連載 令和30年に思いを馳せて 未来を考える④ 高性能と価格低下のコンピュータが促す大変化
2022/8/4 0:48 ジョルダンニュース編集部
暮らしを大きく変えた車社会とICT
この連載は、平成の30年の間に、世界の時価総額ランキングで日本企業はこんなに弱くなったということから始まった。30年という時間では、街の風景を例にとれば、それ程大きくは変わないように思う。例えば東京、高層ビルの数こそ増えはしたが、主要ターミナルも道路もほとんど昔と同じである。六本木のように大きく発展したエリアもあるが、ほとんどところでは、街並みは昔からそう大きくは変わっていない。それでもよくみると、コンビニはおそろしいほど増え、商店街からは本屋も電気屋も金物屋も殆ど消えている。私がよく入った喫茶店-タバコが吸え、コーヒーが飲める昔ながらの店―はなくなり、スターバックス、タリーズといったチェーン店が増えている。電車に乗ると新聞、雑誌を読んでいる人はおらず、皆、携帯電話を見ている。
地方の商店街の変化は、そもそもは車社会の到来が原因である。最近では、ネット通販の拡大により、都市でも商店は消え始めている。通勤電車の風景の変化は、誰もが携帯電話を持ち始めたことによる影響が大きい。モータリゼーションとICT(情報通信技術)が、変化を引き起こしているのである。
街の風景がガラッと変わるには、一体、どの位のスパンが必要なのだろうか。仮に百年としてみよう。百年前は、まだ生まれてはいないので、昔の報道や写真との対比になるが、あまりにも大きな変化に唖然とする。東京都内の主要なターミナルの位置はほぼ現状と同じだが、賑わいは圧倒的に少ない。私鉄が開通し始めた頃だし、道路はあるが狭く、車は走っていない。電車、車といった移動のための手段はまるで異なる。道ゆく人の服装もまるで違う。風景は今とは大きく異なる。
中東の石油が発展と変化を加速
第二次世界大戦での爆撃で焼け野原になるというアクシデントはあったが、大きな変化は、中東に大規模油田が相次いで発見されてからのことである。石油が安価に大量に手に入るようになり、エネルギー源が石炭から石油に変わり、石油化学工業が発展する。東京への人の集中が進む。移動のための公共交通のインフラの整備がなされていく。石油化学工業の発達は、ありとあらゆる日用品を変え、もちろん洋服に至るまで大きく変化した。
つまり、百年経ったから風景が変わったのではなく、1950年以降の中東の石油の安価な提供で変わったのである。さらに、コンピュータの出現も大きい。世界最初のコンピュータENIACが完成したのが1946年、IBMのSystem/360、メインフレームの発売が1964年である。ここから飛躍的なコンピュータの性能UPが始まる。通信の機能の向上も同時に進み始める。
長距離列車の座席予約を考えてみよう。最初は、駅ごとに座席数を決めておくしかなかった。遠距離通信が安価にできれば、駅ごとに割り振った座席数を、発売状況に応じて調整できる。さらにコンピュータの出現が、それまで人手に依存していた部分を大きく変えた。
iPhoneは50年前の最高水準のコンピューター以上
この間のコンピュータと通信の発展は異常ともいうべきものである。科学技術的には次のようになる。コンピュータの基礎となる集積回路上のトランジスタ数は2年で2倍になる(ムーアの法則)。性能が2年で2倍、価格は2年で1/2である。つまり性能価格比は、1年で2倍という状況が1960年代から継続しているのである。
通信に関しては、アメリカの経済学者ジョージ・ギルダーは、2000年に「通信網の帯域幅は6か月で2倍になる」というギルダーの法則を提唱する。実際にはそのスピードからするとかなり落ちるが、これもまた1年で2倍くらいの性能価格比が継続しているのである。
1年で2倍というのは、10年で1000倍、20年100万倍、30年で10億倍、指数関数的な異常さである。現に今や誰もが持ってるiPhoneも50年前、東大計算機センターにあった日本で最高のコンピューター以上の性能である。まさに異常とも言えるICTのとどまらない進展である。
コンピュータは高性能化し、価格が猛烈に下がる。通信もコンピュータと同じように高速化し、価格が下がる。その後登場してきたインターネットは、すべてのコンピュータをつないでしまった。世の中が変化しないわけはない。
佐藤 俊和(さとう・としかず)
1949年福島県生まれ。 東京大学工学系大学院(修士)修了。79年株式会社ジョルダン情報サービス(現ジョルダン株式会社)設立、代表取締役社長に就任。現在に至る。18年 JMaaS株式会社設立。代表取締役社長。
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記事提供元:タビリス