力し、リスト表示されたホテルの中から、自分の好みのものを選ぶ。キャンセルしようとした場合、通常は予約したホテルを表示し、キャンセルボタンを押す、というやり方であるが、なぜかこのサイトのオペレーションは違う。キャンセルボタンはなく、テキストを入力する欄が表示されているだけである。おそるおそるキャンセルしたい旨、入力していくと立ちどころに返事が返ってくる。あたかも対話をしているような感覚である。入力されたテキストを解析しながら、即座にコンピュータが答えを返してくるのである。

佐藤 俊和(さとう・としかず)
1949年福島県生まれ。 東京大学工学系大学院(修士)修了。79年株式会社ジョルダン情報サービス(現ジョルダン株式会社)設立、代表取締役社長に就任。現在に至る。18年 JMaaS株式会社設立。代表取締役社長。

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記事提供元:タビリス