遅れている日本の無電柱化。東京都の現状と課題~「小池知事と語る、東京の無電柱化」~

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日本全国で当たり前のように立っている電柱、張り巡らされた電線


「電柱王国」と揶揄されることもある日本。どの都市へ行っても電柱や電線はありふれた日常の光景だ。全国には約3,550万本の電柱が立っており、毎年約7万本ずつ増えているという。

国土交通省がまとめた資料によれば、ロンドン、パリ、香港などはかなり早い時期に100%の無電柱化率を達成し、台北(95%:2013年時点)、シンガポール(93%:1998年時点)などアジアの主要都市も高い無電柱化率となっている。それに対して東京23区はわずか8%、大阪市は6%(いずれも2016年度末時点)にすぎない。

国内においても1970年代頃から少しずつ無電柱化・電線類地中化の取組みはみられたが、以前は電力会社や電話会社など「電線管理者」による主要道での独自の対策、あるいは大規模分譲地における民間デベロッパーや公団・公社などの対策が主体であり、投資効果を見込むことのできる限られた区間の地中化にとどまっていた。

1986年に制定された「第1期電線類地中化計画」によって国や自治体なども計画・施行に関与するようになったが、コスト面の問題や長い工期に対する住民の不満などもあり、なかなか計画が進まないケースも多い。

だが、林立する電柱をこのまま放置するわけにはいかない。都市景観の問題だけでなく、首都直下地震など想定される大災害に備えるためにも、無電柱化を促進しなければならないだろう。そこで国は「無電柱化の推進に関する法律」を定め、2016年12月16日に公布・施行した。この法律において「11月10日」を「無電柱化の日」としている。「1」を電柱に見立て、3本並んだ電柱を「ゼロ」にするという意味が込められているようだ。


都市の住宅地には無数の電柱が立てられ、電線が縦横無尽に張り巡らされていることが多い



「無電柱化の日」に合わせ、東京都庁では知事参加のイベントが開かれた


無電柱化推進法が施行されてから初めての「無電柱化の日」となった11月10日には、各地で無電柱化をテーマにした催しがあった。それらのうち、夕方から東京都庁で開かれたのは「小池知事と語る、東京の無電柱化」(主催:東京都)だ。

東京都内在住・在勤・在学の人を招いて開かれたイベントには、小池百合子東京都知事のほか、コメンテーターとして放送プロデューサーのデーブ・スペクターさん、元文化庁長官の近藤誠一さんが出演し、フリーアナウンサーの石山愛子さんがコーディネーターを務めた。

それぞれの挨拶や自己紹介、さらに5分ほどの「無電柱化PR動画」上映の後、無電柱化に関する課題などについて、参加者から事前にいただいた質問などを交えながら、知事・コメンテーターによる意見交換、トークが展開された。

PR動画や参加者に配布された資料で挙げられた「無電柱化の目的」は次の3つに集約される。
□ 都市防災機能の強化
□ 安全で快適な歩行空間の確保
□ 良好な都市景観の創出

都市防災機能の強化は、首都直下地震など発生が懸念されている災害を念頭においたものだ。大地震によって電柱が倒壊すれば道路を塞ぎ、住民の避難や消火・救援活動、災害復旧などに大きな障害をもたらしかねない。垂れ下がった電線による感電事故や火災のおそれもある。

安全で快適な歩行空間の確保は、一般の歩行者だけでなく車椅子やベビーカーの通行の妨げにもなっている電柱の現状を改善し、それと同時にバリアフリー化を進めようとするものだ。

良好な都市景観の創出については、景観を損ねる原因となっている電柱や電線をなくすことで「世界に誇れる安心で美しいまちにしたい」という理念が語られた。


東京都「無電柱化ってなに?」パンフレットより引用



2020年は「見えないインフラ」に転換するよい機会


東京都における「地中化率」は、2017年3月現在で区部が57%、多摩地域が18%であり、全体では39%(整備済延長913km)だという。とくに「センター・コア・エリア(おおむね首都高速中央環状線の内側エリア)」の地中化率は90%を超えている。

だが、これは「計画幅員で完成した都道」に限った数値であることに留意しておきたい。都道よりも圧倒的に総延長が長い区市町村道では、ほとんど無電柱化が進んでいない状況だ。23区内の「区道」では無電柱化率が3%強にすぎないとする民間の調査結果もある。そして、区道を含んだ「東京23区全体の無電柱化率」が冒頭に挙げた「8%」だ。

いまの東京あるいは日本における「電柱・電線」の状況についてどう考えているのだろうか。

「私自身は無電柱化に20世紀から取組んできた(注:知事が衆議院議員時代から取組んでいた政策の一つ)が、昨年になってようやく国の法律ができ、今度は東京都で条例をつくった(注:東京都の無電柱化推進条例が2017年9月1日に施行された)。制度面での促進策については準備ができたので、2020年の五輪東京大会は『見えるインフラ』から『見えないインフラ』に転換するよい機会だと考えている」(小池知事)

「私はユネスコ大使をしているときに世界遺産の登録にも携わった。世界遺産に指定されると景観が大事になるけれども、日本の現状はちょっと恥ずかしいと感じていた」(近藤誠一さん)

「(初めて来日したときに日本の電線を見て)あまりにも多くて『カラスの陰謀かな』と思ったくらい。海外、とくにヨーロッパやアメリカなどへ行くと、都会には電柱がまったくなく、よほどの地方へ行かないと電柱はない」(デーブ・スペクターさん)

また、参加者からの意見もいくつか紹介されたが、ロサンゼルスに10年暮らして帰国したという50代女性からの感想が印象的だった。
「東京に乱立する電柱に違和感をもち、日本は知事のいう『電線病』にかかっていると強く共感する。知事は災害時の安全を第一理由としているが、無電柱化の本当のモチベーションは日本のプライドだと感じている」


意見を交わす小池百合子東京都知事、デーブ・スペクターさん、近藤誠一さん



無電柱化工事のコストダウンはできるのか


2017年9月1日に施行された東京都の「無電柱化推進条例」では、「道路法第37条第1項の規定による道路の占用の禁止」を適用することで、都が管理する道路全線において「電柱新設」を禁止した。これによって電柱の増加は抑制されるだろうが、既存道路における無電柱化には課題も多い。標準的な施工単位(道路延長約400m)の整備に7年程度(電線共同溝の場合)かかるとされる工期、そして1kmあたり5.3億円(国土交通省試算)にのぼる費用だ。

このコストの問題についてはどのように考えているのだろうか。

「無電柱化のコストは電柱を立てる場合の約20倍といわれているが、無電柱化が進むことでコストダウンは可能。交通量の少ない道路では『浅層埋設』の技術もあるし、直接埋設の方法も研究している。地上に置くトランスを小型化するなどの改良や量産化もコストダウンにつながる。それらによって無電柱化を加速させる」(小池知事)

また、防災面でも無電柱化は喫緊の課題になっているが、都道だけでなく生活道路としての区市町村道での対策も欠かせない。ちなみに、東京都内における電柱は都道に約5万9,000千本、区市町村道に約69万5,000本、合わせて約75万4,000本(2014年3月末時点)とされ、市区町村道の電柱が9割以上を占めている。

「阪神大震災のときには住宅密集地で電柱が倒れ、救助の妨げになるケースがあった。何よりも人の命を守ることが大事だ。その一方で、災害復旧の際に仮設の電柱が立てられ、それがいつの間にか恒久的なものになってしまう例も多い。道路が狭いところほど歩行空間を確保しなければならないし、狭いところほど救急車や消防車が通りやすくしておけなければいけない。それぞれのまちづくりのときに優先順位を決めておくことが必要と考える」(小池知事)

東京都では区市町村道の無電柱化事業として「無電柱化チャレンジ支援事業制度」を設け、区市町村に対する財政支援、技術支援などを始めた。かなり遅れ気味だった区市町村道における無電柱化も、以前よりスピード感をもって進むことになりそうだ。


住宅地における既存の生活道路でも無電柱化される事例が少しずつ増えている



「当たり前のこと」を、もう一度改めて考えてみたい


無電柱化を進めるときには、長期間にわたる工事によって住民から苦情が続出することも多いという。騒音や振動、通行止めだけでなく、商店や飲食店なら営業への影響もあるだろう。何よりも住民の理解を得ること、無電柱化に関心を持ってもらい協力を得ることが欠かせない。

「新幹線で京都へ向かうときなど、富士山を見ようとしても車窓風景は電線だらけ。これでは世界に誇る富士山が悲しい。また、静岡駅方面から三保の松原へ向かう道も正面に富士山が見えるのだが、ほとんど電線が縦横無尽に走っている。観光立国の側面からも無電柱化を考えていかなければならない」(近藤誠一さん)

「これまでの都市づくりが無計画でやってきたのも事実だろう。それでも(戦後)いつの間にか急成長してきた。それが東京のバイタリティーでもあるけれど、それと危険な電柱や電線は別の話だ。もっともっと早くやってもよかった気がする」(デーブ・スペクターさん)

「無電柱化を進めるうえで『心・技・体』が重要。街をもっと美しくしたいという『心』、技術をどうするのかという『技』、制度などの体制づくりとしての『体』、この3つが揃えばうまくいく。2020年の東京五輪はちょうどよい目標、きっかけ、機会になる。これまで電柱のあることが当たり前で『馴染みすぎて考えもしない』という人が圧倒的に多かったと思う。『当たり前のことが何なのか、もう一度改めて考えてみましょうよ』という考えだ」(小池知事)

2020年にはマラソン中継や現地リポートなどで東京の景観が世界に発信される。日本各地の都市景観や自然風景を世界へ紹介する映像も増えるだろう。テレビカメラがどこへ向けられても、電線が画面を横切ることがないように願いたいものだ。もちろん2020年だけでなく、次の大災害が起きる前に少しでも無電柱化が進んでいることを望みたい。


都道における無電柱化は年々進みつつある。東京都公表資料をもとに作成



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