“熊本地震からのすまいの再建”がテーマ『くまもとアートポリス建築展2017シンポジウム』

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シンポジウムや写真展などが開催された、くまもとアートポリス建築展2017


熊本県が1988年から継続して進めている「くまもとアートポリス(以下、KAP)」。これまでに数々の優れた建築物を生み出してきた。2016年4月に熊本地震が発生してからは、仮設住宅や被災者の交流の場となる“みんなの家”の整備にも取り組んでいる。KAPと連携する学生たちの被災者支援プロジェクト「KASEI」の活動については、以前の記事でも紹介した。

今年度開催されている「くまもとアートポリス建築展2017」も、メインテーマは熊本地震からの復興だ。熊本市現代美術館で来年1月8日まで開催中の「みんなの家の展覧会」と、12月10日に行われたシンポジウムを見学してきた。

「みんなの家の展覧会」を企画したのは、“みんなの家”の建設や運営に携わる建築家ユニット、クライン ダイサム アーキテクツ。展示作品は、仮設住宅の入居者たちが一眼レフカメラの使い方を学んで自ら撮影した、熊本地震後の暮らしの情景だ。

会場で上映されている、撮影者たちのインタビューが印象的だった。「被災後は写真を撮るのも撮られるのもいやだった。でも、自分たちには記録を残す義務があると思った」と語る男性は、地震で傾いたままの地蔵を撮った。また、ある人は「写真撮影という難しいことに挑戦する気持ちが、自分の中に残っていた。まだ終わりじゃないと思った」と語る。カメラを手にすることで、空や花や人々の表情の変化に気付くようになったという人もいた。

農地に刻まれた断層の傍らで、再開された農作業。仮設住宅の前に収穫した野菜を広げて仕分ける人。祭りの風景や遊ぶ子どもたち、談笑する人々、犬や猫の愛らしい表情…。鑑賞者にとっても、改めて日々の暮らしがいとおしく思えるような写真の数々だった。


熊本市現代美術館で開催された「みんなの家の展覧会」(2017年11月17日~2018年1月8日)。“みんなの家”をモチーフに、熊本県産の杉とい草を使った家型の展示空間で写真を鑑賞できる



KAPコミッショナー伊東豊雄氏、熊本県知事らが住まいの再建を語る


2011年の東日本大震災の折、KAPコミッショナーの建築家・伊東豊雄氏は、KAPの会議で、被災地に“みんなの家”を建てることを提案した。「避難所を訪問した際、仮設住宅に行きたくないという声を耳にした。人のつながりが断たれるからだ。コミュニティーの拠り所になる場所をつくることならできると考えた」と伊東氏。この意見はすぐに蒲島郁夫熊本県知事に伝わり、県産の木材や畳表などの提供も決まった。2011年10月、仙台市宮城野区に“みんなの家”第1号が完成した。

シンポジウムに登壇した前仙台市長・奥山恵美子氏は、当時を振り返り「伊東さんの“みんなの家”という言葉が温かかった。被災した方々にとって、“みんなの家”を建てるという目標を持つことが、前を向く契機になった」と語った。

熊本地震の発災後すぐ、蒲島知事は「復旧・復興の3原則」の第一に「被災された方々の傷みを最小化する」という目標を掲げた。本震直後に駆けつけた伊東コミッショナーに応急仮設住宅の配置計画立案を依頼。1戸当たりの敷地を従来の1.5倍に、建物の間隔も広くして、ペットも飼えるゆとりある計画にした。一部ではあるが木造で建てたのも特徴だ。さらに、国と協議し、20戸以上の応急仮設住宅団地に木造の“みんなの家”を整備した。

20戸未満の仮設団地については、日本財団の「わがまち基金」によって“みんなの家”を建てている。日本財団では、本震発生の10日後に熊本県と協定を締結。県庁前に復興支援センターを設置してボランティア活動や物資の支援などをサポートした。同財団経営企画部長の荻上健太郎氏は「東日本大震災での教訓を踏まえて、全体を俯瞰しながら活動できる体制を築いた」と語る。

また、日本財団はいち早く、熊本城再建への出資も決めている。「発災直後、生活再建もこれからというときに、熊本城への出資には議論もあった」と荻上氏。しかしこれは蒲島知事の「復旧・復興の3原則」の残る2つ「創造的な復興」「さらなる発展」につながるものだ。蒲島知事は「大変ありがたかった」と謝意を示した。日本財団は来年から、コミュニティの拠点となるよう、被災した公民館を“みんなの家”として再建していく計画だ。

今も熊本では、約4万4000人が仮設住宅で生活している。今後の課題は自宅再建だ。自主再建できる人もいれば、災害公営住宅への入居を希望する人もいるだろう。熊本県では、それぞれの選択に応じた支援を用意している。

まず、いち早く自主再建に取り組む人には、日本財団が住宅ローンの利子を補助。自治体ではなく民間が行うことで「“公平さ”に縛られることなく、早期に立ち上がれる人の背中を押すことができた。それを見て、後に続く人が出ればいい」と荻上氏。

熊本県と建築関係団体などは「くまもと型復興住宅」を提案、建物本体が1000万円以下のモデルハウスを仮設団地に建設、展示した。また、子育て世帯なら、一定額まで利子負担ゼロ、月々2万円~で再建できる制度を用意。高齢世帯には、リバースモーゲージ(土地建物を担保にし、利子のみ返済する制度)を利用できるようにした。

賃貸住宅に入居する世帯には、仲介手数料や礼金などの初期費用を助成。さらに、すべての世帯に対して引っ越し費用を援助する。災害公営住宅の一部はKAPの事業として建設する予定だ。伊東氏は「幸い熊本は土地にゆとりがあるので、低層で木造の温かみのある住宅にしていきたい」と語った。蒲島知事は「木造の仮設住宅を公営住宅に転用することも検討中」と応じた。

熊本で実現した、“みんなの家”のある応急仮設住宅団地は、今後のモデルケースになりえるだろう。蒲島知事は「復興の過程における成功も失敗も、広く発信していくことが重要だ」と語った。


シンポジウムの様子。登壇者は左から、KAPコミッショナーの伊東豊雄氏、前仙台市長の奥山恵美子氏、日本財団経営企画部長の荻上健太郎氏、蒲島郁夫熊本県知事



地震を乗り越えて完成した3プロジェクトの関係者が登壇


シンポジウムでは、熊本地震をまたいで設計・施工が行われ、無事完成にこぎつけた3つのKAPプロジェクトの関係者から報告が行われた。

阿蘇温泉病院の老人福祉施設の敷地内に建てられた“みんなの家”は、2012年7月12日の九州北部豪雨で受けた被害を教訓に、平常時は高齢者のリハビリや地域住民の交流の場に、災害時は防災拠点にする目的で計画された。設計は国際学生コンペで選ばれた、九州大学と韓国・延世大学の合同チーム。代表の古里さなえ氏は「多様な空間が大きな屋根の下でつながることを目指した」と語る。着工1ヶ月前に熊本地震が発生。病院総院長の下村貴文氏は「こんなときこそ予定通りにつくらなければ、と着工に踏み切った」と振り返る。資材価格が急騰し、コスト調整に苦労したが、最後は学生たちが自らコンクリートを練り、芝を張るなどして完成させた。

大腸肛門病センター野病院は、着工後に地震に見舞われ、3ヶ月の工期遅延を経て今年7月に竣工した。院長の山田一隆氏は、地震時において病院がどのように対応したかを報告。患者・職員・建物それぞれへの対応に追われる中で、情報・指示系統の一本化が鍵になったという。新病院の設計者のひとり、共同建築設計事務所の川島浩孝氏は「基礎が小さくてすむ鉄製の免震装置を提案。非常用発電や水の確保など、災害時も医療が続けられるように工夫した」と説明した。

熊本県総合防災航空センターは、九州全体の広域防災拠点として計画された、消防と警察合同の施設だ。巨大な平屋の建物の下部は鉄筋コンクリート造だが、上部は県産木材を使った木造架構になっている。「特殊な木材ではなく、住宅にも使う12センチ角の流通材でつくれるよう工夫した」と、設計のアトリエ・シムサ、小川次郎氏。

建て主を代表して登壇した熊本県危機管理防災企画監の有浦隆氏は、熊本地震で救命救助の総指揮に当たった。その折に、阿蘇郡西原村で起きた「奇跡」を紹介。本震時に9人が生き埋めになったが、夜間にもかかわらず、わずか2時間半で全員を助け出したという。背後には10年以上続けてきた全員参加の防災訓練と事前の役割分担があった。消防団は各家の寝室の位置まで把握しており、素早い救助につながった。

阿蘇温泉病院の下村氏は「今回の熊本地震では公助・共助・自助が活きた。日頃からの準備が大事だ」と振り返る。この経験を共有するべく、熊本県の医師たちが全国で講演活動を行っているという。ほか、登壇の建築関係者からは、被災時に活動を継続できるハードの構築、日頃からコミュニティを形成する場を設ける必要性などが指摘された。

また、KAPアドバイザーの末廣香織氏は次のように語った。「今年7月に起きた九州北部豪雨では、すべての応急仮設住宅が木造で建てられた、これは、東日本大震災以降の数々の経験を踏まえ、福岡県が業界団体と防災協定を結んでいたから可能になった。今後は、こうした知恵の共有がますます重要になるだろう」


登壇者は左から、KAPアドバイザーの曽我部昌史氏、KAPプロジェクト「大腸肛門病センター高野病院」設計者の柳澤潤氏、病院長・山田一隆氏、設計者・川島浩孝氏、「阿蘇内牧温泉みんなの家」の阿蘇温泉病院病院長・下村貴文氏、設計者代表の古里さなえ氏、KAPアドバイザー・末廣香織氏、「熊本県総合防災航空センター」熊本県危機管理防災企画監・有浦隆氏、設計者の小川次郎氏



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